規制改革会議が「分離プラン推進」答申を発表 その中身について考えた(2/3 ページ)

» 2018年11月23日 13時55分 公開
[井上翔ITmedia]

答申の中身を考える

 今回の答申について、筆者はいくつかのポイントに注目した。あくまでも“私見”ではあるが、論じてみたい。

日本の携帯電話料金は本当に「割高」なのか?

 「日本の携帯電話料金は割高」という指摘の根拠として出てくるのが、総務省が9月19日に公表した2017年分の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」の結果だ。

 この調査の概要に出ているシェアが第1位のMNO(日本は「NTTドコモ」)で比較した場合、東京(日本)の通信料金は比較対象の各都市より有意に高い傾向にあることが分かる。

 しかし、シェア1位以外のMNOにまで範囲を広げて一番廉価なキャリアで比較をしてみると、2GBプランや5GBプランといったライトユーザーを想定したプランは「高くも安くもない」水準である一方、大容量プランはやはり割高ということが分かる。

 日本における今までの料金議論では、ライトユーザー向けの小容量プランに注目が集まりがちで、それに応えるようなプランも各MNOから登場してきた。しかし、ライトユーザーに目を向けすぎたばかりに“ヘビーユーザー”をどうするかという視点が抜け落ちてきた面もある。

 旺盛に通信をするのだから料金が高いのは当たり前……ではあるのだが、割高感を緩和するためにはヘビーユーザー向けのプランこそ工夫を凝らすべきともいえる。

シェア1位同士の比較 世界の主要都市におけるシェア1位の携帯電話事業者同士で比較すると、東京(=ドコモ)のデータ通信料を含む携帯電話料金はヨーロッパや韓国(ソウル)と比べると有意に高い(総務省資料より)
シェアを問わず最安値で比較 シェアを問わずMNO同士で比較すると、東京は大容量プランこそ割高であることが分かる(総務省資料を参考に筆者作成)

 もっとも、この比較では定期契約(いわゆる「縛り」)によるもの以外の割り引き、通信インフラの状況、平均通信速度など、国固有の事情は考慮に入っていない

 料金は安いに越したことはないが、「外国と比べて高いから安くする」のはあまりにも短絡的すぎる思考だ。MNOがモバイル事業に現在かけているコストと、将来かかるであろうコストを精査した上で値下げが可能かどうかを検討すべきだろう。

定期契約のあり方と契約解除料

 今回の答申では、キャリアを乗り換える際の「スイッチングコストの抜本的な引き下げ」が盛り込まれている。この中でも、期間拘束契約と自動更新のあり方は特に重要なポイントだ。

 日本のMNOでは2年(24カ月)契約を自動更新するスタイルが主流。海外でも月額契約(ポストペイ・マンスリークリア方式)では1〜2年(12〜24カ月)の契約期間拘束が一般的だが、日本でも一部のMVNOが導入している最低利用期間方式で、契約の自動更新はない参考記事)。

 定期契約を自動更新としている理由として、MNOは「知らない間に料金が上がってしまうことを防ぐ」ことを挙げている。この主張には一定の理があり、乗り換えるつもりのないユーザーには実際にメリットがあるものの、一部のMVNOからは定期契約の自動更新が乗り換えの阻害になっているとの指摘が出ている。

 翻って、乗り換えまたは解約を考えているユーザーの立場に立つと、自分の契約更新期間を把握していれば良い方で、自分の契約更新期間を“知らない”という人も思った以上に多い。MNOはSMSやハガキなどで契約満了の旨を通知するようにしているものの、その通知すら“知らない”という人もいる

 このような現状を踏まえると、拘束の期間や方法を含めた定期契約のあり方を見直すことは必須だろう。総務省からの指導を受けて、MNOは2018年度内に契約満了月も契約更新期間に含める改善を行うが、これでは不十分との議論が出てくれば、自動更新の禁止も検討されるかもしれない。そうなると、最低契約期間方式への移行が進むだろう。

 ただ、先述の通り自動更新によって得られるベネフィットもある参考記事)。そのため、自動更新を申し込み制とする方向も考えられる……が、先述の通り自分の契約状況を把握できていない(把握しているつもりでできていない)ユーザーが一定数いることも配慮に入れると、機械的な自動更新禁止(廃止)は新たなトラブルの温床になりうる。

 議論は不可避だが、“落としどころ”は綿密な検討が必要そうだ。

契約更新メール 筆者のもとに届いた「契約期間満了および契約更新のご案内」。これを「見ていない」「知らない」という人も一定数いるという

 契約解除料のあり方の議論も重要になってくる。

 そもそも、契約解除料を含む違約金は契約を解除された場合に役務提供者が被る「平均的損害」を補填(ほてん)するために設定されるもの。現在、MNOの定期契約は24カ月が主流で、その解除料は一般的に税別9500円(税込1万260円)に設定されているが、期間と金額設定が妥当なものであるかどうか真剣に検討することが避けられないだろう。

 一部のMVNOからは、初回契約の更新後も契約解除料が変わらないことに疑問の声も挙っている。キャリア間の乗り換えのしやすさを担保するために、見直しの過程で契約解除料の逓減制(契約の残月数が少ないほど解除料も下がる方式)の導入を促進するというシナリオも考えられる。

 この場合、定期契約の有無による月額料金の「差額」の妥当性と合わせて検討しないと意味がない。ドコモでは初回の定期契約が満了した後に、特典を付与しない代わりに月額料金を据え置くオプションを用意しているが(参考記事)、au(KDDI・沖縄セルラー電話)やソフトバンクでは同等のオプションを月額数百円割高な設定としている。この「数百円」が焦点になるだろう。

auピタットプラン auの場合、契約から2年経過すればいつ解約しても契約解除料がかからない「自動更新なし」プランを用意しているが、自動更新ありのものより一律で300円割高となっている(画像はauピタットプランの場合)。この金額の妥当性については議論の余地がある

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