モバイル用途にも期待――日立、厚さ3ミリの指静脈認証モジュール

» 2009年08月26日 20時00分 公開
[上口翔子,@IT MONOist]


 日立製作所は2009年8月26日、ATMや入退室管理などで実用化されている「指静脈認証モジュール」の薄型化に成功したと発表。新たに開発したモジュールは厚さわずか3ミリ(同社従来比約7分の1サイズ)ながら従来モジュールと同等の認証精度を保持し、これまでスペースの制約で難しいとされていた携帯電話などモバイル機器への搭載を可能にしたという。

 モバイル機器搭載に向けた技術ポイントは2つ。1つ目は近赤外光に高い感度を持ち、指静脈パターンを非接触撮影できるフラットセンサを新たに開発し、薄型化に適したモジュール構造に変更したこと。2つ目は太陽光(2万ルクス)などの外光がセンサに当たっても、指静脈パターンの観察への影響を軽減する信号処理技術を取り入れたこと。

非接触撮影が可能なフラットセンサ

 同社では従来のモジュール構造でも薄型化を試みている(最薄で23.5ミリ)。しかし、薄型化すると指とレンズとの距離が近くなり、レンズが集光すべき角度(画角)が広がってしまうため、最終的にはレンズと指が非常に近接してしまうという課題があった。すると、例えばレンズの中心位置から遠い画像などは斜め下から見ることになってしまい、画像がぼやけたり、暗くなったり、魚眼ひずみのような変形が起きてしまっていた。

photo ロッカーに設置できる金庫を例に、その内部構造の模式図を示したもの
装置中にカメラが入っていて、そのカメラでは1つのレンズと、1つのイメージセンサが組になっている。さらには赤外光源として、LEDが搭載。撮像原理は、LEDから指に向けて赤外線を発光することで、認証に利用する静脈(手のひら側に指の近くにある)の中で赤外線が散乱。その後、撮影するべき静脈を投下して、装置内に入ると、レンズが撮影する開口部の幅の等角を集光し、イメージセンサに投影する

 そこで新たに薄型化を実現するモジュール構造を確立するため、同社では非接触フラットセンサを開発。「圧迫によって変形したり消えてしまう指静脈には、撮影すべき指静脈の表面とセンサの間にわずかなすき間がある非接触が適しているという結論に至り、非接触フラットセンサの開発に取り組んだ」と日立製作所 中央研究所 研究員の三浦 直人氏。

 新開発したモジュールは、150×100個のマイクロレンズを指静脈の撮影部分に対して面状に配置。1つ1つのマイクロレンズが撮影すべき領域を指の中の非常に局所的な部分にのみ限定している。これにより、指がレンズに近づいた場合でも、レンズを広角にする必要がなく、画像のひずみなどが起こらない状況でも接写撮影ができるという。

photo 薄型指静脈認証モジュールの構造
同社ではレンズを挟んでイメージセンサと撮影する被写体の領域との面積がほぼ1対1に対応することから、これを等倍光学方式と読んでいる

 「1つのマイクロレンズで撮影する領域は狭いが、それらを集光することで画像を統合し、1枚の指静脈画像が得られる。また、遮光層で斜めからの光を遮断することで、1つのマイクロレンズが撮影する画を鮮明なものにしている」(三浦氏)

photo 試作した薄型指静脈認証モジュール

外光の影響を受けにくい信号処理技術

 また同社では今回、モバイル用途への適応を目的としていたため、屋外での使用時に起こりうる外光(太陽光)の影響を考慮した撮影技術にも取り組んだ。

photo 従来の指静脈認証と新開発した認証領域の比較。装置に指を乗せた状況で外光が左上から差し込んでいる様子を示した模式図

 従来の装置は指全体を撮影することで情報量を増やしていたが、それを屋外で使用すると指と開口部のすき間から外光が直接入り込んでしまい、指静脈が正しく撮影できないという問題があった。よって同社では従来の広い開口部を狭小化することで、指の幅よりも狭い開口部にした。指全体が開口部を覆うので、センサに直接、外光が入ることがなくなったという。

 さらに、開口部を完全おおった状態でも外光が非常に強い場合は、撮影が難しくなってしまうため、LEDの光量調整とセンサの感度調整を行い、例えば左上から外光が入ってきた場合には撮影した画像を見ながら、LEDの光量を抑え、全体的に光が強い場合は、センサそのものの感度を下げることで画像を全体的に暗くするというような制御を自動的に行っているという。

 同社では、試作したモジュールと撮影データ/登録データの照合を行う薄型指静脈認証装置を試作した結果、非接触の個人認証が行えることを確認。今後もさらなる薄型化に向けた開発を進めていくという。

photo 非接触の指静脈認証を行った様子。事前に登録してある指に反応し、赤く表示されている

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