第8回 ソフトバンクモバイル 太田洋氏──ボーダフォンがソフトバンクになって変わったこと石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)

» 2007年09月27日 10時00分 公開
[房野麻子(聞き手:石川温、神尾寿),ITmedia]
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ソフトバンクの連続純増1位が続いている要因とは

神尾 2006年を振り返ると、番号ポータビリティが始まる前は、ソフトバンクモバイルは下馬評で非常に厳しい評価をされていたわけですよね。でも、現在は純増数1位が5月から8月まで続いています。太田さんから見たときに、どのあたりから風向きが変わったと思われますか?

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太田 1つ大きい施策は料金ですね。料金施策では相当アグレッシブなプランを打ち出していますから、そこでお客様を引き込む力は出たと思います。あと、プロダクトの品ぞろえもがんばってやっていますし、Yahoo!ケータイにしてポータルをかなり分かりやすくしました。

 ケータイインターネットに関しては、オープン化やインターネットとの親和性ということが言われるようになってきて、キャリアポータルの位置付けが少し変わってきています。お客様に対して安全なポータルをキャリアとしてきちんと提供するという意味はあるんですが、それに加えて、インターネットでもともとやっていたポータルの会社も今、モバイル市場に注目し始めています。そういう中でソフトバンクとしては、ヤフーというグループ企業がありますから、そこを前面に出して、むしろインターネットと携帯(モバイル)とは一体ですよ、というイメージを展開し始めているというところですね。

神尾 太田さん個人として、市場の手ごたえといいますか、これは行ける、と感じたのは何月くらいですか?

太田 どうですかね。ボーダフォンで自信をなくしていたので、負け犬根性なのかもしれませんが、伸びてこないと“行けるのか? これ大丈夫か?”っていう気持ちでしたよ。でも、今はかなり反応がいいですね。割賦販売制を始めるときも、最初はドキドキしていましたけどね。

神尾 では、最近の純増1位では、かなり手ごたえを感じましたか?

太田 そうですね。会社全体で「行くぞ!」という感じにどんどんなってきていますね。

共通アプリケーション開発プラットフォーム「POP-i」とは

石川 確かにユーザーは動いていて、端末力も去年から上がってきていて、ホワイトプランに引かれる部分もあると思うんですが、コンテンツに関していうと、まだユーザーの期待にまでいっていないのかな、と思うんです。確かにYahoo!の検索と連携しているというのは魅力ではありますが、ソフトバンクらしいコンテンツサービスが、まだないような気がします。その辺は、いつぐらいに面白いものが出てくるんでしょうか。

太田 お分かりだと思いますが、Yahoo!にするといっても、システムが一気に統合されているわけではありません。ルック&フィールは完全にYahoo!ですが、システム的にはまだ完全な融合は図れていないんです。どんどんそういう方向で動いていて、本当の意味でのシームレスなポータルに持って行こうという考えはあります。

 コンテンツに関していえば、我々としては、今後なるべくいろいろなコンテンツを端末の上に吸収できるようにしたいと思っています。その上で重要となるのは、プラットフォーム。一貫性のあるAPIの上で、共通に動くアプリケーションですね。そういった部分も避けられなくなっています。もちろんJavaがもともとあって、アプリケーション的にはオープンな環境にしつつ、いろいろなコンテンツを集約してきていますけれど、やっぱりネイティブアプリのAPIも統一していかないと苦しいですね。ということもあり「POP-i」の開発をやっているわけです。これ、最初は“薄皮まんじゅう”プロジェクトといっていたんですよ。

神尾 まだ概念図しか見ていませんが、あれを軌道に乗せるには、かなりの時間と手間がかかりませんか。

太田 プラットフォームはかかりますよね。各社さんとも苦しんでいると思います。

神尾 KDDIの「KCP」もずいぶん前からアナウンスしていますが、まだ形になっていないですからね。

太田 ええ、プラットフォームは大変です。3Gは、ものすごく投資額が高いんです。マルチメディア機能を入れなくてはいけない、ハイエンド機らしい機能を入れなくてはいけないということで、特にソフトウェアの開発に莫大な費用がかかります。それを全部スクラッチから積み上げて、テストからなにから含めて全部やると、大変なお金と時間がかかります。

