KDDI次期社長はスマートフォン志向 「もう一度新しい時代やってくる」と田中氏CEATEC JAPAN 2010

» 2010年10月12日 15時00分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo KDDI 代表取締役執行役員の田中孝司専務

 「我々はスマートフォンで確かに遅れたが、なんとかキャッチアップしてきた。これからスマートフォンをどんどん出すし、“スマートデバイス”という形でみなさんに披露できると思っている」

 CEATEC JAPAN 2010のキーノートスピーチで、KDDI 代表取締役執行役員の田中孝司専務がモバイル端末やネットワークのビジョンを語った。12月に社長となる田中氏の戦略に注目が集まる中、同氏は「個人的な思い」と前置きした上で講演を開始。スマートフォンの到来を「新しい時代の始まり」と位置付け、積極的に取り組む姿勢を強くアピールしたほか、無線網と固定網をシームレスに連携させた「最強のネットワーク」を展開するビジョンを示した。

スマートデバイスで「世の中変わる」

 「携帯電話の普及率は92.4%にまで来ている。普通ならこの後はサチュレート(飽和)していく」(田中氏)――携帯電話契約数の増加とともに成長を続けてきた移動体通信事業は今、転換期を迎えている。これまでは「契約数×ARPU(月々の利用料)」という大きな売上の柱と、「端末売上」「コンテンツ売上」が成長を支えてきた。しかし、既存市場の飽和やトラフィックの増大、利用料の低価格化などによって、「この図式では今後は厳しいのではないか、というのが事業者が共有する事実」と田中氏は話す。

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 一方、そんな市場にも変化が起きていると同氏は続ける。端末販売市場では現在、iPhoneやXperiaなどのスマートフォンが人気だ。「今年から来年にかけて、スマートフォンはどんどん増える。かなりの割合がスマートフォンになっていく」(田中氏)。CEATECの会場で同社の「IS03」やNTTドコモの「GALAXY S」などのAndroid端末が人気を博していたことを紹介し、スマートフォンの普及率が「KDDI社内の予測よりも、うわぶれるのではないか」という個人的な見解も述べた。

 スマートフォンの普及は、「デバイスの種類が変わっただけで、支払い額は変わらないという見方もある」が、田中氏にとっては「次の時代の最初の兆候」だ。インターネットの登場によってPCによる通信が大衆化し、世の中に大きな変化をもたらしたように、スマートフォンやタブレット端末など、通信機能を持ったさまざまな“スマートデバイス”の登場が世の中を大きく変えると田中氏はみている。そして、インターネットが検索サービスやEC、SNSといった新しい巨大ビジネスを生みだしたように、スマートデバイスが新ビジネスを開拓するとも考える。


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田中氏の考えるネットワーク、デバイス、サービスの未来

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 新たな時代の波に乗りたい反面、悩ましいのが「スマートデバイスはとんでもないトラフィックを生みだす」こと。アメリカのAT&Tは、iPhoneからのトラフィックがネットワークを逼迫し、結果としてパケット定額制が廃止となった。田中氏によれば、アメリカではこうしたトラフィックの急増を“データツナミ”と呼んでいるという。次世代通信規格のLTEでは通信効率が従来の3Gと比較して向上するが、それでも全トラフィックをカバーするには至らない。日本においても、「来年のそれなりの時期には、とんでもない状況になる」と同氏は危ぶむ。

 こうした将来に備え、各社はフェムトセルやWi-Fiを介して固定網へトラフィックを分散しようとしている。KDDIの試算では、Wi-Fiを使った場合のトラフィックのコストは3Gの70分の1。「やりようによってはもっと安くなるのでは。これまで3Gでネットワークを作ってきたが、Wi-Fiのネットワークを作ってトラフィックをそちらに流してしまえ、という時代に移りつつある」(田中氏)。また、ケータイの時代は「温泉地に電波が来ているのが差別化になった」が、今後は「都心部においても速い」といった、理論値ではない実質的な通信速度が差別化ポイントになるとみる。

