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» 2012年11月28日 11時00分 UPDATE

アートから臓器まで立体プリント:未来へようこそ! CGを現実に変える「3Dプリンタ」最新事情 (1/2)

ドイツで開催中の金型見本市「Euromold」を林信行氏がリポート。このイベントで最も注目を集めている「3Dプリンタ」の現状をざっと見ていくと……驚くほど“未来”なのだ。

[林信行,ITmedia]
og_euromold_001.jpg 林信行氏が現地からリポート

1990年代にインターネットが普及して以降、2000年代中ごろのソーシャルメディアとスマートフォンの登場は世界を大きく変えた。それでは、この次の革命は何か? と聞かれたら、筆者は昨年来、迷わず「3D革命」と答えてきた。

 最近では元Wired編集長、クリス・アンダーソン氏の「MAKERS」という著書が日本でも発売され、テレビなどでも3Dプリンタ関連の話題をやたらと目にするようになってきたが、ちょうど11月27日から、ドイツはフランクフルトで「Euromold」という3Dプリンタ関連で世界最大の展示会が開催されている。現地リポートをお届けしよう。

 実際のイベント内容はこの後で詳しく見ていくとして、その前に3Dプリンタがどうしてそれほど注目される“革命”なのかを、個人的な話を中心にまとめてみたい。

og_euromold_002.jpgog_euromold_003.jpg 金型製作、アプリケーション開発分野の国際展示会「Euromold」。3Dプリンタの最新事情が分かる最大級のイベントでもある。11月27日から11月30日まで、ドイツ・フランクフルトのFrankfurt Exhibition Centerで開催中だ

ただの「面白い機械」? それとも……

 3Dプリンタというのは、PCなどに保存されている3Dの形状データを、そのまま実際に手に触れられる物として形にしてしまう夢の機械だ。3Dプリンタの基礎技術の歴史は古く、1980年代には登場していたという。これが「3Dプリンタ」と呼ばれるようになったのは1995年のことで、MITでJim Bredt とTim Andersonという2人の学生が、インクジェットプリンタを改造し、固まるパウダーで印刷できるようにしてからだ(このパウダーを層状に重ねることで立体印刷が可能になる。2人はその後、Z Corporationという会社を設立した)。

 さて、いま話題になっているクリス・アンダーソン氏の「MAKERS」は、パーソナルファブリケーション、つまり、個人がPCなどを使って簡単に頭の中にあった形を3Dデータ化し、それをモノとして印刷する、という使い方だ。そうした利用については、日本でも早い時期から導入され、デジタルハリウッド大学の生徒などもプロトタイピングを行っていた。

 その時点での筆者の印象は「面白い機械」程度だったが、その後、あまりにもさまざまな分野で3Dプリンタが活用され始めているのを知り、その影響の計り知れない大きさに徐々に気がつき始めた。

og_euromold_004.jpg アトリエのMacで作品を制作する名和氏。手前は筆者

 筆者が3Dプリンタに大きく注目するようになったまさにそのころ、2011年の夏に、東京でこれからの時代の変化を象徴するようなアート展覧会が行われていた。世界的に有名なアーティスト、名和晃平氏による「シンセシス」という個展だ。

 名和氏の作品のいくつかは3Dスキャナや3Dプリンタを大胆に使って、これまでにない造形を行っている。3Dプリンタ代理店の1つであるケイズ・デザインラボ代表の原雄司氏の紹介で、実際に筆者も名和さんのアトリエ「SANDWITCH」を訪問し、2012年に韓国のショッピングモール前に展示された巨大な彫刻「MANIFOLD」を掘らせていただいた。

 なんと名和さんは、この15(幅)×12(奥行き)×13(高さ)メートルという巨大な彫刻をアトリエのMacで彫刻していた。Freeformと呼ばれるペンのようなツールを使って画面上の彫刻に触れると、コツッ、コツッと手に触れている感覚が伝わってくるのだ。

 このFreeformでは、固い素材と柔らかい素材、ザラザラした素材、滑らかな素材といった違いも触覚で伝わってくる――例えばゆで卵をCTスキャンし、Freeformと連動したカッターで切るとしよう。このとき、黄身だけ触覚データをいじってとてつもなく固くしておくと、きれいに黄身だけを切り出せるそうだ。

og_euromold_005.jpgog_euromold_006.jpg Macで“彫刻”したCGを、3Dプリンタによって実際に手が触れられる現実のモノへ変える

 このように3Dプリンタはアートの分野でも大きな可能性を秘めてる。アートの分野といえば、これはたまたま記事で見つけて知ったのだが、ロダンの有名な彫刻である「考える人」が盗まれひどい状態で発見されたとき、欠けているパーツを修復するのにも3Dプリンタが使われたという(「再び考える「考える人」!? 傷ついた銅像の修復にも使われる3Dプリンタの新たな可能性」)。こうしたこともあってか、実は日本国内でも一部の宝物などを万が一の損失に備えて3Dスキャンをするケースが増えてきているようだ。

 これはフランクフルトに向かう機上で、Amazonで勉強用に買った「3Dプリンタの社会的影響を考える――英国の政策レポートをもとに」(小林啓倫氏著、なんと300円。ぜひ買うべし!!)をななめ読みして知ったのだが、テキサス大学ではJakob Vintherという学生が完全な形での化石が残っていない3億9000年前の生物を、すで見つかっている化石からモデリングし、手に持てる12倍に拡大したサイズで出力して研究をしているという。また、オーストラリアのサステイナブル・オーシャンズ・インターナショナル社では、温暖化や環境汚染で損失したグレートバリアリーフのサンゴ礁を3Dプリンタで印刷し、小魚たちの棲家を提供したところ一定の成果を上げ、「3Dプリンタ岩礁」の普及に力を入れているとのことだ。

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