撮影時の色域およびカラーマネジメントを行う場合の作業用領域については、Adobe RGBの色域を使う場合が多くなっており、液晶ディスプレイの色域はAdobe RGBに等しいか、もしくは多少超えているのが理想という。
現状の液晶ディスプレイ(広色域をうたう機種)で表示できる色域は、ある部分ではAdobe RGB以上、ある部分ではAdobe RGB以下になっている場合が多い。Adobe RGBを超える部分は、表示に使われなかったり、作業用領域から外れて使われないことになる。逆に、Adobe RGBより狭い部分は表示できず、作業用領域からは有効エリアとは見なされなくなる。
ただし、液晶ディスプレイの色域が広すぎることで弊害もあるという。Adobe RGBを再現することが目的の場合、液晶ディスプレイの色域が広すぎると、色域を圧縮して表示する場合に階調性を維持するのが難しくなるからだ。
「液晶ディスプレイの色域があまりに広すぎると、色域を圧縮する際に使われない部分が多くなり、RGB各8ビットの処理では階調がロスしてしまう場合があるので注意が必要。研究開発など特殊な用途以外では、広色域すぎる液晶パネルが効果的ではないと考えている」(森脇氏)。
現在、市場にはAdobe RGB対応をうたう液晶ディスプレイが数多く存在しているが、ナナオはカタログスペックの「Adobe RGB比」という表現には注意が必要だと警笛を鳴らす。Adobe RGB比とは、液晶ディスプレイの色域とAdobe RGBの色域の面積比を指す場合が多く、赤、青、緑の座標がAdobe RGBの座標からずれていても、面積比さえ同じならば、「Adobe RGB比100%」という表現が可能になるからだ。色域の面積比だけでは、実際にどの程度Adobe RGBの色域を表示できるかは把握できないという問題がある。
これに対して、ナナオは広色域の液晶ディスプレイで「Adobe RGBカバー率」という言葉を採用している。液晶ディスプレイの色域をAdobe RGBの色域と比較する場合、どの程度Adobe RGBの色域を覆っているかを示す指標だ。ナナオは、2004年に投入したAdobe RGB対応モデル「ColorEdge CG220」以来、Adobe RGBカバー率という表現を一貫して使っている。ちなみに、他社製品でもAdobe RGBカバー率という意味で、Adobe RGB比という表現を使っている場合があるという。
「現状では、Adobe RGB比と表現している製品が、液晶ディスプレイの色域とAdobe RGBの色域の面積比を示すのか、Adobe RGBカバー率を示すのかが不明なため、ユーザーの誤解を招きやすい。ナナオでは、液晶ディスプレイの色域を面積比ではなく、カバー率で示したほうが現実的だと考えているので、一貫してAdobe RGBカバー率という表現を使っている」(森脇氏)。
セミナーの第2部は、同社マーケティング部 販売促進課 係長の梶川和之氏が、ユーザーの用途によって最適な色域が異なるため、選択すべき液晶ディスプレイの種類も変わることを説明。液晶ディスプレイの種類を「sRGBのみ対応」「Adobe RGBのみ対応」「Adobe RGB/sRGB両対応」の3つに分け、用途別におすすめの製品タイプを紹介した。
ちなみに、Adobe RGBとsRGBの両方の色域に対応したナナオの液晶ディスプレイは、色空間変換機能を装備している。これは、液晶ディスプレイ内部の画像制御プロセッサによって、ディスプレイの表示色域を切り替えられる機能だ。具体的には、ColorEdgeシリーズおよびFlexScan SXシリーズに搭載されており、これらは液晶ディスプレイ前面のボタンを押すだけで、Adobe RGBモードとsRGBモードを切り替えられる。
デジタルカメラのユーザーは、Adobe RGBで撮影するか、sRGBで撮影するかによって、おすすめの製品タイプが変わってくる。Adobe RGBで撮影する場合は、撮影画像をほぼそのままの色域で表示できるAdobe RGBのみ対応の機種、もしくはAdobe RGB/sRGB両対応の機種がベターだ。
sRGBで撮影する場合は少々複雑だ。写真を見て楽しむレベルならば、sRGBのみ対応の機種でもAdobe RGB/sRGB両対応の機種でも構わないが、印刷物との色合わせが必要ならば、Adobe RGB/sRGB両対応の機種が望ましい。なお、Adobe RGBのみ対応の機種では、sRGB色域の画像表示が鮮やかすぎる場合があるが、カラーマネジメント対応のソフトウェアを使用すればsRGBの色域を再現して表示できる。
CADユーザーは、基本的にsRGBのみ対応の機種かAdobe RGB/sRGB両対応の機種がおすすめだ。現状のCADデータはほとんどがsRGBで、カラーマネジメントの概念は普及していない。ただし、一部の意匠系CADなどでは厳密な色再現性が求められることに加えて、将来的にはCADでも広色域が求められる可能性が十分あることから、Adobe RGB/sRGB両対応の機種を選ぶのも手だという。
DTPユーザーにおいては、カラーマネジメントが前提になり、印刷物との色合わせが必須になるため、Adobe RGBのみ対応の機種もしくはAdobe RGB/sRGB両対応の機種が望ましい。特に、Adobe RGB環境でカラーマネジメントを行っている場合は、Adobe RGBカバー率が重要になる。sRGBのみ対応の機種に関しては、従来の標準的なCRTディスプレイと同等の色域ということで、熟練したユーザーであれば、経験則的にAdobe RGBでの出力結果をイメージできるため、使用可能な場合も十分考えられるとした。
Web/ブログ制作ユーザーに推奨するのは、sRGBのみ対応の機種もしくはAdobe RGB/sRGB両対応の機種となる。インターネットコンテンツでは標準的な色域がsRGBとなっており、カラーマネジメントは基本的に行われないからだ。そのため、Adobe RGBのみ対応の機種で制作すると、意図しない派手な色がsRGB対応ディスプレイで表示されてしまう懸念も出てくる。
「液晶ディスプレイの色域は一目見て広いか狭いかを判断でき、輝度やコントラスト、応答速度以上に、画面表示の品質に大きな影響を持つと考えている。色域を正しく理解することは、液晶ディスプレイの性能を最大限に引き出すことにつながるため、今後も一般ユーザー向けのセミナーなどを通じて、色域の“正しい理解”を広めていきたい」(梶川氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.