 田中氏は今後、FTTHやCATVなどの固定網の資産と、子会社のUQ WiMAXが展開するWiMAXも含めたワイヤレスネットワークを「有機的につなげ、使いやすく」することで、「最強のマルチネットワーク」を構築したい考え。「我々のネットワークは複数あるがシームレスになっていない。これをマルチネットワークに変える」(田中氏)


photophoto 3Gで広範囲をカバーし、WiMAXやLTEで高速モバイルブロードバンドを提供し、室内などではWi-Fiやフェムトセルを活用する。こうした無線のネットワークを、FTTHやCATVなどの有線網が支えるという

 また、端末においてもキーワードは「マルチ」だ。これまでの携帯電話は、1台にあらゆる機能を搭載する方向で進化してきたが、こうした価値観がユーザーニーズから離れつつあることを同氏は指摘。例えば同社の調査では、携帯電話に求める要素として、操作性が76.3%、デザインが57.1%であるのに対し、機能は23.2%と重要視されていないことが分かった。また、端末の販売比率においても、簡単ケータイシリーズが29.3%、ロースペック端末が11.3%と低機能な端末が全体の約4割を占め、ハイスペック端末は22%と割合が少ない状態だという。「もう機能はいらないから、入った機能を使えるようにしてくれ、というのがユーザー様の本音では」(田中氏)。

 こうした時代に田中氏は、よりユーザーインタフェースを改善した端末が必要と指摘したほか、「TPOに合わせて複数のデバイスを使い分ける“専用端末の時代”がもう一度来る」と予測。ケータイ、スマートフォン、電子書籍端末、PC、さらには今後出るさまざまなスマートデバイスを、ケースによって使い分けるライフスタイルが広がるという。

photophoto コンテンツや機能をクラウドで共有し、複数端末で利用する

 複数端末の使い分けは、ネットワーク経由で機能や情報を得られるクラウドサービスを使うことが前提。そしてクラウドを有効に活用するために、高速なモバイルネットワークが必要と説明する。「いくらキャパシティーがあっても、遅いネットワークではクラウドのユーザーインタフェースをダメにしてしまう」(田中氏)

 次世代のモバイルネットワークやクラウドが生みだす新しいサービスとして田中氏が期待するのが、教育や医療といった「実質的な分野」でのサービスだ。例えばそれは、「スマートフォンに自分のヘルスデータをため込み、病院に行ってデータを提示すれば、適切な医療をしてもらえる」といったものであるという。

 また、ワイヤレスブロードバンドによる「センサーネットワーク」のサービスにも田中氏は注目。デバイスが搭載した多種多様なセンサーチップは田中氏にとって「もうひとつのブロードバンドネットワークのユーザー」であり、「いろんな場所にセンサーを置いて、ワイヤレスのネットワークにつなげば、いろんなことができる」と説明する。その例として、auの基地局に気象観測機器を設置して気象データの収集に生かす「ソラテナ」の取り組みを紹介した。「局地的な情報をクラウドに持ち込んで、新たなサービスを実現できる」(田中氏)

ビジネスのキーワードは「マルチデバイス、マルチネットワーク、マルチユース」

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 複数のデバイスやネットワークを利用する時代に合わせて、キャリアのビジネスモデルも変化すると田中氏は話す。「パッケージ料金かもしれないし、Kindleのようにコンテンツで全てをまかなう料金体系かもしれない。はたまた、固定網とモバイルを含めて帯域別の料金にする手もある。これまでと違った料金体系になるはず」(田中氏)。

 また、ユーザーの「マルチデバイス、マルチネットワーク、マルチユース」のニーズに応えるべく、さまざまなサービスを連携させたビジネスを展開することに田中氏は意欲を見せた。「例えばWi-Fiしか対応していないデバイスだってどこでも使えたほうがいいし、自分の本当に好きなデバイスがネットワークにつながれば本当に楽しいことができる。クラウド側も複数のアプリケーションをもっともっと連携させて、やりたいことが提供できれば、もういちど新しい時代がやってくるのでは」(田中氏)

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