では、なぜドコモはベーシックパックやベーシックシェアパックを導入したのか。吉澤氏によると、その理由は大きく2つある。1つが、総務省の方針に沿うというものだ。吉澤氏は「総務省の検討会の中でも、利用の少ないお客さまにできるだけチューニングした料金をということもあり、さらに踏み込んだ」と語っている。
総務省の「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」では、料金が自動で決まるauピタットプランが一定の評価を得ていた。この検討会を踏まえた報告書にも、「過去の利用実績等に基づき利用金額が適正となる料金プランの例を利用者に案内するようMNOに要請」と記載されているが、段階制のデータパックは、これに満額回答以上の答えを示した料金プランといえる。
低容量から中容量までの料金を下げたのは、この領域に強いサブブランドに対抗するという意味合いもある。吉澤氏は「お客さまのご利用を分析したところ、パケット量の少ないお客さまの流出が増えている兆候もあったので、もう少し下(の料金)を作った」としながら、「顧客基盤を強化する狙いで、こういうものを作った」と語る。Y!mobile、UQ mobileやMVNOへの流出を抑止し、解約率を下げるというのがドコモのもくろみだ。
実際、先に段階制の料金プランを導入したKDDIは、「auピタットプラン、auフラットプランを入れ、かなり刺激的だったが、流出抑止に効いている」(KDDI高橋誠社長)という。新料金プラン導入以降、auブランドの純減は減っており、「解約率も低下している」(同)。ドコモも、同様の止血効果を狙ったというわけだ。
ただし、単なる流出抑止だけでなく、ドコモでは「アップセル効果もある」(ドコモ 取締役常務執行役員 佐藤啓孝氏)と見ている。新料金プランに魅力を感じて加入者が増えたり、段階制を選んでデータ通信を以前より使う人が増えたりすれば、値下げ分の減収を補えるという。ドコモは、導入当初は300億円程度の減収に見舞われるが、「時がたつにつれて回復して、全体としてプラスになる」(同)と見込んでいるようだ。
auに続き、ドコモも段階制プランを導入することで、少なくともMNOの料金プランは、この形がスタンダードになりつつある。一方で、ソフトバンクは、低容量から中容量のY!mobileと、大容量のソフトバンクというように、利用スタイルごとにブランドを分ける戦略を取る。こうした事情もあるため、ソフトバンクがすぐに段階制の料金プランに追随するかどうかは未知数な部分はあるが、あらかじめ使うであろうデータ容量をユーザーが選ぶという常識は、徐々に過去のものになっていきそうだ。
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