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» 2004年08月04日 03時38分 UPDATE

TD-CDMAのカバーエリアは携帯に迫れるか?

ADSL事業者が、TD-CDMAで携帯事業への参入を狙っている。通信速度が注目されがちだが、カバーエリアはどうなのか。ソフトバンクは1万3000の基地局を設置すると伝えられるが、これがどの程度の規模か、考えてみよう。

[杉浦正武,ITmedia]

 TD-CDMAを利用したモバイルIP電話サービスは、どこまで携帯電話に迫れるのだろうか?

 ADSL事業者が、TD-CDMAの技術を利用して携帯電話事業に参入するといわれて久しい。実際、イー・アクセスに続いてソフトバンク陣営も実験局免許を取得しており、(7月7日の記事参照)、電波を飛ばしての実証実験に入っている。

 イー・アクセスは、TD-SCDMA(MC)方式の実測データを公開しており、1基地局あたりの収容能力を示す“セクタスループット”が4.65Mbpsという数字を記録したと示した(6月14日の記事参照)。ソフトバンクBBも、実験用に開発している端末が「屋外ではTD-CDMA、屋内では無線LAN」を利用するものであることを明かすなど(7月20日の記事参照)、具体的なサービスイメージが膨らむような話題が続いている。

 だが、携帯電話関係者が口を揃えて、通信速度や端末インタフェースより重要とする要素がある。「カバーエリア」だ。

「面」での展開が不可欠

 イー・アクセスの新規事業企画部、諸橋知雄本部長はかつて多くの新規参入が集まった公衆無線LANサービス(=いわゆるホットスポット)を評して、「スポットのサービスはあまり受け容れられたことがない」と話す。

 「(ホットスポットを手がける事業者は)苦戦しているようだ。やはりスポットでなく、ゾーンでないと」。TD-CDMAのサービスでは、相応のサービスエリアを確保したい考えを示した。

 それでは、携帯キャリアと同等の全国サービスを展開する考えなのか。同社幹部がこれまでに話してきた言葉をつなぎ合わせると、この点はやや疑問も残る。

 同社の千本倖生CEOは、具体的なビジネスモデル、料金、開始時期などは未定とはっきり断った上で、大まかなスケジュールは「1年ほど実証実験を行った上で、2年後に東京、大阪などメトロポリタンエリアから開始、と考えてもらうのがいいだろう」と話している(2月5日の記事参照)

 ソフトバンク側も、エリア展開は「スポットでなくゾーンで」という姿勢は変わらない。ただしこちらは、もう少し大胆なサービス展開を考えているようだ。

 同社は現時点で、全国で1万3000カ所の携帯電話基地局用地を確保したと明かしている。今春ごろから3、4カ月をかけ、社外の業者なども含めて1000人を動員し、各地の地権者と交渉した結果だ。

 「ドコモ、auなどのサービスに割って入る以上、最初からひけをとらないサービスエリアを実現したい」(ソフトバンク広報)。事業開始までには、合計で約2万カ所を確保するとうたっている。

2万カ所の意味

 ここで、“2万”という基地局数がどれほどの意味を持つのか考えてみたい。

 現状、ドコモとau、ボーダフォンの携帯は全国で99%以上の人口カバー率を実現している。そして、ドコモの決算資料によれば、FOMAの基地局数は2004年6月末時点で1万2700を数える。ソフトバンクの1万3000と、ほぼ同じ数字だ。

 もちろん、両者を単純に比較することはできない。技術方式が違えば、1つの基地局がカバーするエリアであるセル半径も異なってくるのが当然だからだ。たとえばDDIポケットは2004年度中に人口カバー率97%を達成する見通しだが、2004年6月までに設置した基地局数は約16万とされている。

 PHSの場合、セル半径は100〜500メートルと小さい。“マイクロセル”と呼ばれるゆえんだ。一方で、携帯電話のセル半径は1〜数キロ程度とされている。見通しがよい場所では、セル半径が10〜20キロにおよぶケースもあるようだ。

 それでは、TD-CDMAのセル半径はどの程度になるのか。前出のイー・アクセス諸橋氏は、「(TD-SCDMA(MC)では)セル半径が小さくなるのではないかといわれているが、それは誤解」と話す。

 「理論上は、最大48キロのセル半径を実現できる。こんな半径のセルを用意することはないから、基本的に制約はない」

 TD-SCDMA(MC)の技術方式を提案したDr.シュー・グアンハン氏は、米国ではプロトコルを調整して基地局から70キロ離れた地点に電波が届くようサービスを設計した事例もあると話す(2月20日の記事参照)。同氏はまた、TD-CDMA方式の場合はセル半径が7キロ程度になるとコメントした。

滞りなく基地局を打てるか

 上記の言葉を信じて、TD-CDMAが数キロ規模のセル半径を実現できるとすると、ソフトバンクの万単位の基地局敷設は、人口カバー率99%以上も視野に入れていると考えられる。

 もちろん、これはソフトバンクが確保した土地に滞りなく基地局を敷設できると想定した場合の話。実際には、設備投資にかかる費用も計算しなくてはならない。

 TD-CDMAで基地局を設置するのに、どれくらいの費用がかかるのかは、現時点で情報が少ない。一般に、携帯電話の1基地局は数千万円のオーダーといわれており、たとえばドコモは、2003年度に携帯電話事業の設備増強に6010億円をかけている(2Gインフラへの追加投資含む)。2003年度の連結売上高が5173億円だったソフトバンクにとって、かけられる費用の額はもう少し少なくなると思われるが、残念ながらこれはまったく推測の域を出ない。

 ソフトバンク広報は、TD-CDMAは標準化された技術であり、関連機器の調達コストは低くなる、とだけ話す。振り返れば、ソフトバンクがAnnex Cに変わってAnnex Aを採用したのも、機器の調達コストが安いことが理由だった。日本テレコムを約3400億円で買収したソフトバンクだが(5月28日の記事参照)、どれほどの規模の設備投資を考えているのか。

 ともあれ、移動体通信にとって使えるエリアの広さが死活問題になることは確か。KDDIの小野寺正社長の「何といっても重要なのはカバレッジだ」いうセリフを引き合いに出すまでもなく(7月29日の記事参照)、多くの関係者がこの点に注目している。

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