ニュース
» 2015年03月09日 16時20分 UPDATE

Googleマップにも採用:歩行者ナビ/カーナビを支える膨大な地図データ――その制作現場をゼンリン本社で見てきた (1/2)

スマートフォンユーザーの多くはナビサービスを使っているだろうが、これらのサービスを支えている地図データがどのように作られているのかはご存じだろうか? 今回、ゼンリンの本社にお邪魔して、地図データの制作現場を見てきた。

[田中聡,ITmedia]

 スマートフォンでは欠かせないサービスといえるナビゲーション。スマートフォンユーザーなら、GoogleマップやiPhone内蔵のマップなどを一度は使ったことがある人は多いだろう。アプリを起動すると地図が表示され、目的地まで案内してくれる――。こうしたスマホでは当たり前の機能は、膨大な地図データによって支えられている。この地図データを開発している企業の1つが「ゼンリン」だ。

 ITmedia Mobileの読者にとって、「ゼンリン」といえば、ナビゲーションアプリ「いつもNAVI」を提供しているゼンリンの子会社「ゼンリンデータコム」がなじみ深いかもしれないが、ゼンリンデータコムも、自社のサービスにゼンリンが整備した地図データを使用している。

 ゼンリンの歴史は、1948年に大迫正冨氏が、別府市で創業した「観光文化宣伝社」からスタートした。1949年から発行していた観光小冊子「年刊別府」の巻末に添えた市街地図が好評だったことから、大迫氏は「地図は添え物ではなく、最も重要な情報源である」と考え、1950年に「善隣出版社」に社名を変更。1952年から住宅地図帳「別府住宅案内図」を発行した。ゼンリンの社名は漢字にすると「前輪」なのかと思いきや、実は「善隣」だったのだ。この善隣は、大迫氏の「平和でなければ地図作りはできない」という思いから、隣国や隣近所と親しくすることを意味する「善隣友好」という言葉が由来となっている。

photo ゼンリンの事業沿革

 そして同社のターニングポイントとなったのが1984年。これまで手書きで制作していた地図データをいち早く電子化し、「住宅地図情報利用システム」を発表した。その後、GPSカーナビの研究開発に着手し、1990年に世界初のGPSカーナビゲーションシステム専用ソフトを開発した。2000年代にインターネットの普及が加速したことで、ネットワーク配信事業を行うゼンリンデータコムを設立し、ケータイやスマートフォン向けのナビゲーションサービスの普及に一役買った。現在、「Googleマップ」と「Yahoo!地図」にはゼンリンの地図データが採用されている。スマートフォンでは、月額900円(税別)で「ゼンリン住宅地図スマートフォン」を利用できる。

photo 地図のデータベース化が始まった1984年が同社の転換期になった

現在も1000人のスタッフが歩きながら調査

 興味深いのが、地図データが電子化された現在も、そのベースとなるデータは、ゼンリンが抱える1000人の調査スタッフの現地調査によって成り立っていること。スタッフが歩きながら、建物名、居住者名、番地、建物の入口、地下街などの詳細な情報を収集しており、都市部は毎年、そのほかの地区は2〜5年に一度の頻度で更新している。調査していないのは小笠原村と伊豆諸島(大島町と八丈町を除く)のみで、住宅地図データは日本全国の約99%を整備している。地図データのおおもとはアナログな方法で収集しているわけだが、人間が実際に足を運んで調べたデータだからこそ、その価値は高いといえる。

 データ収集の道具としては車も欠かせない。路面ペイント情報や高速道路レーン情報、幅の細い道路(細道路)の交通規制情報などは、計測機器を載せた専用車両で調査をしている。

photo 調査員の歩行調査や走行調査によって地図のデータを収集している

 さらに、安全なドライブアシスト「ADAS(Advanced Driver Assistance System)」に貢献する「高精度地図データ」を取得できる車両も用意している。この車両は、一般のカーナビで使われているものよりもはるかに高い精度で、経度、緯度、標高を測位できる計器を搭載しており、全方位カメラで撮影した画像と、レーザーで取得した点群情報をもとに地図化する。

 こうした高精度な地図データをあらかじめカーナビにインプットしておけば、急カーブや障害物などの危険をより簡単に回避することができる。ADASの商用化はこれからだが、ゼンリンは今後も車載システムの負荷を軽減し、ドライバーをアシストする技術を提案していく。

photo 高度計測車両や細道路規制情報収集車両も用意
photophoto 取材中に見せてもらった高度計測車両。全方位撮影できるカメラ、GPSアンテナ、3軸ジャイロと加速度センサーなどを搭載している(写真=左)。この円盤状のものがGPSアンテナ(写真=右)

