日本通信から発売され、良くも悪くも話題を振りまいたVAIO Phoneの発売から約1年。ついに、VAIOが自ら手掛けたスマートフォン「VAIO Phone Biz」が登場する。発売は4月を予定しており、法人市場がメインターゲットながら、個人ユーザーにも販売する予定だ。
VAIO Phone Bizは、同社のフラッグシップモデルであるPCの「VAIO Z Canvas」とデザインに共通性を持たせ、ボディはアルミを削り出して作製。プロセッサに「Snapdragon 617」を採用しつつ、5.5型のフルHDディスプレイや、3GBのメインメモリを搭載するなど、スペックにもこだわっている。
Snapdragon 617を搭載したことで、無線でのContinuumにも対応。VAIOでは、法人市場に対して、PC風に使えることをアピールしていく構えだ。もう1つ、法人へのアプローチとして欠かせない、ドコモのIOT(ドコモ回線の相互接続性を確認する試験)も取得予定。これによって、キャリアアグリゲーションにも対応し、下りの速度は最大で225Mbpsまで出せるようになった同時に、ドコモの法人営業という強力な販路も手に入れることができた。
発売まで、まだしばらく待たなければならないが、VAIO Phone Bizは、Windows 10 Mobileの中では、期待の1台といえるだろう。この開発ストーリーを、VAIO ビジネスユニット2 ダイレクターの林文祥氏、商品企画部 商品企画担当の岩井剛氏、ビジネスユニット2の戸國英器氏の3人に聞いた。
―― 最初に、VAIO Phone Bizの企画経緯を教えてください。いつごろから、企画を立て、開発に至ったのでしょうか。
岩井氏 2015年、最初のVAIO Phoneが世に出るか出ないかといったころに、検討を始めていました。当時のVAIO Phoneは自社で作っているのではなく、監修という形で関わらせていただきましたが、単にハードを作るだけでなく、通信と融合した商品は深堀りすることができる。(その考えが)このVAIO Phone Bizもそうですが、VAIO S11にもつながっていきました。
―― 1年前の段階で、なぜスマートフォンを開発しようと思ったのでしょうか。Windows 10 Mobileの話が出始めたことも、関係がありますか?
林氏 内部では、PC事業のほかに、新しいカテゴリーの事業を立ち上げようと計画していました。その中の1つが、スマートフォンで、B2B市場に参入できれば、まだチャンスはあると考えていました。実は、当初はAndroidにするのか、Windows(当時はWindows Phone 8.1)にするのかは決めていませんでした。
ご存じのように、AndroidとWindowsは、同じハードウェアで動かすことができます。まずハードを決めてから、両にらみで事業を展開しようと考えていました。
そんな中で、2015年のBUILD(Microsoftの開発者向けイベント)で、Continuumというコンセプトが発表されました。もともとはデスクトップの機能でしたが、それがモバイルにも広がり、VAIOのようなPCメーカーにもつながるものになりました。それ以降、一気にWindows 10 Mobileに流れていき、以降はMicrosoftさんと、密にお話をするようになりました。
―― つまり、ContinuumありきでWindows 10 Mobileを選んだということですね。
林氏 はい。そうです。
―― Continuumを実際に使ってみると、現時点でPCを代替するのは難しいと感じますが、今後、性能が進化していくことも考えられます。その際に、VAIOのメインであるPCと競合することもありえるのではないでしょうか。その点は、どうお考えですか。
岩井氏 ある程度オーバーラップすることはありえると思いますが、PCがスマートフォンに変わっていくだけだと、VAIOとしては単価が下がってしまう。一方で、法人のお客さまに話を聞くと、今はモバイルのPCを持っていなかったり、持っていても外出時に持ち出せなかったりすることがあります。そういったところが、スマートフォンで仕事の続きができるようになれば、より快適になり、効率も上がります。また、PCを持っていなかった人がVAIO Phone Bizに触れていただければ、スマートフォンに加えて、VAIOのPCを持っていただけるチャンスもあります。
ですから、競合というよりも、補完関係にあると考えています。VAIO Phone Bizは、VAIOの世界観を、広げてくれるのではないでしょうか。
―― デザインをPCのVAIOに近づけたのは、そのためでしょうか。あらためて、外観の特徴を教えてください。
林氏 一発目からこれだったわけではなく、試行錯誤の中で、最終的にこのデザインに決まっています。決め手としては、堅牢(けんろう)性があります。ビジネスユースと言っておきながら、すぐに壊れてしまうのはよくない。その堅牢性に、PCのデザイン言語との親和性を考え、最終的にこの形になっています。
ただ、スマートフォンの経験が少ないVAIOが、電波の通りづらい金属筐体(きょうたい)を使うのは、ある意味無謀なことです。そのため、この方針が決まった後に、まずはアンテナベンダーを探し出しました。この機種はODMに製造委託していますが、アンテナ部分までお任せしているわけではありません。アンテナベンダーの話も聞いて、最終的に、ある1社をODMに紹介しています。
―― なるほど。丸投げではなく、設計段階からかなり関与しているということですね。その上で、最終段階としての「安曇野FINISH」があるのだと思いますが、これはどこまでやるのでしょうか。
岩井氏 PCの場合、一部、最終の組み付けをやっているものもありますが、VAIO Phone Bizに関しては、完成品の状態で一度安曇野に持ち込みます。最終チェックというと簡単そうに聞こえてしまいますが、外観の検査から始まり、タッチパネルやカメラが正常に動作しているかどうか、ボタンのフィーリングまで、全てやっています。工場からの出荷段階でももちろん、機械的にチェックはしていますが、最終的に、人の手でフィーリングまで確認して、OKかどうかの判断をします。
また、最終的なOSイメージのインストールも、安曇野で行います。そのため、ギリギリまでファームウェアのチューニングができる。これも、言葉で言うと、大したことをやっていないように聞こえてしまうのですが……(笑)。
―― 現状では、Snapdragon 820を搭載したHPの端末を除けば、日本で発表されたWindows 10 Mobileの中で、最も高いスペックを打ち出しています。これも、Continuumを意識したうえでのことでしょうか。
岩井氏 Continuumもそうですし、Officeでビジネス文書を扱うことも考えています。これも、スペックが低いと快適にならないですからね。スペックはいろいろと試してみて、ここに決まりました。
また、Windows 10 Mobile自体もブラッシュアップされていき、最新のバージョンではかなり軽くなりましたが、そうは言ってもお客さまは半年で買い替えるわけではありません。2年間ぐらい使うことを考えると、やはりスペックは高めの方がいいとなりました。
―― VAIO Phone Bizはメモリが3GBですが、これもContinuumを意識してのことでしょうか。
林氏 本体側のディスプレイがフルHDになるため、その上でContinuumを使おうとすると、メモリが多くないと厳しくなります。もともと、Continuum自体、3GBのメモリがマストという話もありましたからね。最終的には2GBでも動くことになりましたが、恐らく、3GBあった方が快適です。
Microsoftさんのサイトにも、ハードウェアの要件として、2GB以上が「Minimum Requirements」(必要最小限)、3GB以上が「Premium Recommendations」(推奨)という定義が載っています。
もともと、Snapdragon 617は、Continuumの対応リストにはありませんでした。機能としては動かせたのですが、Microsoftさんのポリシーで入っていなかった。しかし、弊社としてはどうしてもContinuumを実現したい。そこで、Microsoftさんに協力いただきながら、試作機を本国に送り、問題なく動作するかどうかを一通り検証していただきました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.