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» 2007年06月25日 11時18分 UPDATE

後藤重治のPC周辺機器売場の歩き方:最終回:リアル店舗は滅亡に向かうのか

前回まで販売店の販売力低下の問題と応援販売というシステムについて詳しく述べた。最後に販売店とメーカーの関係にも触れつつ、この問題を総括したい。

[後藤重治,ITmedia]

「型番を指名買いする客」「製品選びを店員に委ねる客」

 現在のPC関連製品は、製品のライフサイクルが非常に短い。個々の製品について詳しく知ることもないまま、製品ラインアップが変遷していく。こうした状況に加え、いわゆるロングテールに分類されるニッチ製品が増加している現在、販売員が1つ1つの製品について深い知識をつけるのは難しい。

 そもそも、Windows 95以降、PCや周辺機器を買いに来る客は、型番まで決めて指名してくるユーザーと、製品選びそのものを店員に委ねてしまう初心者とに二極分化しつつあり、今では、接客が必要な客とそうでない客とがはっきりと分かれている。製品選びを店員に委ねる初心者は、製品知識があまりないこともあり、店員はディープな製品知識を持っていなくても対応できてしまう。つまり、店員自身、製品をあまり知らなくてもあまり支障がないのだ。

店頭に立つのは応援販売員、レジ打ちは店員

 ここに、前回述べたメーカーの応援販売員が加わることにより、販売店の店員が直接接客する必要性はさらに減少する。応援販売員は初心者に自社製品、それも店側と事前に「握った」製品を強く勧めて売上を稼ぐ。店員は全体のコントロールとレジ打ちに専念し、たまに突っ込んだ質問が来たときは、メーカーの応援販売員に振ってしまう。こうして、販売店の店員は、次第にレジ奥に引きこもるようになる。

 販売店の側からすると「人件費の高い正社員が売場に張り付いているようでは、店の利益率は改善しない。正社員がスタッフをコントロールする側に回るのは当然だ」と言うだろう。その理屈は正しい。が、ここでの問題は、その代わりに店頭に立っているのが、直接の指揮下にある販売店の契約社員ではなく、人件費が事実上ゼロであるメーカーの応援販売員であることなのだ。

 余談だが、メーカーから派遣される応援販売員は、値引きの権限もほとんどなく、レジを打つこともできない。よく、レジが客でごった返しているのに、レジを打とうとしないスタッフを見たことがあると思う。彼らは決して気が利かないわけでもなければ、レジ打ちをサボっているわけでもない。レジを打つ権限がないから、そうせざるを得ないのである。

店員に接客スキルが求められない時代

 さらに、家電量販店の出店ラッシュに伴う新卒の大量採用により、深い製品知識を持った店員を育てる従来のような土壌がなくなってしまったことも、こうした状況に拍車をかけている。中途半端な知識のまま店頭に立つ新入社員は、製品の知識を身につけるよりも、むしろ質問のかわしかたを会得しようとする。その中には、前述のように、メーカーの応援販売員に接客そのものを振ってしまう方法も含まれる。さまざまな理由により、販売店の店員が製品を説明できなくても問題ない状況が増えつつあるわけだ。

 これに関連して、ひとつ興味深い話がある。メーカーが販売店に対して定期的に行う「製品勉強会」において、店員の側からかつてほど製品に関する突っ込んだ質問が出なくなっているというのだ。この逸話も、製品知識をつけなくても支障ないという雰囲気が、店員の側に蔓延してしまっていることを示している。

 このほか、販売店の店員が店頭に立たなくて済むようになった要因のひとつとして、ポイントカードシステムの普及も挙げられる。かつては店頭で、店員と客が値引きを巡って交渉している光景はよく見られたものだ。しかしポイントカードの普及で、こうした値引き交渉の機会は大幅に減少した。その結果、客との駆け引きのスキルは不要となり、売場に立つのは応援販売員でも代替が可能になったというわけである。

 余談だが、客からの値引き要求をはねつけるために、そもそも値引きの権限がない応援販売員を店頭に立たせている──という説もある。これはこれで正鵠を得ているように思える。

販売店=持ち帰りOKの倉庫?

 ネット通販とリアルな販売店を比較した場合、リアルな販売店で製品を買うメリットのひとつに、店員の中立的な視点で製品の紹介を受けられる点がある。しかし、これまでも述べてきた事情によって販売店がその役割を放棄するなら、残されたメリットは「実機に触れられる」「在庫がある」という2点に集約される。ほかにあるとすればアフターサービスだが、PC周辺機器業界においてはほとんどがメーカー対応となるため、販売店の独自色は出しにくい。あるとすればドット欠け保証くらいだ。

 「実機に触れられる」が、消費者にとって大きなメリットであることは、通販を主体とするPC本体メーカーやPC周辺機器メーカーの多くが、自社運営のショウルームを展開しつつあることからも裏付けられる。狭苦しい販売店の一角に、多額のリベートを払って期間限定で展示コーナーを設けるよりは、集客力がないデメリットを差し引いても自社でショウルームを設け、納得の行く展示をする方法を選択しているわけである。

 となると、最終的に販売店の役割として残るのは「在庫を持っている」という1点に絞られてしまう。実際、すぐにモノが必要な場合、ネット通販がどれだけ頑張ってもリアル店舗にはかなわない。しかし、そのわずか1点を除いて、リアル店舗がその意味を喪失する時代は目前に迫っている。販売店をショウルーム代わりにしか使わなくなり、販売店で製品を買うのは急いでいるときだけ、という傾向は、今後もますます顕著になっていくかもしれない。

小規模メーカーと販売店は新たな関係を構築する

 ここまで、販売店のメリットが限りなく減少し、ネット通販に移行していくであろう要因について述べてきた。しかし、現実的には、ネット通販とリアル店舗の販売量がいきなり逆転することは、まずありえない。家族や友人知人とブラリとショッピングに出かけるという、ライフスタイルの側から見た行動要因も含めて、リアル店舗の需要がゼロになることはまずないからだ。メーカーが理不尽さを感じつつも、リアル店舗に頼って販売量を維持する傾向は、依然続くとみてよい。

 ただ、大手メーカー寡占の動きの影で、通販や卸主体の販売ルートに特化した小規模メーカーが続々出現している事実も見逃せない。こうしたメーカーの多くは、かつて大手メーカーに在籍していた社員が主体となって立ち上げられているケースが多い。そして彼らは、販売店との直接交渉を避けることで、応援販売やリベートといった「火の粉」がふりかかるのを回避している。

 彼らによって、リアル店舗による販売数量重視のビジネスモデルではなく、限られた資本と人員による利益重視で事業を回していくビジネスモデルが構築されようとしているのである。ひょっとすると、こうした動きにこそ、今後の販売店とメーカーのあり方についてのヒントが隠されているような気がする。


 以上、約1年、12回にわたって「PC周辺機器売場の歩き方」と題し、PC周辺機器メーカーの側から見た業界ウラ事情をお届けしてきた。予定していたエピソードをひととおり書き終えることができ、編集部および担当編集氏、連載開始時の担当編集氏には深く感謝している。これまで読んでいただいた読者諸兄には、またどこかでお会いしたい。

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