 ですので、我々としては「メーカーさんが持っているあんこの部分(資産)は、そのまま有効にお使いください」と考えています。そして、その上に薄い皮をかぶせて(統一的なAPIを構築して)、それで共通アプリケーションを動かしましょう、というコンセプトなんです。そうでないと、本当にお金ばっかりかかる。

 これからも、新しい機能やサービスが増えますし、ネットワークや通信方式も進化しますし、放送系の機能も融合されてきますし。こうしたさまざまな動きがある中で、何もしないでいるとお金をどんどん投入し続けるだけになってしまいますから。もちろん、このAPIもちゃんとテストしてやっていくと、最終的にはそこそこの労力はかかると思いますが、全部一から作るよりはずっといいと思っています。

石川 POP-iはおよそどれくらいの年数のプロジェクトだと考えていらっしゃるんですか? 他社は相当の年数をかけてもまだできていなかったりしますけれど、この薄皮はどのくらいでおいしくなるものなんでしょうか。

:太田 試作品というか、食べてもらえるかな、という状態になるのが1年後くらい……来年度、ですね。2008年度中には出したいですね

プラットフォーム共通化の功罪

神尾 プラットフォームの問題で端末メーカーさんと話していてよく話に出てくるのが、プラットフォームを統一しても、メーカーにとってはキャリアごとに別のプラットフォームを持つことになるので、必ずしも共通化にならない部分があるということなんです。キャリアごとにプラットフォームが出来上がっていくという流れが、今後も続くのでしょうか。

太田 日本のメーカーは日本の市場を中心に見ていらっしゃるので、そういう議論になってしまうんだと思うんですが、いろいろな考え方があると思います。キャリアは今、携帯電話の主力プレーヤーで3つ、そのほかも含めると5つくらいあります。では、メーカーごとに、例えばA社さん、B社さん、C社さんがそれぞれ独自のプラットフォームを持って独自にやるのがいいのかというと、たぶんそうじゃないですよね。でも、キャリアがやるのも、分散しちゃってよろしくない、という話もある。そうすると、何か1本、標準にできないかという話になってくるんですが、難しいのは、これまで日本では差別化の競争をしていたということ。独自のアプリケーションの方向性というのを打ち出しているので、日本ではなかなか標準化が進まない。

 海外に目を向けると、いくつか標準化団体があって、標準的なものも出ています。今後はどうなんでしょうね。我々の打ち出しているPOP-iには、「たぶん、これがグローバル標準になるだろう、ならなかったらしょうがないね」とか、「標準団体を探しても、こういう機能のAPIはないね」というものがいろいろあるんですよ。そこをどういう風にまとめていくかが一番重要です。我々はスケールメリットを作らないといけない。

 日本のメーカーさんは最近、海外から撤退して、日本の市場を見てやろうとしているんですけれども、結構苦しいですよね。各メーカーさんが日本の市場に来て、ソフトバンクの参入も含めて機種数が増えたり、番号ポータビリティなどでプレゼンスを打ち出さなきゃいけないということで機種数が増えたりという現状がありますよね。そうすると、1モデルあたりの販売台数で開発費が吸収できるかどうかという、非常に深刻な問題が潜在的にありますが、それをちゃんと考えた構造にならなきゃいけない

 その上でプラットフォームが統一されるのは、ある種のメリットがあるように思います。ただ、それが各キャリアやメーカーが考える戦略と合っているかどうかは別な話なので、そこにまたいろいろな政治的判断や力学が働くんだろうなという気がします。

神尾 例えばクルマだと、欧州ではBoschとMercedes-BenzとBMWで自動車用制御OSを共通化しましょうという動きがあって、日本でも日本の自動車メーカーさんをまとめて、共通OSを開発しようとしています。携帯電話でメーカーとキャリア統一で(プラットフォーム作成を)やりましょうとか、どこかの省、例えば総務省や経済産業省が旗を振ってやりましょう、といった動きは出てこないんですか?

