今日から始めるモバイル決済

技術的に可能ならできる仕組みを整えるべき――総務省が「JPQR」を推進する理由

» 2019年07月31日 20時20分 公開
[井上翔ITmedia]

 総務省は7月31日、コード決済サービスで用いるQRコードやバーコードの統一規格「JPQR(ジェイピーキューアール)」の広報大使を任命するイベントを開催した。広報大使には吉本興業所属の漫才コンビ「銀シャリ」が就任し、地域サポーターを務める同社所属の「住みます芸人」と共に、8月1日から始まる実証事業を盛り上げる。

 式典には、総務省から秋本芳徳統括審議官が参加。JPQRにかける思いを語った。

任命式 総務省の秋本統括審議官(中央)、JPQR普及事業広報大使を務める銀シャリの鰻(うなぎ)和弘さん(左)と橋本直さん(右)
住みます芸人 銀シャリの他、実証事業を実施する岩手、長野、和歌山、福岡の4県の「住みます芸人」もJPQRの普及を担う

「普及しない」と言われた携帯電話と電子マネー

 任命式に先だってあいさつに立った秋本統括審議官は、NHKが2018年9月から11月にかけて行った世論調査の結果に言及した。

 この調査では、10項目について平成年間(1989年〜2018年)で「良くなった」か「悪くなった」かを尋ねている。その中で、一番「良くなった」と回答した比率が一番高かったのが、「情報通信環境」だ。秋本氏いわく、この分野で「どうせできっこない、普及しない」と言われたものが少なくとも2つあるという。

 その1つが「携帯電話」。NTT(日本電信電話)が移動体通信事業をエヌ・ティ・ティ移動通信網(現在のNTTドコモ)に譲渡した1992年、あるNTT社員が秋本氏に「日本では携帯電話が普及しない」と語ったという。その理由は「先進国で一番多い公衆電話の設置台数」と「固定電話と比べて非常に割高な料金」だ。

 もう1つは「電子マネー」だ。1997年、大蔵省銀行局(現在の金融庁の前身の1つ)のある担当者が「日本では電子マネーは普及しない」と語ったという。その理由は「先進国で一番普及しているATM(現金自動預け払い機)とCD(現金自動支払い機)」だ。

 しかし現在、単純な回線数ベースにおいて携帯電話の契約は「1人当たり1回線」を超えており、日本人の生活に欠かせないものとなっている。電子マネーについても、首都圏では交通系電子マネーである「Suica」や「PASMO」が普及し、地方でも地域によっては「WAON」や「楽天Edy」が広く受け入れられている。2人の「預言」は外れてしまったのだ。

秋本さん 任命式に先だってあいさつに立った秋本統括審議官

技術的に可能ならやるべき

 キャッシュレス決済が普及しない原因の1つとして、加盟店が支払う手数料の高さがよく挙げられる。コード決済サービスの多くは既存のカードや電子マネーよりも手数料率を抑えている上、初期費用も低廉となっているため、今までキャッシュレス決済を導入できなかった店舗でも導入しやすいと言われている。

 しかし、サービスの“乱立”により、対応サービスが増えるほど店舗運営における負荷が増すという課題が出てきた。コード掲示式のサービスなら「サービスの数だけQRコードを掲示するスペースを確保しなくてはならない」という事例、コード読み取り式のサービスなら「どのアプリで(ボタンを押して)読み取らないといけないのか分からない」という事例はその典型だ。利用する側も、行く店によって対応する決済サービスが違うとアプリの「使い分け」が大変になり、結局使わなくなってしまう。

 そういった“煩雑さ”を技術的に何とかしようというアプローチの1つがJPQRだ。店舗、あるいはアプリが表示するQRコードやバーコードの仕様を統一することで、店側は(加盟店契約の内容にもよるが)複数の決済サービスに対応しやすくなる。そうなれば、ユーザーは使える決済サービスによって店を“えり好み”しなくて済むようになる。

JPQRの例LINE Payで読み取り 任命式では、JPQRの店頭掲示コードをLINE Payアプリで読み取って決済するデモンストレーションが行われた

 先述の「普及しないと言われて普及した」事例を踏まえて、秋本統括審議官は「『どうせ普及しない』『どうせできっこない』と指摘を受けたことでも、技術的にできることは、制度上あるいは実務上できるようにしておいた方が良い」と考えるようになったという。

 ある意味で、JPQRも「技術的にできること」の延長線上にある。コード決済サービスが“相乗り”できる「制度」であるJPQRによって、コード決済の普及が進むのか――これからが正念場といえる。

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