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» 2004年02月26日 02時19分 UPDATE

モバイルクロスオーバー携帯電話が財布になる日 (1/3)

料金代行徴収の拡大、非接触ICチップ、赤外線を使ったクレジットカード決済……。携帯電話を財布にしようとする試みは、大きくこの3つが進行中だ。それぞれ得手不得手があり、課題もそれぞれ異なる。現在の状況をまとめ、「携帯電話はどうやって財布になっていくのか」を考えていこう。

[神尾寿,ITmedia]

 筆者が携帯電話会社に在籍していたころ、直属の上司に言われた言葉を今も印象深く覚えている。

 「携帯電話会社の強みは、『個人』との間に決済口座を持っていることなんです。しかも基本料や通話料の請求とセットで使えるから、(携帯電話利用料金数千円に上乗せして)少額課金ができる。クレジットカード会社よりも有利な立場で、決済サービスが提供できます。決済(システム)こそが携帯電話会社最大の武器だということを忘れないでください」

 携帯電話ビジネスで生き残る鍵は、決済にこそあると聞かされた。1997年、iモード前夜のことである。

 直属の上司はiモードビジネス担当ではなかったが、その後、登場したiモードが、発展の礎として「代金代行徴収」というコンテンツサービス向けの決済システムを武器にしていたのはご存じの通りだ。iモードの代金代行徴収という少額課金システムを与えられて初めて、デジタルコンテンツは表舞台に登場する“きっかけ”を与えられた。

 そしてこれはコンテンツ流通の中心、すなわち「情報機器の主役」に携帯電話が躍り出るうえで重要なポイントでもあった。コンテンツの決済システムを支配した携帯電話は、PCを土俵の外に蹴り出してコンテンツ(情報)流通そのものを支配してしまった。歴史上の多くの帝国が範を示すように、基軸的な決済システムを支配する者が、すべてを支配したのである。

コンテンツ「以外」にも決済の傘を拡げるキャリア

 iモードをはじめとする携帯電話キャリアのコンテンツ代金代行徴収の決済システムは、コンテンツ流通の世界を支配した。各キャリアは「その次」として、ネットとリアルの双方における決済サービスの拡充に乗り出している。

 ここで携帯電話の新たな決済サービスとして期待されるものを整理しよう。

代金代行徴収の拡大
現在の代金代行徴収と同じように毎月の携帯電話利用料に上乗せして決済をするサービス。毎月の上限1万円〜3万円以内ならば従来より単価の高い決済が可能なほか、コンテンツだけでなく物品の購入にも使えるのが特徴。NTTドコモは「請求代行サービス」(2003年6月の記事参照、試行サービス中)、auは「プレミアムEZ回収代行サービス2003年6月の記事参照」がある。

非接触IC
NTTドコモとソニーが共同で推進する「モバイルFeliCa」や(2003年10月の記事参照)、auと日立製作所は非接触ICを使ったサービスの第1弾としてJR東日本と提携して「モバイルSuica」を提供する予定だ(2003年12月の記事参照)。非接触ICカードを使ったシステムでは、非接触ICエリアとアプリが連携することで、ネットとリアルどちらの決済でも使えるほか、ポイントやマイレージを貯めるなど会員サービスと柔軟に組み合わせられる。一方で、現在のシステムでは決済サービスを使いたい事業者別にアプリをダウンロードし、お金をプリペイドしなければならない。

クレジットカードの赤外線決済システム
携帯電話のICカードやアプリと赤外線ポートを使い、携帯電話経由でクレジットカード決済を行うシステム。auの「Kei-Credit(2002年9月の記事参照)」やドコモ向けの「VISAッピ(2003年9月の記事参照)」などが代表。前者はUIMカードにカード情報を保存し、IrFM(Infrared Financial Messaging)ベースにビザ・インターナショナルが開発したセキュアな赤外線通信方式「Visa近接通信支払用金融情報仕様1.0版」を用いる。一方、ドコモ向けのVISAッピではカード情報をiアプリ上に保存し、赤外線通信にはIrMCを使う。

代金代行徴収の拡大は、eコマースの主役を変える

 非接触ICや赤外線カード決済と比べると、代金代行徴収の拡大は地味で、あまり話題になることがない。しかし、これはeコマース(電子商取引)を変える可能性がある。

 要点は、「上限金額までなら単価の高い決済に使えること」と、「物販でも利用可能なこと」だ。注目すべきは後者で、これは例えば本や音楽CDなどを購入する時にも、代金代行徴収が使えることを意味する。

 さらに大きいのが、原則として携帯電話ユーザーすべてが利用できる点だ。未成年者やフリーターのように、これまでクレジットカード利用が難しかったユーザー層でも手軽なネット決済が利用できるようになり、eコマースの実質的な「顧客」として期待できる。またクレジットカードを持っているユーザーも、カード番号の入力といった手間なくネット決済ができるのは便利だろう。1万円〜3万円以下の物品の購入に限れば、利用するメリットは大いにある。

 アマゾンジャパンの竹村詠美シニアプロダクトマネージャーは、「代金代行徴収の拡大は、(クレジットカードを持っていない)未成年ユーザーにアプローチできる決済手段として期待しています。音楽CDなどは未成年者こそがメインターゲットですから」と話す。

 今後、QVGA液晶対応機の増加やパケット料金定額制の広まりで、携帯電話でeコマースを利用しやすい環境が整う。eコマースの分野でも携帯電話がPCのライバルになる日は近いだろう。その時、代金代行徴収を使った物販の決済が、携帯電話の強みになる可能性は高い。

携帯電話の非接触ICは数が出れば社会を変える

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 NTTドコモやauが導入を表明している非接触ICは、今、最も注目されている分野だ。

 非接触ICの技術的な解説はITmediaの別記事で詳しく紹介されている(2003年10月の記事参照)ので割愛するが、このシステムの大きな強みはアプリと密接に連携している点だ。

 新たな決済サービスが「現金」の代わりを目指す場合、重要なのはどこでも使える汎用性になる。しかし、実はこれが一番難しい。クレジットカード会社が50年以上をかけて加盟店網を整備し、ジョイントカードシステムを導入するなどして1枚のカードが広い範囲で使えるように努力したことからも分かるように、決済サービスの汎用性の確保には時間と手間がかかるのだ。

 しかし、そこまでコストがかけられない場合は、ある特定のグループでしか利用できないプリペイドカードの出番になる。例えばJR東日本の「Suicaイオカード」と私鉄・地下鉄連合の「メトロカード」が、同じ電車に乗る目的ながら互換性がないように、プリペイドカードはあくまで特定の企業グループ内でしか通用しない地域通貨である。ユーザー側には不便だが、精算の仕組みを作りやすいので企業側は導入しやすい。

 携帯電話の非接触ICが狙うのは、プリペイドカードの仕組みを束ねることで、結果的に現金に近い汎用性を手に入れることだ。ここでアプリと非接触ICとの連携が意味を持つ。

 分かりやすく説明しよう。

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