善意が裏目に出た「LINEの10分無料通話」 震災時の安否確認はどうすべきか本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2016年04月15日 18時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 4月14日夜に震度7を記録した熊本県の地震。その後、さらに震度6弱の余震が発生。津波の恐れがないため、東日本大震災時ほどの混乱はないものの、寒い夜を屋外で過ごす被災者の映像を見ながら、親戚や知人の身を案じていた方も多いのではないだろうか。

 そうした中、LINEが発表した「LINE Out」(一般固定回線および携帯電話回線への通話接続サービス)の10分以内無料化が、賛否両論の意見を生み出した。筆者も本件については、東洋経済オンラインに別途記事を寄稿しているので、そちらも参照してほしい。

 筆者はLINEがいち早く震災直後にこのサービスについて発表したことを「軽率だった」と考えている。もちろん、LINE Outの無料化は、企業として災害時の社会貢献を果たすため、善意の気持ちから迅速に決めたのだろう。LINEの素早い行動や実行力には称賛の声も少なくない。それでも批判的なのは、本件が「善意があだ」となる典型的な例だと思うからだ。

LINE 熊本県で4月14日夜に発生した最大震度7の地震を受け、携帯電話と固定電話あてに電話をかけられる「LINE Out」が1回あたり10分まで無料となった。しかし、着信側は固定回線や携帯回線で受けるため、回線の混雑を招いてしまう。利用は極力控えたい

 本件については、既に幾つかの記事が掲載されているので、ここでは少し掘り下げて、LINE Outの無料化がなぜ問題だったのか、そして彼らはどうすべきだったのかについて話を進めたい。

 ごくごく基本的な話も含むため、通信について詳しくご存じの方には少しばかり冗長な文章が続くかもしれないが、しばしご容赦いただきたい。

音声回線の輻輳とLINEの音声サービス

 「災害時には音声回線の利用を極力控えてください」――このメッセージは、大規模災害時に繰り返し案内されているメッセージだ。東日本大震災時の混乱をきっかけに、こうした認識が広がったが、これはずっと以前から注意喚起されてきた。

 音声の通話回線は、かつての電話接続サービスを元に発展したものだ。電話は交換手を通じて目的の番号を持つ回線に、物理的に回線を接続してもらう必要があった。市外局番は、通話地域の入口となる電話局への接続番号、市内局番は各家庭を担当する最寄りの電話局の接続番号を示しており、最後の4桁によって最終的に加入者の回線が特定される。

 回線交換の手順は自動化され、その後、デジタル化されたことで、現在はコンピュータで仮想的に動作しているが、基本的なシステムは変わっていない(蛇足だが、この経路を逆にたどるのが「逆探知」である)。

 実際に「線」があるわけではないが、発話者から受話者に向け、仮想的に1本の電話線で結ばれるよう動作すると考えてもらいたい。仮想的ではあるけれど、1本の電話線を占有するため、その品質は保証される。

 しかし、交換機がこうした回線交換接続を行う容量は限られている。交換機の容量を超えた要求があると、市外局番ごと、市内局番ごとに交換接続が行えない状況に陥り、最悪の場合、システムダウンに至ることもある。「輻輳(ふくそう)」とは、このように通信要求が集中する状態のことだ。

 そこでシステムダウンする前に、交換機は通信要求に対する回線交換サービスを(自動的に)一時中断する。このとき流れるのが、「お客様がおかけになった電話は大変混み合っており……」というメッセージだ。

 この状態でさらに繰り返し接続要求が繰り返されると、接続できない状態がより長く続く。再び接続を試すためにリダイヤルすると、さらに状態の悪化を招く。さらに、災害時に冗長化されている回線の一部が断たれるなど問題が発生し、交換する回線経路そのものが限定され、接続が難しくなっていることも想定される。

 大規模災害発生時の安否確認による輻輳により、過去の災害でさまざまな問題が起きてきた。典型的な例は、電話回線はつながっているのに、助けを呼ぼうとしてもつながらない、といったケースだ。救急車を呼びたくて、何度電話をかけてもつながらないといったことを想像すれば理解できるだろうか。

 近年はインターネット通信が当たり前となり、またインターネット回線を用いた通話サービスも当たり前のように提供されている。インターネット回線を用いた通信は、小さな情報単位「パケット」に分割して情報が交換され、それぞれのパケットが通信回線状況に合わせて個別に届く、ベストエフォートと呼ばれるサービスになっている。

 さて、LINEの通話サービスは携帯電話網のパケット交換サービスを用いて提供されている。回線交換とは異なり、パケット交換は回線を占有しないため、輻輳によって通信しにくい状況は発生するものの、回線交換のように全くつながらない状況には比較的おちいりにくい。

 しかし、LINE OutはLINEによる音声通話サービスと音声回線の相互接続サービスである。同様のサービスにはSkype Outなどもあるが、相互接続設備の先は通常の電話と同じになるわけだ。

 ネット上で、災害時のLINE Out無料化を歓迎していた方々の声を見ると、LINEならば音声回線に負荷をかけないと思っていた例もあるようだが、災害地域内にLINE Outで発信すると、地域内の局交換機へと接続要求が発生するため、上記災害時の輻輳問題を助長してしまうことになる。

 災害発生時のLINE公式アカウントのアナウンスを見直すと、

「LINEから固定電話・携帯電話にかけられる「LINE Out」機能で、日本国内の番号への発信を1通話最大10分まで無料化しました。家の電話やLINEでつながっていない方への安否確認にご活用ください。#熊本 #地震 #拡散希望」

 と書かれており、災害地域外への発信、災害地域内への発信、両方の通信について、無料で自由にお使いくださいと書かれているように見える。

 近年、我々はパケット交換によるベストエフォートサービスに慣れており、短時間の意思決定を行う中で、十分に検討を行えなかったのかもしれないが、しかし、MVNOも手掛ける通信サービスの会社として、本件は勇み足だったと言わざるを得ない。

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