携帯電話が財布になる日モバイルクロスオーバー(2/3 ページ)

» 2004年02月26日 02時19分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 通常、我々のサイフにはSuicaイオカードやメトロカード、スターバックスカードなど異なるプリペイドカードが何枚か入っているはずだ。この異なるプリペイドカード一枚一枚が、非接触IC向けの「アプリ」に相当すると考えればよい。携帯電話は何枚ものプリペイドカードをいれたサイフだ。ユーザーはプリペイドカードを買うように、用途に応じたアプリをダウンロードし、お金をチャージして使う。

 用途に応じてアプリを用意しなければならないのはユーザーにとっては面倒だが、導入する企業側からすれば、既存のプリペイドカード同様に精算の仕組みを作りやすく、チャージしたお金は必ず自分たちのところで使ってくれるから、メリットが大きい。さらにプリペイドカードと違ってアプリは顧客情報の管理やネットを使ったサービスにも使えるなど、応用性が高い。1台5万円前後と言われる非接触ICのリーダーライター(読み取り機)導入に見合う費用対効果を見いだしやすいのだ。

 また、今回のテーマからやや外れるが、携帯電話の非接触ICは必ずしも決済のみに使われるわけではない。ユーザー認証や会員証サービスとして使うこともできるので、例えばマイレージカードやポイントカード、電子チケットやクーポンにも応用できる(2003年12月の記事参照)。この場合も、ネットを使った広告宣伝やサービスと組み合わせられるので、従来の会員カードとは一線を画したインタラクティブ(双方向的)な利用ができる。

 アプリ連携というアプローチを取ることで、携帯電話の非接触ICシステムは、サイフの中にあるカード類のほとんどを代替可能になっているのだ。

 もうひとつ重要なのが「数の力」だ。

 俗にいわれる「ニワトリとタマゴ」の例えで分かるように、新しい技術やサービスを社会に普及させようとした場合、端末かインフラのどちらかが、当初はアンバランスな形で数が増える必要がある。

 例えば多くの電子マネーがなかなか普及しないのは、ユーザー数が増えないから企業側が店舗の対応に二の足を踏み、使える場所が少ないからユーザーが増えない、という悪循環からなかなか抜け出せないからだ。逆に普及しつつある「Suica」や「ICOCA」「ETC」などは、インフラ側を一気に整備させることでユーザー増を図った。

 一方、携帯電話の非接触ICでは、今後、登場する携帯電話に標準搭載することで、ユーザーの「機種変更」により対応端末数のほうを一気に増やせる。利用可能なユーザーが増えれば、企業側が設備投資するメリットを見いだしやすくなり、インフラ側の整備も進んで好循環に持ち込める。

非接触IC最大の課題は端末の耐衝撃性能にある

 しかし、盤石にみえる非接触ICにも一抹の不安がある。それは「数の力」が有効に発揮されないシナリオだ。

 むろん、各キャリアはユーザーの機種変更を利用した新技術の展開と数の力の効用について熟知している。キャリアの気持ちが「及び腰」になる可能性は極めて低い。筆者が不安なのは、端末が用意できるかという点だ。

 モバイルFeliCaが発表されてから、筆者は多くの携帯電話メーカーの開発者やキャリア関係者に公式・非公式に話を聞いたが、そこで問題視されたのが、携帯電話の耐衝撃性能だ。

 「JRはSuicaで『タッチ・アンド・ゴー』などといっているが、もし毎日2回、自動改札機にタッチされたら、今の携帯電話は100日も持たずに壊れてしまうかもしれない。耐衝撃性能のしきい値そのものを見直さなければならないが、それはサイズの拡大と重量増加を招く。商品力が落ちないか不安だ」(携帯電話メーカー開発担当者)

 「JRさんには『タッチ・アンド・ゴー』という言葉そのものを即刻やめてもらいたいですね。非接触ICを読み取り機にタッチするという使い方をやめるように啓蒙しないと、今の携帯電話の強度では実用に耐えられません」(キャリア関係者)

 だが、言葉の問題だけで済むほど話は単純ではない。JR東西が導入しているSuica/ICOCCA対応の自動改札機は「タッチさせる」ために、心理学的なアプローチとしてリーダーライター部分を斜めにしてある。非接触ICそのものはリーダーライターから10センチ以内の空間に0.1秒滞空させれば利用できるのだが、

 「読み取り機を水平にした滞空方式も実験したことがあるが、それでは(読み取り時間が足りず)確実な読み取りができなかった。利用者にスムーズな通過をしてもらうために、タッチしてもらう今の形式は試行錯誤の結果。簡単には変えられない」(JR東日本関係者)

 最大の非接触IC利用機器になりそうな自動改札機がタッチ方式を変えないかぎり、「タッチ文化」はなくならず、携帯電話の耐衝撃性能問題が表出する。これが原因で、非接触IC対応だと魅力的なデザインの携帯電話がなかなか作れないということになれば、標準搭載化による数の力の発動が難しくなってしまうだろう。

クレジットカード機能を携帯電話に搭載する

 非接触ICによるリアル決済は、プリペイドカードを束ねることでサイフ代わりを実現するアプローチだ。それに対して、ビザ・インターナショナルでは、既存のクレジットカードシステムに携帯電話を取り込むことで、携帯電話を使ったリアル決済を実現しようとしている。

 ビザ・インターナショナルではKDDIとNTTドコモ向けに、携帯電話の赤外線通信機能を使ったクレジットカード決済サービスの試験中だ(2003年9月の記事参照)。これは現在の磁気ストライプを使ったクレジットカードを置き換えていくシナリオのひとつとして位置づけられている。

 「(ビザ・インターナショナルでは)磁気ストライプ型のクレジットカードを、よりセキュリティの高いシステムに置き換えていこうとしています。そのメインはクレジットカードのICカード化で、2009年までには全面的に移行します。携帯電話の赤外線通信を使ったクレジットカード決済サービスは、磁気ストライプ置き換えの中の選択肢のひとつという位置づけです」(ビザ・インターナショナル・アジア・パシフィック・リミテッド コーポーレートコミュニケーションズのダニエル・リンツ部長)

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