アーティストたちに“iPhoneアプリ化”の道を開く――アプリヤの挑戦無料でiPhoneアプリが作れる!?

» 2010年04月13日 09時00分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 5万円のプランで作られた「赤ちゃん泣き止み音」は、4月12日時点で有料アプリの25位に入っている

 アップルが提供するコンテンツマーケットの「App Store」は、個人のアプリ開発者が自分の作品を世界に公開するチャンスをつくった点で大きな意味を持つ。しかし、プログラミングができないコンテンツクリエーターやアーティストにとってアプリ化のハードルは高く、せっかくのコンテンツ資産を生かし切れていないのが現状だ。

 こうしたアーティストやクリエーターをサポートするビジネスに乗り出したのが、iPhoneアプリの開発を手がけるアプリヤだ。2009年夏、同社はクリエーターやアーティスト、企業らが保有する写真やイラスト、音楽、テキストなどの素材を組み合わせてアプリ化し、国内外のApp Storeに公開するまでの一連の作業を手ごろな価格で請け負うサービス「APPLIYA STUDIO」を開始。コンテンツホルダーが手軽に作品を公開できる仕組みを用意した。2009年冬には、利用者の要望に応えて“初期費用無料”でアプリ化できるコースを提供し、注目を集めている。

コンテンツクリエーターにも、世界進出のチャンスを

 サービスの特徴は、プログラミングの知識を必要とせず、手軽に手持ちの素材をアプリ化できる点。利用者は素材を「Contents Application Template」(CAT)と名付けられたテンプレートプログラムに沿ったフォーマットで納品するだけでアプリ化することが可能だ。テンプレートは「画像ビューワー」「タッププレイヤー」「時計」「カレンダー」「スタンプ」「神経衰弱」「間違い探し」「スライドパズル」「Pictter」の9種が用意され、簡単なユーティリティーからゲーム、写真集など、素材に合わせてさまざまなアプリを作成できる。

 もう1つの特徴は、安価な初期投資でアプリを作成できる点。有料配信アプリの場合、5万円でアプリ化からApp Storeへの申請、入金管理、説明文の翻訳、カスタマーサポートまでの一連の作業を代行し、作者にはアプリの売り上げのうち4割を還元する(アップルに支払う3割を引いた残りの3割がアプリヤの取り分になる)。プロモーション用途などで無料アプリの配信を希望するユーザー向けには、制作費8万円のコースも用意した。

 「世界80カ国にアプリを配信できるApp Storeは“21世紀のゴールドラッシュ”ともいわれるが、非プログラミングクリエーターの参入ハードルは高い。その人たちに道を開こうと考えた」――。アプリヤ 執行統括責任者の新城建一氏は、APPLIYA STUDIO誕生の背景を、こう説明する。「日本語しかできないコンテンツクリエイターでも、世界に出て行けるようなサービスを作りたかった」(新城氏)

Photo 素材の準備以外はアプリヤが代行。クリエーターは作品作りに専念できる

 APPLIYA STUDIOはクリエーターを中心に利用が広がり始め、大手レコード会社がミュージシャンのプロモーション用アプリの開発に活用した例もあると新城氏。2009年12月には、より多くのアプリがリリースされることで利益が上がるビジネスモデルであることと、アーティスト参入のハードルをさらに下げたいという思いから、制作費無料でアプリを作成できる「iPhoneAppBuilder」の提供を開始した。

 iPhoneAppBuilderは、APPLIYA STUDIOに比べて素材の登録フローが簡略化されいるのが特徴。素材の編集や登録をWeb上で行える仕組みが用意され、素材登録からアプリのプレビューまでは6ステップで完了する。その他のAPPLIYA STUDIOとの違いは、テンプレートが5種類と少なく、ロイヤリティも制作費無料プランは売上の1割と少ない点だ。

Photo 初期費用無料でアプリを作成できるiPhoneAppBuilder。テンプレートは5種類

 ユニークなのは、自分で素材を用意できない人でも参入できるよう、無料で使える素材を用意した点。FlickrからCreative Commonsのライセンス下にある「売ってもいいし加工してもいい画像をひっぱってきて」(新城氏)アプリ用の素材として使えるようにしている。「素材を持っていない人でも、コンセプトやセンスの面でクリエイティビティーを発揮できれば、世界に出ていけるはず」(同)。実際、このFlickrの写真素材を使ったアプリが「1カ月で数百本売れた例もある」というから驚きだ。

 iPhoneAppBuilderで開発したアプリは1月には100本に達し、2月は中旬までに150本ほどの申し込みがあったという。また、2月半ばにフランスのブログで取り上げられた際には、一晩で150本が申し込まれるなど「大きな反響があった」と新城氏。ただ、これは“本当にこんなサービスがあるのか”と試してみたケースがほとんどのようで、アップルに申請して審査に通るレベルの品質のものは4本くらいだったそうだ。

今後は“クオリティーの底上げ”をサポート、Android対応も検討

 いくら参入のハードルを低くしても、コンテンツとしての質が高くなければ収益にはつながらず、アプリヤのシステムを使って公開されたアプリについても、一定の評価や収入を得られるものはまだ少ないのが現状だ。

 アプリヤはApple銀座店と協力して、定期的にワークショップを開催することでクオリティーの底上げに取り組んでおり、よりよいコンセプト作りやコンテンツレイアウトなどの手法を紹介している。ワークショップには、趣味で写真を撮っている人やイラストレーターの卵、アマチュア漫画家など、さまざまな分野の人が参加し、世界デビューを目指して技術を磨いているという。

 今後はAndroidなど、他のプラットフォームへの対応も検討するとし、より多くのクリエーターの卵たちを世界に送り出したいと新城氏。プログラミング経験のないクリエーターが“21世紀のゴールドラッシュ”を体感できるフィールドを広げていく考えだ。

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