Apple 2025年秋の新製品発表会で見えた“デザイン会社”としての復活(1/2 ページ)

» 2025年09月11日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]

 Apple新製品を見に、世界中からApple本社内のSteve Jobs Theaterに集まった記者やインフルエンサーたち。同社のスペシャルイベントでは、Apple CEOのティム・クック氏は予定時間よりわずかに早く登壇して来場者にあいさつすると静かに舞台を去り、新製品を発表する映像が流れ始めた。

 暗くなったスクリーンに最初に映し出されたのは、こんな言葉だった。

「デザインは単なる見た目や感触ではない。どう機能するかだ」(スティーブ・ジョブズ)

スペシャルイベントの冒頭で公開されたメッセージ スペシャルイベントの冒頭で公開されたメッセージ
Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 スペシャルイベント後に展示された「iPhone Air」

 この時点で、今回の発表会がいつもとは異なることがハッキリし、期待がこれまで以上に高まった。果たして発表された「iPhone Air」と新しい見た目となった「iPhone 17 Pro」は、まさにその期待に応えるものだった。

 Appleは世界でもトップクラスにデザインや物作りと真剣に向き合っている会社だ。だからこそ1度突き詰めた形を、あまり頻繁に大きく変えることはしない。それを物足りなく思うユーザーも少なくない。

 それだけに、数年に1度行われる新カテゴリーの製品の発表には胸が高鳴る。

 発表されたのが、多くの人が「Appleらしい」と感じる精緻な物作りを体現し、ミニマルの中にも洗練さを感じさせる製品であればなおさらだ。

 発表会後に見た実際のiPhone Air、そしてiPhone 17 Proは、期待を全く裏切らなかった。

Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 初代MacBook Air、iPad 2、iPad Airなど、Appleの歴史において、時折、革命的に薄い製品が出てきては市場で歓迎を受けてきた。今回のiPhone Airも、その伝統に恥じない洗練で薄さを実現していた

Appleだからできたカタチ!?

 両製品に共通するのは、製品幅いっぱいに広がったプラトー(高台)のデザインだ。一見すると、Googleのスマートフォン「Pixel 10」シリーズが採用しているカメラバーにも似て見える。

 製品の薄さを保ちつつも、高性能なカメラを搭載したいとなるとカメラ部分の隆起は避けられない。それをどのように製品全体の見た目やアイデンティティーとしてまとめるかを突き詰めていくと、このようになるのだろう。

Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 台の上に置かれたiPhone Airを見ると、その驚くまでの薄さを強く実感できる
Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 同時に発表された完全ワイヤレスイヤフォンの「AirPods Pro 3」(右)と比較しても極めて薄いことが分かる

 ただし、iPhone 17 Proでは空間写真/ビデオの撮影のために3つあるレンズの2つを上下(縦位置の場合)に並べる必要があり、高さがレンズ2つ分となる。またPixel 10では複数のレンズを黒い枠で囲ってレンズの数を見えにくくしているが、iPhoneの場合は、レンズが1つならiPhone Air、2つなら「iPhone 17」、3つならiPhone Pro/Pro Maxとレンズの数が製品モデルを示すアイデンティティーとなっており、むしろレンズの存在感を強調している部分がある。

Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 iPhone Airのカラーバリエーション。左から順にスカイブルー、ライトゴールド、クラウドホワイト、スペースブラック。256GBモデルで15万9800円だ
Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 こちらはiPhone 17 Pro。左からディープブルー、シルバー、コズミックオレンジだ。256GBモデルで17万9800円となっている

 似て非なる両者のプラトーだが、私はiPhone Airのプラトーを見て、Googleのデザインチーム長であるアイビー・ロス氏のことを思い出していた。かつて別媒体で彼女をインタビューした際、「現在、段差になっているカメラバーを本来はなだらかに隆起させたかったが、ガラスでその形にすることは難しく、代わりにエラストマー素材の純正ケースで、そのなだらかな隆起を形にした」と語っていた。

 iPhone Airでは、同じガラスの背面素材で、まるで本体背面に広がった水たまりのようななだらかな隆起が実際に形になっていた。

 多くのメーカーでは、製品の見た目の美しさのために研究開発を含め、そこまでの費用や労力をかけることができない現実がある。

Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 iPhone Airのプラトーは、なだらかなカーブを描いて隆起している。ガラスでどうやったらこのような形を作り、しかも、年間数千万台単位での量産ができるのか。Appleの作り方や量産計画そのものを新たに発明するデザイン部門のアプローチ、たびたびデザイン業界を驚かせた

