このようにIPv6の導入が進んでいますが、スマートフォンがIPv6対応になると、一体何が変わるのでしょうか。実は、スマートフォンの利用者にとって目に見えるような大きな変化はすぐに訪れないと思われます。
現在スマートフォンで利用されているアプリやサービスは、前述のようなIPアドレス節約技術が利用されることが前提となった作りとなっていることがほとんどで、通信がIPv6に切り替わったからといって、急に何かが改善されるわけではないためです。
しかし、IPv6がスマートフォンにとって全くの無意味というわけではありません。
スマートフォンのアプリの大半は、インターネット上にあるサーバと対になって動作します。アプリの利用が増えると、それに合わせてサーバの数も増えます。これらのサーバもインターネットにつながっている以上、それぞれIPアドレスを割り当てなければなりません。
ところが、IPv4に置けるIPアドレス節約技術は、スマートフォンの端末側においてはある程度有効ではあっても、サーバ側では有効に利用できない局面もあり、必ずしも万能の技術ではないのです。このままIPv4だけを使い続けていては、IPアドレスの不足によって必要な台数のサーバを用意できないという事態が来るかもしれません。
例えば、ゲームアプリではゲームの進行に合わせてサーバと通信を行うことがよくあります。多くの利用者が同時に遊ぶゲームの場合、サーバを多数並べて処理能力を確保していますが、サーバの台数に制限があるとこのような手段が取りにくく、結果、アプリの画面では「通信エラー」のような表示が出やすくなることが考えられます。
また、動画配信では大量のデータを多数の人に送るために非常に多くのサーバが使われていますが、サーバの台数が確保できなければ、1人あたりのデータ量を削減しなければならず、画質が従来よりも悪くなってしまうことも考えられるでしょう。
IPv6であればIPアドレスの数は十分にありますので、必要なだけのサーバを用意することができます。今のスマホの使い方を今後も続けるために、IPv6という新しい技術が必要になってくるという側面もあるのです。
携帯電話網の利用という広い視点で考えると、今後利用の急増が見込まれるIoTでもIPv6が必要になってくるかもしれません。IoTでは、1人が1台のスマートフォンを持つというような使い方ではなく、身の回りにあるたくさんのものがインターネットにつながります。そうなると、インターネットにつながる機器の台数が飛躍的に増えることが予想されます。もちろんこれらの機器にもIPアドレスを割り当てる必要があります。こうした膨大な需要に応えるためには、IPv6の方が適しています。
IPv6そのものには通信速度が速くなったり音声がきれいになったりというような、分かりやすいメリットはありません。そのため、IPv6の導入がなかなか進まないというのもある意味仕方がないのですが、インターネットや携帯電話網の今後のためにも地道に取り組んでいく必要があると考えています。
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 課長 (技術広報担当) 兼 MVNO事業部 事業統括室 シニアエンジニア
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
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