日本の端末メーカーを取り巻く状況は厳しさを増す一方だが、夏野氏は「日本の携帯メーカーの競争優位はまだある」と見る。日本の端末のクオリティの高さや、PCや家電製品を製造する総合メーカーとしてのメリットなどを挙げ「日本のメーカーに残された時間はあと2〜3年。どんどん海外へ進出してチャンスを広げてほしい」とエールを送った。
夏野氏は、端末に乗るコンテンツを開発するメーカーにとって、市場の成熟は大きなチャンスになると見ており、これからの携帯電話市場を牽引する大きな原動力がコンテンツにあるという。
「(これからは)モバイル広告が伸びていく。広告というのは遅行指標であり、市場の成熟期を示す。コンテンツも拡大していくが、もはや単なるラッキーベンチャーというものはない。これからは真のクリエイティビティが求められる」(夏野氏)
今後のモバイルコンテンツ産業については「コミックやゲーム、書籍の伸びは著しく、チャンスはたくさんある。端末は売れなくなってもモバイル市場は拡大し続ける。ユーザーにとってケータイは最も重要なものであり、(コンテンツプロバイダは)お客様にとっての価値をきちんと出せるかで勝負できる」と述べ、縮小均衡の時代だからこそできるサービスがあるという見方を示した。
最後に夏野氏は、ケータイの未来を予測するキーワードと題したスライドを表示し、これからの携帯電話が目指すべき方向性や携帯電話のあるべき姿について、「AI」「I/O」「BIO」「Battery」「For Ordinary People」の5つの観点から解説した。
AI(人工知能)はドコモ端末に搭載された「iコンシェル」を例に挙げ「iコンシェルで(AIの)香りだけ出してみた。これを発展させていくと、操作はミニマムで効用はたくさんあるという世界がまだまだ出てくると思う」と述べた。
I/O(出入力)については、現状、携帯電話の大きさがディスプレイとキーボードの大きさで決まってしまうという制限に触れ、「これが空間に投影されるバーチャルディスプレイやバーチャルキーボードのようなものになった時、ケータイはまた大きな進化を遂げることになる」と、物理的な大きさにとらわれない端末の登場が、携帯電話を新たなフェーズに移行させると見る。
BIO(生体認証)は、「IDやパスワードはたくさんありすぎてわけが分からない。個体を識別するのにパスワードを利用するのはセキュリティレベルを落とすだけ」と指摘し、生体認証の早期の導入が必要という見方を示した。
Battery(電源)は、電池が持たないことによる不安がコンテンツ利用の躊躇につながるとし、「バッテリーがもっと使えるようになると、ユーザーの使用シーンも広がる」と期待を寄せた。
そして最後のキーワードとして示したのが「すべては普通のユーザーのために」というキーワードだ。日本の携帯電話業界の成功は、携帯電話に関わるプレーヤーたちが、より多くの人々にハイエンド端末を持ってもらうための補助金モデルを作り、マスの人々に喜ばれるコンテンツを作ってきたことによるもので、「これは日本でしかできなかったこと」だと業界に賛辞を送って講演を締めくくった。
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