ISDB-Tmmか、MediaFLOか?――携帯端末向けマルチメディア放送の公開説明会(1/3 ページ)

» 2010年06月28日 10時08分 公開
[田中聡,ITmedia]

 総務省は6月25日、携帯端末向けマルチメディア放送実現のための開設計画に関する公開説明会を開催した。

 携帯端末向けマルチメディア放送は、2011年に停波するアナログテレビのVHF帯(207.5MHz〜222MHzの14.5MHz)を用いて提供する新しい放送サービス。日本ではKDDIとクアルコムジャパンが共同設立し、「MediaFLO」規格を推進するメディアフロージャパン企画と、NTTドコモやフジテレビらが設立し、「ISDB-Tmm」規格を推進するマルチメディア放送(以下、mmbi)が、商用サービスの開始に向けて準備を進めてきた。

 マルチメディア放送用のVHF帯が割り当てられる受託放送事業者は1社のみだが、メディアフロージャパン企画とmmbiが名乗りを上げている。この2社の中から、早ければ2010年7月ごろに総務省が受託放送事業者を決定する見通しだ。受託放送事業者は、総務省が定めた開設指針にもとづいて決定される。開設指針には、3年以内に全国の世帯カバー率が50%以上(5年以内に90%以上)、受信設備を全国で普及させるための具体策があるか、円滑に基地局を整備できるか、財務的基礎があるか、混信対策の具体的な計画があるか、といった要件が定められている。

 今回の説明会は、6月7日までに両社が提出した、受託放送開設計画の認定書をベースに実施された。公開説明会は、第1部では各申請者が15分ずつ説明を行い(計30分)、第2部ではモデレータ(司会)が2社に質問、その後申請者同士の質疑応答、最後に一般参加者からの質疑応答(計90分)という流れで進められた。

 出席者は、mmbiが代表取締役社長の二木治成氏、取締役 経営企画部長の石川昌行氏、取締役 技術統括部長の上瀬千春氏、NTTドコモ代表取締役社長の山田隆持氏と執行役員の永田清人氏。メディアフロージャパン企画が代表取締役社長の増田和彦氏、部長 事業企画担当の佐藤進氏、課長 法制度担当/サービス担当の門脇誠氏、KDDI代表取締役社長兼会長の小野寺正氏とKDDI研究所 研究主幹の河合直樹氏。モデレータは東京理科大学理工学部教授の伊東晋氏と、上智大学文学部教授の音好宏氏が務めた。

ドコモとSBMから“意思決定”を得ている――mmbi

photo マルチメディア放送 代表取締役社長 二木治成氏

 mmbiは、サービス開始当初から全国の駅カバー率を50%超、全国の道路施設カバー率を2年以内で50%超とする計画。基地局は2015年度末で125局を建設し、2016年度〜2018年度にも毎年25局程度の増設を計画している。加えて、二木氏が「アピールしたいポイントの1つ」として説明したのが「対応端末の普及」だ。「サービスの早期立ち上げには、対応端末を早く投入することが重要。端末の普及計画は、ドコモとソフトバンクモバイルから意思決定をいただいている。ケータイ以外のデバイスも視野に入れており、すでに複数メーカーと開発に向けて取り組んでいる」と話す。同社はマルチメディア放送の対応携帯端末を、2016年度末までに累計5000万台を出荷する見通しだ。

 そのほかの取り組みとして、東京タワーでの実証実験やワイヤレスジャパン、CEATECなど展示会での出展など、同社は2007年度からさまざまな取り組みを実施してきたことを主張した。使い勝手に優れたインタフェースの開発や、各テレビ局のメディアを利用した端末普及のプロモーションなども展開する。

 二木氏は「(委託放送事業者向けの)安価な料金も、市場の早期立ち上げに貢献する」とみている。「アナログテレビの設備を利用することで、効率よくコストを削減し、安価な料金水準を実現できるだろう。スタート時点では、委託放送事業者がサービスを提供しやすい料金を提示したい」と話した。

