2008年は、携帯電話を取り巻く市場環境が大きく変化し、その影響が表面化した1年となった。携帯電話に関わるプレーヤーは生き残りを賭けて、成長期から成熟期へと移行するモバイル市場に合ったビジネスモデルを模索している。
市場環境が厳しさを増す中で開催されたモバイル・IT研究会のスピーカーとして登場したのが、元NTTドコモの執行役員で、現在は慶應義塾大学大学院の特別招聘教授を務める夏野剛氏。おサイフケータイやiモードの生みの親である同氏が、携帯市場の現状と今後をどう見ているかを聞けるとあって、会場には普段の3倍以上にも上る約80名の参加者が詰めかけた。
「この10年間の携帯電話の進化は奇跡的だった」――。夏野氏がこう述べるように、日本では携帯電話の技術が、この10年で劇的な進化を遂げた。その立役者ともいえるのが、この2月で10周年を迎えたiモードプラットフォームだ。
夏野氏は、携帯電話の進化をスライドに表示しながら「10年前の今日、ケータイメールは存在しなかった」と感慨深げに振り返り、「ガラパゴスなどと言われているが、世界から見ると信じられないような進化を遂げ、世界が羨むサービスになった。世界中のメーカーが日本の携帯電話をウォッチしている」と、日本の携帯端末とそのサービスの先進性を強調した。
しかし、世界各国にさきがけて急成長を遂げた日本の携帯市場は、ほかの市場のどこよりも早く転換期を迎え、成熟期のビジネスモデルを模索する動きが加速している。夏野氏も2008年の携帯電話業界の動きについて話し始めると、一転してその表情は険しいものとなり「補助金モデルの廃止で(携帯電話の)買い替えスピードは落ち、サービスの普及速度もぐっと落ちると思っていたが、こんなに携帯電話の販売台数が落ちるとは……」と、危機感をあらわにした。
「皮肉なことに、端末の販売台数が落ちれば落ちるほど、(補助金の支出が減るため)キャリアの収益は上がる。しかし、今までのような(端末依存型の)新サービスの急速な普及はもはや望めない。そしてキャリアとメーカーのWin-Winの関係の崩壊が起こる。(携帯電話が)売れないリスクは全面的にメーカーにいく」(夏野氏)
これまでの拡大成長の市場から縮小均衡の市場へ一気に転じたのが2008年であり、“通信事業者は主役の座を降りた”というのが夏野氏の見方だ。
こうした状況を踏まえた上で夏野氏は、2009年は、日本メーカーにとってラストチャンスの年になると予測する。それは、欧米のモバイル市場が急速に日本化し、10年遅れでモバイルインターネットが本格化しつつあることが理由だ。「テレコム(通信キャリア)が主役でもなく、メーカーが主役でもなく、インターネットプレーヤーが主導でこの変革が起こりつつある」(夏野氏)。
その例として挙げるのが、AppleのiPhoneやGoogleのAndroidだ。夏野氏は、「通信キャリアではないプレーヤーが業界を刺激することで、業界がやっと動いているのが現状」だと分析し、ビジネスモデルが変革期に来ていることを強調した。
さらにAndroidについては「世界のIT業界が感じていた、通信業界に対するフラストレーションの中から生まれたものだと思って間違いない」と断言。Googleにとってアンドロイドは1つのツールにすぎず、「Googleはアンドロイドケータイを売ることが究極の目的ではなく、Googleのサービスを使ってもらえるならデバイスは何でもいい。日本以外ではその環境が整っているケータイがないからアンドロイドを作ったというだけ」と指摘した。
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