AMDのPhenom X4 9350eとPhenom X4 9150eは、型番の“X4”からも分かるように、クアッドコアのCPUだが、ほかのPhenom X4やインテルのCore 2 Quadシリーズなどが、いずれも100ワットを超えるような熱設計消費電力(TDP)であるのに対して、65ワットとデュアルコア並の消費電力を実現しているのが最大の特徴だ。「クアッドコアCPUは欲しいけど消費電力の高さはちょっとなー」と考えているユーザーが待ち望んでいたモデルがようやく登場した。
今回はPhenom X4 9350eのサンプルを用いて、そのパフォーマンスと消費電力の“バランス”を検証したい。
Phenom X4 9350eの動作クロックは2GHzに設定されている。1.8GHzのPhenom X4 9150eとともに、Phenomシリーズの中では最も低いクロックになっている。消費電力が65ワットになっているのは、動作クロックが抑えられただけでなく、HyperTransportやメモリコントローラのクロック、そして駆動電圧などが低くなっているからだ。例えば、同時に発表されたPhenom X4の最上位モデルとなるPhenom X4 9950 Black Editionと比較してみると、以下のような違いがある。
Phenom X4 9950 Black Edition | Phenom X4 9350e | Phenom X4 9150e | |
---|---|---|---|
動作周波数 | 2.6GHz | 2GHz | 1.8GHz |
TDP | 140ワット | 65ワット | 65ワット |
メモリコントローラ | 2GHz | 1.8GHz | 1.6GHz |
Hyper Transport | 2GHz双方向 | 1.8GHz双方向 | 1.6GHz双方向 |
Tcase | 61度 | 70度 | 70度 |
動作電圧 | 1.05〜1.3V | 1.05〜1.125V | 1.05〜1.15V |
Phenomシリーズの内部構成では、CPU自体にメモリコントローラやシステムバスが統合されているので、消費電力にはこれらが消費する分も含まれている。このため、メモリやシステムバスの動作クロックを低く抑えられれば、当然のことながら消費電力も減少させることができる。
しかし、最も消費電力にインパクトを与えているのは、駆動電圧だ。TDPが140ワットに達してしまったPhenom X4 9950 Black Editionが最高クロック時に1.3ボルトで動作するのに対して、Phenom X4 9350eは1.125ボルトとかなり低くなっており、それが消費電力の削減に貢献していると考えることができる。消費電力は電圧の二乗に比例して増えるからだ。駆動電圧が下がれば下がるほど、消費電力を下げることが可能になるわけだ。
実際、Phenom X4 9350eをAMD 780Gマザーボードと組み合わせて利用すると(テストは内蔵GPUを利用)、アイドル時のシステム全体の消費電力は96ワットであったほか、エンコードのようなCPU利用率が100%になるような処理を行っている場合でも143ワットであるなど、軽く200ワットを超えてしまうようなほかのクアッドコアCPUに比べて低い。
それでは、ベンチマークテストで測定した結果を見ながら、システム(ただし統合されたグラフィックスコアを使用している状態)の消費電力がピーク時でも143ワットというPhenom X4 9350eのパフォーマンスを考察していきたい。ベンチマークは本連載のCPU記事で通常利用しているもので、環境は過去のものと合わせてあるので、興味のあるユーザーは、過去記事の結果と併せて参考されたい。
Phenom X4 9350eの動作クロックが2GHzということもあって、2.3GHzのPhenom 9600や2.2GHzのPhenom 9500などの比較すると、ベンチマークテストの結果は下回っている。また、実クロックで3GHzや2.8GHzなどのAthlon 64 X2と比較しても、シングルスレッドのテストが多いベンチマークでは、差をつけられてしまう傾向にある。
しかし、マルチスレッド処理が多用されるエンコードや3DMark06のCPU、Lost Planet Extreme ConditionのCaveなどでは、Athlon 64 X2を上回るなど、同じTDP65ワット級のCPUであっても、性能が向上していることが分かる。
TDPが65ワットであるデュアルコアのAthlon 64 X2シリーズとクアッドコアのPhenom X4 9350eのそれぞれで測定したベンチマークテストの結果を比較すると、シングルスレッドのテストが多い環境であれば、動作クロックが高いAthlon 64 X2が有利だが、マルチスレッドの処理が多い用途であれば、Phenom X4 9350eが有利になる。
ここで重要なことは、シングルスレッド処理を行っている状態で、ユーザーが処理が終わるのを待たなければならないほど時間がかかるものは多くなく、ユーザーの入力をPCが待っている時間がそのほとんどを占めているということだ。シングルスレットにおける処理速度が速くなってもユーザーの体感速度はあまり向上しないことになる。
これに対して、マルチスレッド処理に対応したアプリケーションが多いエンコードや3Dレンダリングなどでは、処理が終わるのをユーザーが待っている場合がほとんどであるため、処理時間が短縮すればユーザーの体感速度も大幅に向上することにつながる。
PCの待ち時間に不満を感じるような使い方をしているのに、TDP100ワットを超えるようなクアッドコアCPUを敬遠してきたユーザーであれば、従来のデュアルコアCPUと同じ65ワットのTDPを実現しているPhenom X4 9350eは導入を検討してみる価値がある。
なお、価格は1000個ロット時の単価で195ドルとなっており、市場価格でも2万円強といったところになっている。これも、従来のデュアルコアCPUと同じ価格帯であって、そうした点からも、65ワット級のCPUはデュアルコアからクアッドコアに移行することになるだろう。
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