太田 いや、検討はされているんじゃないでしょうか。モバイルビジネス研究会とか、いくつかありますよね。話はチラチラ聞きますので、そういう声があるのは事実だと思います。ただ、それで誰が旗を振ってどこまでやる、ということが実現しそうな雰囲気はまだ見えないですね

神尾 キャリアもメーカーも、コストパフォーマンスが悪くなっていくので、プラットフォームやOSを統一していかないといけないという思いは一緒でも、今はバラバラで動いているという状況ですね。

太田 そうですね。ドコモさんはMOAP、KDDIさんはBREW を拡張したKCP、うちはPOP-iということでやっていますけれど、現時点では完全に同じものになる動きにはなっていないですね

神尾 ソフトバンクのスタンスとしては、それがオープンでフェアなものであれば、全キャリア、全メーカーで統一していくという流れになるのはウェルカムなんですか?

太田 ウェルカムですね。ソフトバンクは、コンテンツにもすごく自信がありますから。そういう意味では、統一したコンシステンシー(一貫性)のある方向に向かった方が望ましいと思います。

「やんちゃな気分」が戻ってきた

神尾 先日、実はシャープさんに取材したんです。御社の担当の方に、シャープさんからみて、今のソフトバンク向けの商品企画ってどうですか? という質問をしたら、「J-フォンの頃にやっていたような、やんちゃな気持ちが戻ってきた」とおっしゃっていたんです。ソフトバンクから見て、今の状況はやんちゃに戻れているんでしょうか。

太田 めちゃくちゃ、やんちゃですよ(笑)。J-フォンのとき以上にやんちゃじゃないですか。

神尾 J-フォンのときは、やんちゃで楽んでいるようなイメージが強くて、ユーザーさんも、そんな何かの雰囲気に感応していたところがあったと思うんです。それと同じで、ソフトバンクも、大変でもやんちゃな感じで楽しくモノやサービスを作っていける状況になっているんでしょうか?

太田 そうですね。J-フォンの頃も、ものすごく自由に言える会社だったんです。すごく自由で、お酒を飲みながら新しいサービスが生まれてくるような(笑)。そういうところが強かったんですよね。

神尾 あのころは外から見ていても楽しそうな雰囲気が出ていて、それがプロダクトににじみ出ていて、そこがすごく好きだったお客さんがいっぱいいたと思うんです。最近のソフトバンクの端末を見ていると、やんちゃなことやっているな、というのはうすうす感じていました。

太田 そうですね。かなり戻ってきていると思いますけれどね。

神尾 ところで端末メーカーでは、今、シャープの比率が非常に高いですよね。

太田 高いですね。

神尾 この状況はソフトバンクとしていかがですか? シャープはとても力のあるメーカーなわけですけれど、それにしても他キャリアに比べると1社依存度が高い気がするんですが。

太田 故意にシャープさんの端末を売ろうとしているわけではありません。やっぱり自由競争なので、いい商品が売れる。どれが売れるか売れないかというのは、突き詰めるとお客様が決める話ですが、各メーカーからいろいろな提案が出てくる中で、この機種は採用すべき/すべきじゃない、という予測をきちんと立てることが非常に重要です。それは市場調査などを通して、さまざまな手段でやって、その結果として、今のシェアになっています。

神尾 重要なのは市場が何を選ぶかということであって、市場のニーズや声をねじまげてまで、シャープの力を弱めたりとか、他社を持ち上げたりという考えはないということですね。

太田 そういう考えはないです。あくまでも市場主義です。特にソフトバンクになって強くなっていますね。お客様が欲しいと思う端末をちゃんと提供していくということが事業者にとって非常に重要だと思います。

石川 東芝に火がついているといいますか、本気になってきたのかな、と思うんですが。

太田 いい提案だと、グッと上がる可能性が出ているじゃないですか。チタンの814Tとか、いいですよね。

石川 キャリア側から火をつけるようなことがあったりするんでしょうか?

太田 メーカーさんは必死に、今何がトレンドだろうと調べていらっしゃいますよ。ウチが薄型をプロモーションしていたのは、各メーカーさんが知っていますし。いろいろな提案が出されて、その中で我々としては公平に選んでいます。

神尾 御社としては、メーカーさんに対しては公平なスタンスで臨まれているわけですね。

太田 そうです。そうじゃないと、キャリアとしてはマズイと思いますね。

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