最大1000種類のデータで構成――紙のデータがデータベース化されるまで

 調査員が足や車でデータを収集していることは分かったが、電子化はどのように行われているのだろうか? 今回、福岡県北九州市にあるゼンリン本社にお邪魔してきたので、地図データ制作の現場をリポートしたい。

photo ゼンリン本社

 調査員が紙に記入したデータは、ゼンリン本社へ送られ、スタッフが入力、修正をかけることで“住宅地図データベース”へと形成される。まずは形状データと文字データを修正し、その後に名字、住居番号、階数などのリンクを付けて、ポリゴンデータを作成する。地図データは氏名、ビル名、家形、道路などのレイヤーで構成されており、レイヤーは住宅地図だけでも400種類、そのほかを合わせると1000種類にも及ぶ。

photophoto 住宅地図のデータは400種類ものレイヤーで構成されている(写真=左)。住宅地図データベースを作成していく様子(写真=右)

 最後に、ドア to ドアでのルート検索を可能すべく、建物到着地点(出入口情報)をデータ化する。従来も、ランドマークや複合商業施設などの大きな建物は、到着地点の情報は整備していたが、現在は、それ以外の一般の建物も整備を進めている。例えば、マンションのエントランスまで案内できるようになる。この出入口情報も、調査員が調べたものがベースになっている。データベース上では、ひとまず一番近いと思われるところに印を入れ、現地で確認した内容をもとに、適時修正している。

photo カーナビでは、目的地まで正確に案内するドア to ドア案内にも力を入れている

 こうしてできあがった地図データは、顧客のニーズに応じた形にカスタマイズして提供している。例えば住宅地図であれば住民の名字まで把握する必要があるが、スマホ向けナビサービスではそこまでの情報は必要ない。必要なレイヤーを組み合わせることで、カーナビメーカーやコンテンツプロバイダー、出版社などのニーズに合わせた地図情報が提供可能になるわけだ。

photophoto 地図データベースを制作している社内の様子

細道路の規制も整備してドア to ドアの案内を可能に

 幅の細い「細道路」の各種交通規制(道路の幅や物理的な規制)を整備していることも、カーナビでのドア to ドアのルート検索に一役買っている。全方位360度のカメラを搭載した計測車両を調査員が運転し、2.5メートルピッチで画像を撮影して、道路標識を確認。「指定方向外禁止」「時間規制」などの規制情報を道路ネットワーク(データベース)に落とし込んでいく。「一時停止、信号機、高さ幅重量制限、最高速度、物理的に走行できない階段や車止めなどの情報も整備していきます」(ゼンリン担当者)

photo 細道路の各種交通規制を整備して、道路ネットワークに反映していく

 細道路規制が整備されていないと、目的地の周辺までしか案内できず中途半端に終わってしまうことがあるが、これを整備することで、小さな道路に面した民家なども正確に案内できるようになる。国道や県道などの大きな道路はすでにデータの整備が完了しているが、細道路の整備はまだ完成しておらず、2016年には全国の道路をカバーする予定だ。

photophoto 計測車両で取得した写真をベースにデータへ落とし込んでいく

 道路が開通してからすぐにサービス側で対応できるよう、ゼンリンでは開通前の道路情報もタイムリーに道路ネットワークに落とし込んでいる。まず、各都道府県が毎月発行している官報で開通情報をチェック。開通する道路があれば、路線名、始点と終点、住所などの情報をもとに、工事事務所などに問い合わせて道路の図面を入手。あわせて現地調査も行い、交差点周辺で看板や道路の路面状態などの写真を20〜30枚ほど撮影。これらの情報をもとに、手入力で地図データを作成していく。これにより、カーナビやWebの地図で、開通日初日から地図の表示やルートの案内が可能になる。

photophoto 官報で開通情報をチェックし、実際に開通道路があると、現地調査を行う
photophoto 開通する道路をデータ化していく

カーナビに使う看板は調査員が撮影した写真がベースに

 カーナビの経路誘導時には、実際のものと同じ、グリーンやブルーの方向案内の看板が表示されるが、この看板の画像もゼンリンのシステムでデータベース化している。

 まず、地図の調査員が歩きながら看板をカメラで撮影し、地名や方向などの情報を、ゼンリンのシステムに入力していく。その後、作った看板を地図データにひも付けていく。データのひも付けでは、例えば交差点に入るときは、4方向のいずれかから車が入り、3方向のうちいずれかに曲がるので、計12パターンの進み方がある。このように、経路と進行方向を地図にひも付けていく作業が必要になる。

 カーナビでは当たり前のようにある看板の画像も、調査員の地道な作業からできあがっているというわけだ。

photophoto 経路誘導時の看板画像は、写真を元にデータ化していく
       1|2 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.