 しかし、その超えられない一線に投資し、差別化できるのがAppleだ。

 見た目や感触ではない機能のデザインにも時間と労力をかけるが、使う人の心を躍らせる見た目の美しさにもしっかりとお金と労力をかける。

 いや、なだらかな隆起には実は「機能」の側面もある。もし、iPhone Airのプラトーが段差になっていたら……おそらくカバンの中にiPhone Airを滑り込ませる度に、紙の書類だったり他のさまざまなものがそこに引っかかり、小さな引っ掻き傷をたくさん作ったり、書類に折れ目を作ってしまったりしたことだろう。

 プラトーのエッジについたなだらかさが、製品の形を見れば、そういった引っかかりを軽やかにかわす様子を想像できる。

Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 iPhone Airには、豊富な専用アクセサリーが用意されている。左端は本体背面にマグネットで吸着する「iPhone Air MagSafeバッテリー」(1万5800円)だ。装着すると最大40時間のビデオ再生ができるようになる。左から2番目が、透明なiPhoneケース「MagSafe対応iPhone Airケース」(7980円/シャドウ、白いフロストもある)、3番目が「iPhone Airバンパー」(6480円)の本体色と合わせたライトブルー(カラーバリエーションは計4色がある)。ケースとバンパーには肩からかけられる「クロスボディストラップ」(9980円)を付けられる。最初からユーザーがどのように利用するか想像を巡らせ、本体と同時にケースもデザインしていたことが伺える
Apple iPhone 17 Pro Air スペシャルイベント デザイン Liquid Glass iOS 26 別売のクロスボディストラップ(9980円)は10種類のカラーバリエーションがあり、スナップボタンを外して簡単に着脱できる。このファブリックのストラップ自体が磁性を帯びており、長さ調整のために二重になっている部分がピタッとくっ付くのには感動した

 だが、製品を見ての感動はそこでとどまらなかった。しばらく背面を鑑賞した後、正面を向けてiOS 26が動く液晶画面を上から下にスワイプすると最新OSの特徴である「Liquid Glass」の水たまりのようなインタフェースが表示される。

 何と、iPhone Airの製品の外観とiOS 26の画面の中の表現が1つに重なっているのだ。

 現在、Appleの全ての製品は、「Design Studio」という組織がデザインをしているが、この組織は以前はバラバラだったハードウェアのデザインと、OSを含むソフトウェアのデザインを一緒に行うハード/ソフトデザイン混成チームとしてデザインにあたるところが大きな特徴となる。

製品の外観と、画面の中の世界がしっかり結びついているのがAppleデザインの真骨頂だ。Liquid Glassデザインは、iPhone Airの開発計画があったからこそ誕生したのかもしれない

 創業時から、同社のアドバンテージとなってきた見事なまでのハードとソフトの調和を、さらに一歩進めるのに貢献している。

 現在、ソフトウェアのデザインを担当するのは、これまでにも多くのインタビューに応えてきたアラン・ダイ氏(ヒューマンインターフェースデザイン担当の副社長)だが、一方で同社のハードウェアデザインを率いているのが、初代iPhoneの時代から同社の工業デザインを手掛けてきたモーリー・アンダーソン氏(工業デザイン担当の副社長)だ。

 今回、Appleの製品発表会の動画でも解説を行っているが、その英国英語を、かつて同部門を作った後に同社を去ったデザイン部門長の思い出に重ねたのは筆者だけではないだろう(英国はジェームズ・ダイソン氏とジョニー・アイブ氏が共に副学長を務めたRoyal College of Artなどもあり、デザインエンジニアリング教育では世界をリードしている)。

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