ソニーから分離・独立し、PC専業メーカーとして2014年7月1日に創業したVAIO。同社が注力しているビジネス向けPCに「プラスアルファの付加価値」をもたらすべく、自ら手がけたスマートフォン「VAIO Phone Biz VPB0511S」(以下「VAIO Phone Biz」)が、発売の日を迎えた。
開発コンセプトや端末名が示す通り、VAIO Phone Bizは法人ユーザーやビジネスマンをメインターゲットに据えている。法人での納入(購入)条件として盛り込まれることも多いNTTドコモのネットワークとの相互接続性試験(IOT)にも合格している。
キャッチコピーも「ビジネスを加速させるスマートフォン」と、ビジネス用途が主であることを暗に示している。
一方で、ソニー時代に個人向けPCで非常に“とがった”機種を展開していたこともあり、VAIOブランドには個人ファンも非常に多い。
果たして、VAIO Phone Bizはビジネスだけではなく、プライベートも“加速”できるのだろうか。さっそく検証してみよう。
VAIO Phone BizはSIMロックフリーの状態で販売される。通信に必要なSIMカードは別途用意する必要がある。公式の仕様では、microSIMカードに対応していることになっている。VAIOが公式に動作確認しているのは、以下のmicroSIMカードだ。
ドコモのSIMカードを挿入すると、上記の事業者を含めて30個の接続先情報(APN)がプリセットされる。ドコモ純正のISPはもちろん、ドコモ回線を利用する主要なMVNO(仮想移動体通信事業者)をしっかりフォローしている。もちろん、ここに記載されていないMVNOでも、APNを手動で追加することもできる。通話定額やシェアパックを目当てにドコモ純正回線を使うも良し、月額料金を抑えるためにMVNOの「格安SIM」で使うも良し、という感じだ。
ただし、「データ通信専用」かつ「SMS非対応」のSIMカードを利用する場合は、W-CDMA(3G)エリアでアンテナピクトを正しく表示できないことに注意しよう。
microSIMスロットはmicroSDスロットと一体化したトレイ式となっていて、取り外しには本体同梱のピンを使う。microSIMカードはトレイの奥側、microSDを手前側に載せて押し込めばよい。
だが、トレイの手前側にあるmicroSDスロットをよく見ると、別のものを載せるためにあるとしか思えない溝がある。実は、VAIO Phone BizはmicroSIMとnanoSIMを同時に搭載できる「デュアルSIM」に対応しているのだ。もし手元にnanoSIMカードしかなかったとしても、SIMカードの交換をせずに使うことはできる。
ただし、このnanoSIMカードスロットは、公式には“ない”ことになっている。使えても、サポート対象外となる。また、使った場合はmicroSDを装着できないことにも注意しよう。
SIMカードを同時に2枚挿入している場合は、片方のSIMカードでのみLTE/3Gでの待ち受けとデータ通信ができる。どちらのカードでこれらをするかは端末の設定で変更可能だ。もう1枚のSIMカードは、GSM(2G)で音声通話とSMSの待ち受けが可能だ。GSMは国内非対応の規格であるため、日本ではもう1枚のSIMカードは常に「圏外」ということになる。
なお、VAIO Phone Bizの公式仕様にはGSM対応は明記しておらず、VAIOとしても公式な動作保証は行っていない。本体仕様上は850/900/1800/1900MHz帯のGSMに対応しているが、海外での利用は保証されていない。「携帯電話無線機」として利用するための認証も、日本国内で必要なものだけ取得しており、海外ローミング(GSMの利用を含む)や現地で入手したSIMカードを使った通信は保証対象外となる。注意しよう。
VAIO Phone Bizのセールスポイントの1つが、Windows 10 Mobileのオプション機能である「Continuum for Phone」(以下「Continuum」)に対応していることだ。VAIO Phone Bizでは、Wi-Fi Directを使って画像と音声を伝送する「Miracast」を使ったContinuumに対応している。
Continuumは、外部出力先にPC版Windows 10とほぼ同じデスクトップを表示できる機能だ。VAIO Phone Bizにプリインストールされている「Microsoft Edge」や「Office Mobile」など、Continuum対応アプリでは、PC版に近いユーザーインタフェース(UI)で操作できる。
標準設定ではVAIO Phone Biz側をタッチパッドとして操作するが、USBまたはBluetooth経由でキーボードやマウスを接続することで、操作感はよりPCに近づく。ただし、USB接続をする場合、別途変換ケーブル・コネクターが必要となる。
なお、VAIO Phone BizはMiracastのオプション機能である「UIBC(User Interface Back Channel)」に対応しており、Miracastレシーバーから本体を操作することもできる。もちろん、レシーバー側もUIBCに対応している必要がある。
VAIOが推奨するレシーバー「ScreenBeam Mini2 Continuum」はUIBC対応で、付属のケーブルを使ってUSBキーボード・マウスを接続すると、それらの入力内容をVAIO Phone Bizに伝送できるようになっている。レシーバー側にキーボード・マウスをつなげておけば、VAIO Phone Bizを取り出してすぐにデスクトップ作業、ということもできる。
使い方次第ではPC要らずとなるContinuumだが、「PCライク」という面が、環境によっては違和感を生むかもしれない。例えば、キーボードを使って各種操作を行う場合、「Ctrl+S(上書き保存)」「Ctrl+C(コピー)」「Ctrl+X(切り取り)」「Ctrl+V(ペースト)」はといったショートカットは使えるのだが、「Alt+F4(アプリの終了)」「F5(内容の更新)」など、一部のショートカットは使えない。
あくまで個人の感想でしかないが、筆者はAlt+F4でアプリを終了できないことが思った以上に難儀だった。というのも、PCではアプリの終了(あるいはWindowsのシャットダウン)をこのショートカットでやっているからだ。筆者のような「キーボードショートカット依存症」のユーザーは要注意だ。
また、処理の負荷が大きくなる場面や無線LAN(Wi-Fi)の電波が飛び交うような場所では、突然Continuumが終了してしまったり、そこまで行かなくてもブロックノイズ(画面の乱れ)が発生しやすくなったりすることがあった。これはある意味でMiracastの“宿命”でもある。映像をMHL(HDMI)やDisplayPortで直接出力できれば、この問題を解消できるのだが、VAIO Phone Bizの場合はチップセットの都合から映像の直接出力に対応していない。次期モデル以降での対応に期待したいところだ。
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