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» 2011年05月25日 00時01分 UPDATE

電波競売は「産業成長加速させる」 目安は「60MHzあたり1兆円」と鬼木氏

総務省で行われた「周波数オークションに関する懇談会」第2回会合で、経済学者の鬼木甫氏が見解を発表。電波競売制を有効性を訴え、導入の実現に向けて諸外国の実施結果を収集する機関の設立などを提案した。

[山田祐介,ITmedia]

 総務省で5月11日、「周波数オークションに関する懇談会」の第2回会合が行われ、経済学者で大阪大学名誉教授の鬼木甫氏が見解を発表した。同氏は、産業成長の加速にオークション方式が寄与するとした一方、オークション導入の課題も紹介。「導入には周到な準備が必要」とし、海外の関連資料を収集・公開する資料センターの設置を提案した。

 「周波数オークション」とは、電波の帯域を割り当てる事業者を競売の結果で決めることを指し、会合はオークションの国内導入を検討するために開かれている。今回は鬼木氏の発表に加え、周波数オークションに関するパブリックコメントの募集結果も紹介された。ここでは、鬼木氏の見解をまとめる。

オークション導入 「長期的には非常に大きな力になる」

 経済学の立場から情報通信を長年研究している鬼木氏は、オークションにより事業者の新規参入や競争増進が起こることで、産業成長が加速すると意見した。「土地と電波は経済的にはほぼ同じもの」とし、土地と同じく市場経済化が進むのが妥当という考え。また、経済開発協力機構(OECD)加盟国の多くがオークションを導入していることを紹介し、「日本は大規模な先進国で唯一の非導入国」と早期導入の必要性を訴えた。

 オークション導入は事業者にこれまでにない落札費用の負担を強いるため、市場の成長を一時停滞させることも予想されるが、「長期的には非常に大きな力になると考える」(鬼木氏)。また、オークションで得た政府の収入はあくまで「副産物」だとし、収入拡大を主目的とすることは問題とした。しかし、電波は経済価値の高い国民資産でもあるため、「正統な収入、経済学で言う長期均衡価格に対応する収入を確保する必要はある」という。

 産業成長の加速が期待できるとの考えから、オークション導入は「早いほどよい」と主張する鬼木氏だが、一方で準備不足での導入は危険視する。「オークションでは巨大な金額が動く。事業者が収入増大を目的に必死の努力をするので、事故が起きやすい」(鬼木氏)。タイではオークションの導入計画が裁判で延期を余儀なくされ、インドでは「基地局の建設などの条件が整わず、当局が免許剥奪に動いているというニュースもある」という。

 落札価格の高騰により事業者に過度の負担がかかる可能性もあり、こうしたリスク回避の対策も必要と考える。各国の移動体通信向けオークションの落札結果を集計し、その平均値を参考に日本の落札価格を推定すると、60MHzあたり1兆円が「ごくごく荒っぽい推定」になるというが、各国の落札価格は「千差万別で規則性がほとんど見いだせない」とも。「世界全体が電波の価値についてまだ手探り状態にある」(鬼木氏)

世界のオークション実績を収集する“資料センター”を提案

 こうした課題を踏まえ、鬼木氏は導入実現に向けて主に3つの対策を提案した。

(1)早期に小規模なオークションを実施してノウハウを取得する

(2)世界の周波数オークションに関する資料を収集する機関を作り、国内外に情報公開する

(3)早期割り当てが求められるブロードバンド用周波数帯については比較審査方式での導入もやむなしとするが、事後に調整して不公平を是正する

 (2)は、“オークション後発組”であることを逆手に取り、海外諸国の結果を学んで導入に備えるというもの。各国のオークション実績の多くはインターネット上で公開されているというが、散在しており収集が難しい。そこで国際的な資料センターを日本主導で設け、各国のエキスパートからの協力を得ながら情報を一元化するべきとした。収集した資料を国内だけでなく海外にも公開することで、「より協力が得られやすい」と同氏は考えている。


 発表後には、鬼木氏に対し出席者からいくつかの質問があった。上智大学理工学部教授の服部武氏は、「現状でも複数事業者間の競争環境があり、競争条件を整備することで事業の成長は見込める」と語り、オークションの優位性の根拠をたずねた。

 鬼木氏は、「国を2つに分けて平均的な成長スピードを見ればよいのだが、まだそこまでの仕事ができていない」としながら、自由な参入と競争を主とする資本主義国が政府計画を主とする社会主義国より高い成長を見せたことなどを挙げ、「自由な産業の成長率は高く、規制された産業は成長率は低い」という見解を示した。

 森田高総務政務官は、事業者に負担を強いるオークション導入により、設備投資や研究開発に悪影響がでる可能性を質問した。鬼木氏は「そうした側面は否定できないが、他方で消費者の目もある」とし、消費者の獲得競争の中でサービス向上が図られるとの考え。また、競合買収などによる寡占化については「制限は必要」とした。

 平岡秀夫総務副大臣は、「土地は土地利用計画のような根本的な部分の設定があった上で、比較的自由な競争がある」と指摘した上で、どこまでの範囲を市場にゆだねるべきかをたずねた。鬼木氏は、土地同様に計画的な割り当てがあるべきと説明し、「誰が使うかという免許人の選定の部分のみを変える」ことを提案した。「オークション導入とともに全てを一新するのは、極めて大きな混乱をもたらす。不可能に近いと考える」(鬼木氏)

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