Rainy 75の後継モデルの開発にあたってWOBKEYが掲げた目標は「Rainy 75を超える、“firm”で“crisp”(固めで歯切れの良いといったところか)な新サウンド」。つまり、密度の濃い響きと、音の立ち上がりや輪郭の明瞭さを目指して開発されたことが伺える。
筆者自身はRainy 75を体験していないので比較はできないが、「芯があってキレがありながら、コロコロと温かみのある雨音」という唯一無二のタイピング音であることは間違いない。タイプをしていて今までで一番楽しいキーボードだ。
キースイッチにはリニアのKailh Cocoaスイッチを標準搭載している。荷重45gFと軽めでスムーズな触感が特徴だ。スイッチストロークは2.0mmだが、底打ちまでは3.6mmと一般的なリニア軸よりやや短めだろうか。
タイプ音とキータッチを調整するため、PORON、IXPEスイッチパッド、PETフィルム、PCBフォーム、PORONケースフォームの合計5層の静音フォームが重ねられている。昨今、音がいいキーボードの標準仕様となりつつあるガスケットマウント方式が採用されており、タイピング時の衝撃を吸収してボディー内部での音の反響を抑えている。これらにより、しっとりと詰まった感じのある上質なタイピング音を実現している。
この音質に対するきめ細かなこだわりは、全てのキーに対してばらつきを出さない、という姿勢となって随所に現れているように思う。ファクトリールブは当然ながら、Enterキーやスペースキーなど、スタビライザーについても完成度が高く、スペースキーやシフトキーをどの位置で押してもガタつきやビビリ音はほとんど感じられない。
スイッチをPCBに固定するポジショニングプレートにはガラス繊維とエポキシで構成されるFR4が使用されており、カチッとしたキータッチでありながら硬すぎない反応となっている。もっと硬めが好みなら、付属するアルミプレートと交換してみるとよいだろう。
Crush 80のもう1つの特徴が分解/カスタマイズが容易なことだ。メカニカルキーボードのカスタマイズと言ってパッと思い付くものはキースイッチの交換やルブだろう。もちろん、Crush 80もホットスワップに対応しており、付属するキースイッチプラーを使用してキースイッチを交換することができる。
だが、それ以上に随所に加えられた工夫によって、静音フォームの交換や追加といった、キースイッチよりも奥の部分に手を入れることも容易になっている。
まずはトップフレームの取り外しだ。ケース固定に従来のネジ留めではなく磁石を用いたボールキャッチ構造を採用しており、親指でキーを押さえながら他の指で側面を引っ張り上げるだけでいい。
この時点でボトムケースからPCB下の静音フォーム含めて全てアクセスすることが可能になる。また、バッテリーコンポーネントとはマグネット式のPOGOピンで接続されている。これはバネによって各ピンを端子に押しつけるPOGOピンに、位置合わせや吸着保持のために磁石を組み合わせたもので、PCBを持ち上げるだけで簡単に取り外したり、逆の手順で取り付けたりすることができる。
ソフトウェア的なカスタマイズについても抜かりはない。Crush 80のファームウェアはオープンソースのQMKであり、VIA(Visual Interactive Adjuster)を用いてGUIでカスタマイズすることができる。VIAにはWebアプリ版もあるので、専用ツールをインストールするような手間も必要ない。
使い方は簡単で、Crush 80用の設定ファイルをWOBKEYのサポートページからダウンロード、それをWebアプリ版のVIAにロードすれば、あとは画面に沿って設定するだけでよい。キーマップの変更の他、マクロやライティングの設定も可能だ。
Crush 80は英語配列だが、日本正規代理店のKIBUより日本語配列キットが発売されている。キットには組み立て済のスタビライザー、JIS配列プレート、PCB、キースイッチ、キーキャップ、フォーム、レシーバーが含まれているので、英語配列との交換も数分もかからずにできるだろう。高いカスタマイズ性を持つCrush 80ならではといえるだろう。
Crush 80にはRGB LEDイルミネーションがあるため、ゲーミングキーボードと勘違いされそうだが、実はWOBKEY自身、「Crush 80はゲーミングキーボードではない」と明言している。その要因となるのがポーリングレートとラピッドトリガー非対応だ。
現在、一般的なゲーミングキーボードのポーリングレートは1000Hz以上(1ms)、ハイエンドだと8000Hz(0.125ms)にも達する。それに対し、Crush 80は超低遅延モードに設定しても有線接続で2ms、2.4GHz接続で3ms、Bluetoothでは約8msのレイテンシとされている。ゲーム以外の日常利用において反応の遅れを感じることはないものの、入力タイミングがシビアなFPSなどのゲーマーにとっては厳しい数値だろう。
だが、このレイテンシこそが、Crush 80の立ち位置を表しているようにも思える。ゲーマーが求める性能ではないことをあえて明示することで、洗練された雨音、心地よいキータッチ、エモーショナルなキーボードを求めるユーザーに応える姿勢を明確にしているのではないだろうか。
もちろん、このあたりは完全に個人のフィーリングによるところであり、万人が同じ感想を持つとは思わない。だが、筆者にとって「音が素晴らしいから試してみたら」と(非PCマニアの)友人に薦めたキーボードはCrush 80が初めてだった。
それほどまでに自分の中では今までのキーボードとは一線を画する存在だ。Rainy 75のユーザーにとっては既に通り過ぎた道、何を今更と思われるかもしれないが、この官能的な陶酔感、タイピングに対する中毒性はぜひとも自分自身の指と耳で味わってもらいたい。
なお、友人たちからは意外にもタイピング音ではなく、カラーバリエーションに対する驚き、好意的な反応が多かった。筆者自身としてはカラーバリエーションにはさほど興味はないのだが、それでもPro Redのカラーリングにはしびれるものがある。なんやかんやと心に訴えかけてくるキーボードだ。
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