“紙からPC”の無駄をなくせ!――iPad 2を活用する「モバイル契約申込書システム」の挑戦

» 2011年09月14日 12時09分 公開
[百瀬崇,ITmedia]
photo 「モバイル契約申込書システム」で作成したデモ用の申込書

 携帯電話の契約から、保険、レンタルの申し込みまで、世の中にはさまざまな申込書が存在する。その多くは手書きのサインや印鑑、身分証などの写しなどが必要なほか、法制度的な課題もあり、電子化が進んでいないのが現状だ。紙の申込書は印刷や配布のコストがかかるだけでなく、手書きの内容をテキストデータとして入力し直す手間もかかる。また、申込書の数が増えてくると、それを保管するための手間やコストもばかにならない。

 こうした状況を打破しようと、スマートデバイスで申込書を簡単に電子化できるソリューションを開発しているのがアイオン(韓国)だ。同社が手がける「モバイル契約申込書システム」は、タブレット端末「iPad 2」を使って申込書を電子化するソリューション。ソフトバンクモバイルが主催した「第1回スマートフォン・タブレット端末ソリューション公募」で最優秀賞の1つに選ばれた。


photo アイオン日本法人のヤン・チェヒョク氏

 アイオン日本法人のヤン・チェヒョク氏によれば、同社は数年前から申込書を電子化するシステムの開発に取り組んでいるという。Androidを使った専用端末の開発も検討していたが、初代iPadの登場を機に、iPadを利用したシステムへと方針を転換。紙の申込書を簡単に電子化/フォーム化するシステムを筆頭に、内蔵カメラを使った身分証撮影など、スマートデバイスの特徴を生かした機能を作り上げた。日本では同社とともに「NOREN」ブランドでCMS製品を展開するアシストが販売代理店となり、11月より「NOREN e.Form Server」という名称で企業への導入を目指している。

紙の資産を生かしつつ、申込書を電子化

 紙の申込書を電子化するには、例えばOCR(光学式文字読取装置)を利用する方法などがあるが、OCRの文字認識精度は必ずしも高いとはいえず、結局は人の手でデータを手直しする必要がある。一方、申込書のフォーム自体が最初から電子化されていればOCRの必要もなくなるが、あまたある申込書をデジタルフォームとして新規に構築するのは手間がかかる。モバイル契約申込書システムはこうした点に配慮し、すでにある紙の申込書の資産を生かしつつ、少ない手間で申込書をデジタル化できるようになっている。

 モバイル契約申込書システムではまず、既存の紙の申込書をスキャナーで読み取り、画像データをサーバに取り込む。そして、専用ソフトウェア「ビジュアルフォームエディター」を使い、入力枠やチェックボックスを電子フォーム化していく。このソフトウェアは入力枠をマウス操作で画像上に配置でき、直感的に画像を電子フォーム化できるのが特徴だ。


photo システム図
photo ビジュアルフォームエディター

 こうして各フィールドが入力フォーム化された申込書はサーバ上に保存され、必要に応じてiPad 2に配布される。あとは顧客がiPad 2を介して申込書に情報を入力し、企業側はそれらをサーバで保存・管理するわけだ。当然ながら、企業側に紙の保管費用は発生しない。

 申込書の情報を記入する際には、ソフトウェアキーボードを使ったテキスト入力が基本。だが、それ以外にもいくつかの方法で情報を記録できる。名前のサインなどに活用できる手書き入力機能はその1つだ。

 手書き機能は、現状では文字を単純に画像として記録するだけだが、同社は今後、日本語の手書き文字変換システムを組み込む考え。実現すれば手書き文字にメタデータとしてテキストデータを簡単に付加できるようになる。年内には機能を実装したいという。

photo アイオンではiPadに接続できる指紋読取装置も独自に開発中だ。写真は試作機

 さらに、iPad 2の内蔵カメラを使い、身分証などを撮影して申込書に添付することも可能だ。音声の記録にも対応し、本人確認など申込書の信頼性を高める機能として活用できる。このほか、タイムスタンプ機能と連携し、データの存在証明/非改ざん証明の機能も今後提供する予定という。

電子化で広がるビジネスチャンス

photo アシスト のれん事業推進室 新ビジネス実行部 部長の門岡貴嗣氏

 電子化のメリットは、データの再入力コストや保管コストの削減にとどまらない。例えば、申込書に正しい内容が記入されているかをアプリが事前にチェックできるのもメリットの1つ。具体的には、テキストを入力すべきフィールドに数字が入力されたら、iPad 2の画面上に注意を促すポップアップを表示する――といったことが可能になる。「それによって申込書の精度が上がり、内容確認に必要な労力や人件費を抑えられる」――アシストののれん事業推進室 新ビジネス実行部 部長、門岡貴嗣氏はそう話す。


photo アシスト のれん事業推進室 室長の根津豊氏

 高齢者など電子機器の操作を不得意とする人にとっては、キーボード入力を基本とするシステムの利用は難しい面もある。しかし、既存の紙のフォームとともに電子フォームも導入することで、ユーザーの状況に合わせて最適なサービスが提供できるようになると、アシスト のれん事業推進室 室長の根津豊氏は説明する。

 「例えば、携帯電話ショップでカウンターの対応待ちをしている顧客にiPad 2を手渡して契約申込書にデータ入力してもらえば、顧客のストレスがなくなるだけでなく、ショップとしても顧客を逃がさずに済み、業務改善にもつながるはずだ」(根津氏)

 アシストとアイオンは、モバイル契約申込書システムを保険会社やクレジットカード会社、銀行、携帯電話ショップ、レンタルショップ、カーディーラー、教育機関、官公庁、医療機関など、幅広い分野で導入してもらうことを目指している。ただ、冒頭に書いたとおり契約書の電子化については法整備が進んでおらず、両社は国の取り組みを追いながら販売の本格化に備える考えだ。その一方で、「アンケート用紙や予約申請用紙としても応用できる」(門岡氏)とも考えており、そうした用途での導入も同時に目指していく。

 また、モバイル契約書申込書システムは現在、iPad 2のみに対応しているが、Android端末への対応も可能で、その準備を着々と進めている。さらに、「タブレット端末を契約申込書だけに使うのではなく、将来的にはカタログなどもサーバにアップできるようにし、ショップの店員が顧客とのファーストタッチから契約までをワンストップで行えるようにしたい」とヤン氏は意気込んでいる。

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