 さらに、同社は基地局間の遅延を最小限に抑えられるよう、中継回線網に衛星回線を利用している。これにより、デジタル放送特有のSFN(単一周波数ネットワーク)混信も最小限に抑えられるという。SFN混信とは、タワー(親局)と中継局が送信する電波に時間差が生じ、映像が受信できなくなる現象のこと。基地局設置の状況については、ほぼすべての大規模局の装置設置スペースや鉄塔、電源設備などを確実に利用できることが調査済み。東京では東京スカイツリーを大規模局に選定している。

 このほか、既存鉄塔を利用する際に近隣住民に十分な説明と丁寧な対応を行うこと、アナログ放送で培った障害対策のノウハウがあること、受信障害が起きた場合はコールセンターを設置することなども説明された。資金調達については、開設計画の認定後に、出資後の資本金を100億円とする増資を予定し、親会社のドコモから念書も受領しているほか、工事費はリースによる調達を確保済み。加えて、委託放送事業者からの放送料収益で、サービス開始3年目で単年度黒字化が実現できるとしている。

電波の品質は極めて重要、海外展開も視野に――メディアフロージャパン企画

photo メディアフロージャパン企画 代表取締役社長 増田和彦氏

 メディアフロージャパン企画が推進するMediaFLOは、すでに米国で2007年から商用サービスが始まっているほか、日本でも2008年に沖縄のユビキタス特区で実証実験を実施している。増田氏も「商用レベルに近い実験が完了している」と自信を見せる。

 全国世帯カバー率については、2015年度末までに屋外受信95%、屋内受信90%を目指す。増田氏はマルチメディア放送の視聴者が“ケータイの利用者”であることに着目し、特に屋内で高品質のサービスを提供することを重視している。「全国のauショップで実施したアンケート調査では、都市部の屋内で(ワンセグ受信の)課題がうかがえる。マルチメディア放送が有料サービスであることを考えると、電波の品質は極めて重要だ」と強調する。

 同社は“あまねく受信努力”の一環として、地上1.5メートルの電界強度を測定し、壁の通過損失の測定結果などを反映させている。測定した際の総走行距離は8000キロメートル強に及ぶ。また屋内やビル陰などでの受信品質を向上させるために、中規模局も多数設置する計画だ。

MediaFLOサービスの海外展開
商用サービス開始 米国(Verizon Wireless、AT&T Wireless)
事業者協議中 英国
制度整備待ち 台湾、ブラジル
トライアル実施 香港、マレーシア
その他協議中 インド、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、フランス、プエルトルコ、チリ、アルゼンチン、メキシコ、ベネズエラ、コロンビア、ペルー

 mmbiの二木氏も述べていたとおり、マルチメディア放送の発展には端末の普及が不可欠だ。増田氏は「従来型の携帯端末に加え、スマートフォンとタブレット端末が増加するだろう」と予想するほか、グローバル市場への展開も視野に入れている。同社の開発指針案へのパブリックコメントとして、シャープ、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ、パンテック・ジャパン・ワイヤレス、京セラの4社から、海外市場参入の観点が重要との意見が出ており、海外が端末メーカーにとって魅力的な市場であることを示した。MediaFLOは米国で商用サービスが展開されているほか、20カ国でトライアルが実施されており、その中から商用サービスが始まる可能性もある。メーカーが海外展開する上では有利に働きそうだ。

 同社は日本でも、1チップでMediaFLOとワンセグを受信できる試作機をすでに開発しており、端末のサイズを増やすことなくチップを実装できる。また、MediaFLO対応端末の消費電力は、フルセグ受信の5分の1〜3分の1を実現している。受託放送事業者が決定し、全キャリアの携帯端末がMediaFLOの対応機種となった場合、同社は2020年度の対応機種を7000万台と想定している。

 委託放送事業者参入の料金については、委託放送事業者が円滑にサービスを開始できるよう、導入期の2011年度〜2014年度の割引設定により、委託放送事業者にプロモーションへ集中してもらう構えだ。また、長期的な委託放送の提供を前提とした割安なプランも設定する。

 基地局の設置場所確保への活動も行っており、既存の放送、通信鉄塔への設置を前提に、全865局のオーナーとの面談を実施している。地域住民との合意については、沖縄ユビキタス特区での実証試験で、建設工事、電波発射、視聴対策など一連の作業を経験していることを強調した。また、有線テレビ放送の受信障害には18億円、ブースター障害には41億円のコスト負担を想定していることも説明された。

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