Xperiaの半分しか売れなかったGALAXY――ツートップの差はなぜ開いたのか?神尾寿の時事日想(3/3 ページ)

» 2013年08月05日 07時55分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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 このような状況に至った背景には、市場環境の変化がある。国内のスマートフォン市場は黎明期から普及初期が終わり、今の主役は「なんとなくスマートフォンを選ぶ」受動的な乗り換え需要に移り変わっている。ここでは最先端・高性能への関心は薄く、日常利用に過不足のない性能・機能があれば、あとは「できるだけ安くて、安心して使えるブランドを選ぶ」という傾向になっているのだ。

 この市場環境の変化を考えると、GALAXY S4は今の時代に合っていなかった、と言わざるを得ないだろう。同機は確かに最先端かつ高性能なスマートフォンではあるが、CPU性能の高さなどはハイエンドユーザー層に訴求できても、一般ユーザー層にはあまり響かない。また日本の一般ユーザー層が求める防水機能は搭載されておらず、日本におけるサムスンのブランドイメージは、Appleやソニーには遠く及ばない。それでいて当初の販売価格は同じツートップのXperia Aよりも高かったのだから、売れなかったのも仕方ないと言える。

 そして、もうひとつ。サムスンは今期のツートップ戦略において、大きな失敗を犯している。それは販売価格の違いでXperia Aに負けたことに焦り、自ら販売支援金を負担する形で、GALAXY S4にキャッシュバックをつけてしまったことだ。むろん、このようなメーカー負担による販促活動はシェアを落とさないために過去にも行われていたが、今回はあまりにもその時期が早すぎた。販売開始から1カ月程度しかたっていない新製品で、しかもツートップでもともと安くなっていたはずのところに、さらに2万円ものキャッシュバックを行ったらブランドイメージはガタ落ちである。今後「サムスンのスマートフォンは、ハイエンドモデルでも待っていればすぐに安くなる、キャッシュバックがつく」と思われてしまう。

 こうして見ると、サムスンは今後の日本市場において、課題を抱えていることが分かる。同社の商品戦略と日本市場のニーズは乖離しはじめており、それを埋め合わせるだけの製品の魅力や強力なブランドが構築できていない。とりわけ今後、一般ユーザー層が主戦場となる中において、サムスンブランドの好感度や信頼度が、Appleやソニーよりも劣っていることは大きな問題だ。日本市場にあわせてブランド戦略やマーケティング戦略をしっかりと行わなければ、サムスンのGALAXYシリーズはハイエンド市場でしか戦えないものになってしまうだろう。

ドコモの次期ツートップはどうなる?

 この原稿を書いているさなかに、NECがNECカシオモバイルコミュニケーションズが担う携帯電話事業を見直すという発表があった(参考記事)。NECは今後、フィーチャーフォンとタブレット端末の事業は継続するものの、スマートフォン事業からは正式に撤退するという。

 そのような中で、今年冬商戦のドコモの販売戦略はどうなるのだろうか。先に筆者が行ったドコモの加藤薫社長へのインタビューでは、冬商戦も引き続きドコモが一推しのスマートフォンを選定するとする一方で、「それ(選定する機種数)が2機種なのか、3機種なのかは分からない」(加藤氏)とされた。

 その上で、今夏のツートップ戦略の結果も踏まえて筆者が予想すると、おそらく次のドコモの一推しからはサムスンは外れるだろう。時期的に話題性のある新機種が出ない可能性が高く、今夏のツートップでの結果でも分かるとおり、今の日本市場にあった商品戦略とブランドをサムスンが構築できていないからだ。他方で、ソニーは次も残留し、ドコモの一推しの中に留まる可能性が高い。Xperia Aで見せたソニーの商品戦略・価格戦略は見事であり、国内でのXperiaのブランドイメージはiPhoneに次ぐレベルまで成長している。それをみすみすドコモが外すとは考えにくい。

 そして、サムスンに代わってドコモの一推しに昇格するのは、おそらくシャープだろう。

 同社のAQUOS PHONE ZETA SH-06Eは今夏のツートップからは外れたが、低消費電力の液晶パネル技術「IGZO」と、イヤフォン端子や充電端子に蓋をつけずに防水する「キャップレス防水」など、日本の一般ユーザーに訴求しやすい機能的な特長を持っている。実際、今夏のツートップ選定においても「販売現場では、GALAXY S4ではなくAQUOS PHONE ZETAを推す声は多かった」(ドコモ関係者)。実際の夏商戦の結果でも、絶対的な販売数量では特別割引のあるXperia AやGALAXY S4には及ばなかったが、他キャリアからのMNP獲得比率ではAQUOS PHONE ZETAはツートップの両モデルよりも高かったという。それらの結果と、今冬には懸案とされたIGZO液晶の生産効率や歩留まりも改善しているであろうことを鑑みると、ソニーと並んでシャープが"ドコモの一推し"の枠にはいる可能性は極めて高そうだ。

 ドコモは名実ともに国内最大のキャリアであり、スマートフォンの総販売数の規模もトップだ。そのドコモがあえて"一推し"を選んだ今夏のツートップ戦略は影響範囲がとても大きく、その是非について様々な議論があるのは当然だ。特にツートップに選ばれなかったメーカーにとっては死活問題であり、一部に怨嗟の声が生じるのもしかたないことだろう。また今夏のツートップにおいて、市場ニーズにあったメーカー/製品がきちんと選定されていたかというと、市場ニーズにあわないGALAXY S4を選んでしまったなど、選定基準やそのプロセスにいまだ課題がある面は否めない。

 しかし筆者は、今回のツートップのように「ドコモが一推しを選ぶこと」自体は、たとえ副作用が大きくても間違ってはいなかったと考えている。いや、より正しくいえば、「ドコモが一般ユーザー向けに、一定品質以上のスマートフォンを選別すること」は実はもっと早い段階から必要だったのだ。スマートフォンが一部のリテラシーの高いユーザーのものではなく、広くあまねく多くの人々のものになる中で、品質が低くて使いにくかったり、ニーズにあっていない製品を選別することは必要だ。フィーチャーフォン時代、ドコモの端末採用基準の厳しさは「ドコモ品質」と呼ばれ、メーカー担当者を悩ませる一方で、多くの一般ユーザーにとっては安心感につながっていた。またドコモが求める要求水準が厳しいことが、競争を促した一面もある。ユーザー視点で選ぶのではあれば、ドコモが一推しモデルを選定し続けることが、一般ユーザーにとっての安心感・信頼感となっていくだろう。その中で商品開発力や競争力がないメーカーや製品の淘汰が促されてしまうとしても、それはやむを得ないことである。

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