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手数料0%よりも“顧客体験”が重要 みずほ銀行のモバイル決済戦略を聞くモバイル決済の裏側を聞く(1/3 ページ)

» 2018年08月24日 06時00分 公開

 みずほ銀行は2018年3月22日、ジェーシービー(JCB)と大日本印刷(DNP)との提携でスマートフォンを使ったデビット決済「スマートデビット」と、これを利用するためのスマートフォンアプリ「みずほWallet」の提供を開始した。支払いには「QUICPay+」を使い、銀行口座から即座に代金が引き落とされる。大手メガバンクが“ウォレット”サービスの世界に直接参入したことで、注目を集めている。

みずほWallet みずほ銀行がモバイル決済の世界に本格参入した「スマートデビット」と「みずほWallet」アプリ

 “ペーパーレス”という特徴も備えている。従来の金融サービスで求められていたような書類提出やカード発行審査までの待ち時間はなく、みずほの銀行口座やJCBのデビットを所持する利用者であれば、誰でも簡単な本人確認プロセスを経るだけでデビットカードが即時発行され、ウォレットアプリによる金融や決済サービスがすぐに使える。

 これまで、モバイル決済サービスでは「利用開始までのステップが長く難しい」ことが普及のネックだが、Apple PayやGoogle Pay(Android Pay)が登場したことで、そのハードルが下がりつつある。みずほWalletは、こうした最近の“いいトレンド”をうまく取り入れる形で、使い勝手のいいサービスとなっているのが特徴だ。7月初旬時点でアプリは20万ダウンロードを達成しており、好調なスタートを切ったといえる。

 みずほWalletやスマートデビット登場に至るまでの経緯や背景、そしてメガバンクの1社であるみずほが昨今のトレンドをどのようにみているのか? という点を、みずほ銀行 個人マーケティング推進部 デジタルチャネル開発チーム 参事役の西本聡氏に聞いた。

スマートデビットは小口決済をカバーする

 「キャッシュレス」という言葉が乱れ飛ぶ昨今だが、「日本の金融を次の段階へと進め、この分野で先行する形となっている諸外国が得ているメリットを享受したい」という大きな目標がある一方で、関係各所がキャッシュレスへの動きを機に金融システムへの食い込みを狙う“我田引水”的な側面が見られるのも現状だ。

 中国のAlipayやWeChat Payが典型例だが、中国政府による規制緩和を背景に新興のインターネット企業が顧客を一気に取り込み、既存の金融ネットワークを上回る勢いで新たな資金流通網が構築されつつある。最近、日本で特に活発化しているのは、第2のAlipayやWeChat Payを狙う企業群だ。こうした状況をみずほ銀行はどうみているのか。

みずほWallet みずほ銀行 個人マーケティング推進部 デジタルチャネル開発チーム 参事役の西本聡氏

 「(経済産業省が2025年までにキャッシュレス化比率40%という目標を掲げて)業界で動いているわけですが、キャッシュレスが伸びていく領域は主に2つあります。1つは小口決済、そしてもう1つがECです。実はリアルな加盟店ではないんです。

 誤解のないように説明すると、日本におけるEC化率というのは10%も行っていません。今後AmazonやYahoo!、そしてメルカリなどが伸びてくると思いますが、そこでの決済はクレジットカードや電子マネーがメインで、その他に銀行決済や代金引換などもあるという世界です。今後高齢化が進んでいく中で、ネット、スマホを活用する世代も拡大し、EC化率が上昇することで、クレジットやデビットの決済が増え、キャッシュレス化比率が何十%という数字に近付いていきます」と西本氏は説明する。

 今回登場したみずほWalletの「スマートデビット」は、このうちの「小口決済」の領域を主にカバーしていく。西本氏によれば、このスマートデビットの決済単価は1000円以下を想定しているという。デビット(Debit)は銀行口座直結で、決済金額が即時引き落としされるため使いすぎのリスクが回避できるうえ、お金の出入りが口座から逐一チェックできるというメリットがある。

 主に欧米では銀行カード(ATMカード)とともに発行されるブランドデビットのカードが広く普及しており、決済件数でクレジットカードを上回る利用率となっていることが知られている。一方で日本では国内版デビットであるJ-Debitの広域普及に手こずった経緯もあり、「クレジットが100とするとデビットが1」(西本氏)という市場規模だ。

 最近でこそJCBやVisaがブランドデビットの普及に非常に力を入れており、プリペイド型のものも合わせてようやくニーズが高まってきた段階だ。西本氏は「スマホデビットをプロダクトアウトの発想で取り組んだわけではないが」と前置きするが、マーケットのニーズを起点にサービスを設計し、利便性をきちんと担保した上で使い勝手のいいサービスとして開発したのが、今回のみずほWalletとスマートデビットだという。

 「デビットという領域に関して、J-Debitは家電量販店と組んでいたこともあり数万円程度(最近では数千円のケースもあるという)を想定しており、(カードブランドのロゴが付いた)ブランドデビットは5000円から1万円程度で、決済単価が高額のところはある程度キャッシュレスを実現できていたと考えます。私などは100円の決済単価でも使ってしまいますが、これまで現金が圧倒的に大きい存在として残ってきて、一部で電子マネーの利用が広がっているというのが小口決済の領域です。スマートデビット開始で、ようやくこの領域をカバーできるのではないかということです」(西本氏)

なぜ銀行が決済サービスを提供するのか

 「2010年11月にAppleとの連携でスマホバンキング、2011年5月にNTTドコモとの連携でARアプリ、2014年12月にWeb上でのお客さま案内のための「みずほMessenger」、2016年から2017年にかけてはAlexa対応のAmazon Echoスピーカーとの連携、MoneyTreeやfinbeeとのAPI連携など、みずほ銀行が業界の先進的なモデルを作り、真っ先に実践してきたのではないかと思っています」と西本氏はみずほ銀行のアプリ/サービス開発の歴史を説明する。

 実際、今回のスマートフォンを使ったデビット決済のサービスも、2018年2月にみずほ銀行が発表し、次いで6月にじぶん銀行が追随するなど(2019年春リリースで対面/オンライン両対応はじぶん銀行が初)、確かにみずほ銀行のリードが目立っている。両社を取材したところ、サービスの開発期間自体はどちらも同じ程度ではあるものの、結果的にみずほ銀行がリードした形だ。

 気になるのが、なぜ銀行であるみずほが決済サービスを始めたのかという点。西本氏は次のように話す。

 「預金と貸し出しと為替決済が銀行の3大業務で、決済はその1つでもともとの本業です。例えば決済をすると残高や入出金明細に反映されますが、MoneyTreeとの連携で家計管理ができるようになったり、あるいはfinbeeの“おつりで貯蓄”を介して資産形成運用ができたりと、そういう価値をシームレスに提供できるよう取り組んでいくのです。連携のためのAPIもそれ自体が主役ではなく、あくまで自前で開発するか、APIを通じて他社と組むかという違いでしかありません」

 スマートデビットという仕組みも、こうした発想で誕生したものだ。クレジットにはクレジットの良さが、デビットにはデビットの良さがあると同氏は前置きするものの、クレジットは結果として借金、電子マネーはチャージが面倒という特徴があり、こうした部分をデメリットと感じる人がデビットの銀行口座直結をメリットに感じることができるという。

 口座直結のため、出入金管理が同時にできるというメリットもある。「これが最も重要なところですが、プロダクトアウトの発想ではなく、利用者起点であるかということ。みずほWalletは先行したAndroid版ダウンロード数だけで20万の実績があり、既にたくさん使われています」と西本氏は胸を張る。

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