「着うたで排除勧告」の裏にあるもの(1/2 ページ)

» 2005年04月12日 19時05分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 着うたは、独占されているのか――。公取委が大手レコード会社に行った排除勧告が、音楽業界に波紋を呼んでいる。既に5社中4社は、勧告への不応諾を通知しており(4月4日の記事参照)、徹底抗戦の構え。問題が表面化した背景には、ビジネスとして軌道に乗った着信音ビジネスをめぐる事業者の思惑があるほか、「音楽業界の流通経路をどう考えるかに関わる問題だ」との指摘もある。

 両者の主張をそれぞれの立場から理解するとともに、論点をもう一度整理してみよう。

「着メロ」は許諾不要、「着うた」は必要

 今回の排除勧告を吟味する前に、前提として押さえておかなければならない知識がある。携帯向けの着信音サービスとして、いわゆる「着メロ」はレコード会社の許諾が不要だが、「着うた」は許諾が必要だということだ。

 一般に、楽曲の権利処理としては「著作権」と「著作隣接権」の2つを考える必要がある。前者は、たとえば作詞、作曲者が持っている権利であり、後者はたとえば実演家、レコード製作者などが持っている権利となる(2003年8月28日の記事参照)

 着信音サービス事業者が使用楽曲の権利をクリアにする場合、著作権のほうは比較的処理が簡単だ。多くの作曲者はJASRACなどの著作権管理団体に権利問題を委託しているため、事業者はJASRACを窓口にすればよい。JASRACは楽曲使用の要望に、よほどのことがない限り応諾する義務があるため「契約後、最終的な売上の一定割合をJASRACに支払う」ことで話がつく。

 問題は著作隣接権のほうで、ここで着メロと着うたで違いが出る。着メロは元になる楽曲があるにせよ、着信メロディ自体は音源データにすぎない。つまり自分で着メロデータを作ってしまえば、著作隣接権はその人間(法人)に帰属する。だから、誰かから許諾を得る必要もない。

 ところが着うたの場合は、歌手を気軽によんできて録音する……というわけにはいかない。通常、新譜の場合は9割がたレコード会社がCDの原盤権を持っており、ここから使用許諾を得る必要がある。このため着うたは、自らは楽曲の著作権を持たない着信音サービス事業者にとって少々「権利処理に手間のかかる」サービスとなる。

着信音ビジネスは「自由流通」から「管理」へ

 実は、レコード会社の人間はかつて着メロが流行した時「なぜうちに収益が入らないのか」と苦々しい思いを抱いていた。

 自社でCDを販売している楽曲の着メロを、“誰でも自由に”販売している。この事実に、レーベルモバイル前社長の上田正勝氏は、2002年のITmediaのインタビューで当時を振り返り「着メロが売れてもレコード会社の収入にはならない。不満のぶつけようがない」と率直な思いを語っている(2002年12月10日の記事参照)

 しかし、その後携帯電話の進歩により着うたが登場。前述のとおりレコード会社の許諾が必要なビジネスモデルのサービスが普及することになった。

 これは、いままで自由流通だった音楽サービスが「権利許諾するかしないか」で制限できるサービスに変容したことを意味する。着メロでの“失敗”を繰り返さないよう、着うたでは管理をきちんとすべきだ――。レコード会社がそう考えたとしても不思議ではない。

 レーベルモバイルは、2001年に大手レコード会社が共同出資して設立した企業。各社の原盤権を集約する受け皿としては格好の組織で、「(着うたの登場で)レーベルモバイルを作った意義が出てきた」(上田氏:2002年のインタビューより)というコメントも音楽業界としての偽らざる本音だろう。

 実際、レーベルモバイルを通じた着うた配信は一定の成果を挙げている。公取委によれば、2004年10月の時点でレーベルモバイルが5社から許諾を受けた着うたの売上高は国内サービスの半分、ダウンロード回数で見ても約4割のシェアを占めているという。

対立する見解

 一般論として、音楽業界はヒット作を産み出すために多くの苦労を払っている。新人アーティストを発掘し、多額のプロモーション費用をかけ、多くの「売れない」アーティストの中から一握りのスターを生みだす。こうして最後に手に入れた果実=ヒット曲から得られる収益を横取りされてはたまらないという考え方は、一定の説得力を持つ。

 だが、その姿勢が不当な囲い込みにつながると判断する人間もいる。公取委の判断も、そうした立場に立ったものだ。

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