ドコモのスーパー3Gに見た「モバイルの近未来」神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2008年04月14日 12時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 NTTドコモは4月10日、同社が所有する国内最大の研究開発拠点である「NTTドコモ R&Dセンタ」(神奈川県横須賀市)で、スーパー3Gの実験環境を公開。報道関係者向けとしては初となるデモンストレーションを行った。

 筆者はこのデモンストレーションに参加、モバイル産業の近未来を担う「ドコモのスーパー3G」をこの目で見てきた。今日のMobile+Viewsは特別編として、スーパー3Gの現在と可能性についてリポートしたい。

スーパー3Gは“3Gの総括”であり、“4Gへの橋渡し”

PhotoPhoto NTTドコモ 取締役常務執行役員 研究開発本部長の歌野孝法氏(左)とNTTドコモ無線アクセス開発部長の尾上誠蔵氏(右)

 ドコモがスーパー3Gと呼ぶ方式には、正式名称や通称をあわせていくつかの呼び名がある。移動体通信方式の標準化組織である3GPPでは「LTE(Long Term Evolution)」という名で規格化が進められているが、ドコモの呼称であるスーパー3Gを使う海外関係者も多い。また「3.9G(第3.9世代携帯電話)」呼ばれることもある。このように呼び方はいくつかあるが、共通しているのはスーパー3Gが“3G時代の総まとめ”であるということだ。

 「4G(第4世代携帯電話)の標準化や研究開発も順調に進んでおり、ドコモでも5Gbpsでのデータ伝送の実験まで成功していますが、4Gは現行の3Gと技術仕様の差異が大きい。スーパー3Gは、この4Gにつなげるためのワンステップという位置づけです」(NTTドコモ無線アクセス開発部長の尾上誠蔵氏)

 スーパー3Gの性能は、3GPPで合意された要求条件として「最大通信速度が下り100Mbps以上、上り50Mbps以上」「制御遅延50ミリ秒以下、伝送遅延5ミリ秒以下」とされている。またユーザー側の実効速度はHSPAと比べて「下りが平均3〜4倍、上りが平均3倍」、周波数利用効率は「下り3〜4倍、上り2〜3倍」となっている。

 「実効速度や周波数利用効率の点で見ますと、現在のHSDPAサービスで利用している『リリース5』(Rel.5)ではなく、HSUPAを含めた『リリース6』(Rel.6)を基準値にしての倍率になっています。実効速度で見れば、平均値が3〜4倍と大きく向上するほか、(基地局から離れた)セル端でも2〜3倍の速度向上が見込まれています。

 さらに周波数利用効率が向上することで、ビット単価も3分の1程度に抑えられます。スーパー3Gへの対応で当初の設備価格が上昇しても、それを上回る通信コスト削減効果が見込めます」(尾上氏)

 スーパー3Gのエリア展開や価格設定はビジネス上の判断になるが、スーパー3Gは高速化だけでなく、通信コストの低減効果も期待できる。また通信容量の増大効果により、今後は携帯電話以外の機器にも、安価かつ高速な定額制データ通信サービスが広がる素地にもなりそうだ。

現行FOMAとは異なる展開シナリオ

 ドコモによると、スーパー3Gの研究開発は2009年末には完了する見込みだという。サービス投入時期は事業判断になるが、「(2009年末で)すぐにでも商用化が可能な状態にはもっていく」(尾上氏)考えだ。

 スーパー3Gの展開計画はこれからだが、そのシナリオはFOMAを投入したころとはかなり異なる。誤解を恐れずに言えば、“FOMA開始初期の失敗”を反省し、ユーザーの利便性を損なわないように配慮したシステム展開シナリオが練られている。

 具体的には、スーパー3G対応の端末はすべて既存の3G機能をサポートし、スーパー3Gエリアは既存の3Gエリアに上乗せ(オーバーレイ)する形で導入される。スーパー3Gのエリア外では既存3Gサービスとして提供されるため、初期のFOMAのように圏外を気にする必要はない。これは3Gの拡張であるスーパー3Gのメリットといえるだろう。

 「スーパー3Gは基地局側に設備追加が必要になるので、(基地局設備の改修だけですんだ)HSDPA導入に比べるとエリア展開に時間がかかります。しかし、既存の3Gとオーバーレイすることで、短期間での全国エリア展開は必須にはなりません。通信需要の状況を見ながら、効果的なエリア整備をしていくことになるでしょう」(尾上氏)

 基地局同士のハンドオーバー(移動切り替え)については、スーパー3G同士はもちろん、スーパー3Gと既存3G基地局でも問題なく行えるようになる。現状では「スーパー3Gと既存3Gのハンドオーバーでは切り替え時間がやや長いが、これも商用化までにはお客様が違和感を覚えないレベルになる」(尾上氏)という。

 また、スーパー3Gは世界的に見てもドコモがリードする分野であるため、「ドコモが勝手に仕様を作るのではないか、という誤解に基づいた懸念もある」(尾上氏)。しかしこの点についてドコモでは、他事業者との協調路線を重視し、標準化団体である3GPPで仕様を策定し、相互運用性を前提にした開発を行っていく方針だ。他事業者とのローミングを踏まえて、「他の事業者とは(技術仕様の)歩調を合わせる」(尾上氏)考えだという。FOMA商用化の際にはドコモの独断専行が目立ったが、スーパー3Gや4Gに向かう姿勢では、グローバルな視野に立ち、協調路線を重視するようだ。

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