米Microsoftが3月末に開催した年次開発者会議「Build 2016」では、ユーザーと自動で対話できる「会話Bot」のサービスを開発できる「Bot Framework」が大きな話題となった。
こうしたコンピュータを“より賢く”する仕組みは、Windows 10の音声対応パーソナルアシスタント「Cortana」や、一般向けのWebサービスにとどまらず、企業ユーザーの生産性や価値をより高めるためにも活用されようとしている。
今回は、Build 2016の2日目に行われた基調講演の内容を振り返りつつ、進化を続けるオフィススイート「Microsoft Office」の新しい姿に注目したい。
Microsoft Officeのプラットフォームに、ユーザーの「生産活動」の成果が蓄積されることで、コンピュータはより賢くなる。
米Microsoftアプリケーション&サービス部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのチー・リュー氏は、現在同社が推進している「Office 365」は単なる生産性向上ツールにとどまらず、ここで蓄積されたデータをさらに活用することで、より便利なツールに生まれ変われるという。データはシステムを動かすためのエンジンであり、これがよりインテリジェントなシステムの構築につながると説明する。
同氏によれば、世界には12億のOfficeユーザーが存在し、日々このツール群を活用して膨大なデータの処理を行っている。Office 365はWord、Excel、PowerPoint、Outlookといったクライアント向けアプリケーションに加えて、クラウド上のOneDriveからExchange上のメールやスケジュール、連絡帳のデータ、そして各種データベースやビジネスアプリケーションなど、仕事におけるさまざまなデータを集積している。
もし、ここで集められたデータを、アプリケーションやサービスの開発者らが適切に利用できれば、より便利なツールを構築したり、あるいはビジネスチャンスが生まれたりするきっかけとなるだろう。
それを体現するのが「Microsoft Graph」だ。既に2015年の秋より一般提供が開始されているサービスではあるが、Office 365上のデータ群に対して透過的なアクセス環境を提供することで、データを直接収集したり、フィルターをかけて必要な情報を絞り込んだり、あるいは分析を行ったりできる。
Microsoft Graphのページではシンプルなクエリを入力することで、例えばOneDrive上にある最新の編集ファイルのみを取り寄せたり、あるいは特定のトピックに関連した複数のユーザーの連絡先を取得したりすることが可能だ。
結果はJSON形式の構造化ファイルとして表示されるため、加工も容易になっている。実際に、この仕組みを用いて特定トピックに関連したメンバーの空き時間を調べ、自動的にミーティングをセットする様子がデモストレーションで披露された。
これはほんの一例だが、デベロッパーはこのインタフェースを使って、自身の開発するアプリケーションやサービスにインテリジェントな機能を組み込むことが可能だ。このように、サードパーティーの開発者らにOffice 365を積極的に触らせて、よりプラットフォームを拡大していこうというのがMicrosoftの狙いだ。
Office活用の試みはMicrosoft Graphにとどまらない。「Office Add-in」もその1つだ。これはOfficeアプリケーションをWeb技術で拡張する仕組みで、サードパーティーの開発者がさまざまな機能を付与できる。
Build 2016の会場には米Starbucksのジェリ・マーティン-フリッキンジャーCTOが登場し、同社がOutlook向けに開発中のアドインを紹介した。これはOutookを使って予定表のミーティング出席依頼付きギフトカードを送信して、最寄りのスターバックス店舗で待ち合わせる約束ができるというもの。受け取ったユーザーはギフトカードでコーヒーを注文でき、スターバックスの集客にOutookが一役買うというわけだ。
「必要なときにコーヒーと会議を同時に準備でき、ユーザーの時間が節約される。Officeプラットフォームからデバイス経由でユーザーにすぐリーチでき、魅力的な方法でスターバックスの新しい体験を届けられる」とマーティン-フリッキンジャー氏は、Officeのアドイン機能を評価する。
ちょっとした機能ではあるが、工夫次第でOfficeとの連携を前提にしたサービス開発はいろいろな応用が考えられる。
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