2つめのエクストリームコミュニケーションは「教育と育児」です。子供をどう育て、どう導くか、そこには親の愛情とエゴが複雑にからみあっています。
夫婦間のコミュニケーションは難しいもの。付き合いも長いと、話題もなくなります。年中一緒に暮らしていれば、会話のネタも尽きてきますよね。そこで、ごくごく普通の夫である私が試行錯誤の上に発見した、ちょっと変わった夫婦間の「エクストリームコミュニケーション」をご紹介しています。
第2回のエクストリームコミュニケーションは「教育と育児」です。物騒な話をします。我が子が脳死となり、諸々の事情から「臓器提供」の話が出たとして、あなたなら承諾しますか? それとも拒否しますか?
臓器提供は育児の話からちょっとズレているかもしれません。ただ、親の子供への関わり方、愛情表現を如実に反映しますので、育児に関係すると言っても過言ではないはずです。もっとも脳死の場合は、死んでいるので「育」という表現が妙ではありますが……。
まだお子さんをお持ち出ない方も、ぜひ想像力を働かせてみてください。ちなみにテーマの数字は通し番号。前回や前々回のエクストリームコミュニケーションも参考にしてみてください。
親より先に子供が死ぬことを仏教用語で「逆縁」と呼ぶそうです。そんな逆縁とは無縁の人生でいたいものですが、私はごくまれにこんな夢を見ることがあります。それは、子供が交通事故死し、ショックで廃人のような無気力人間になる――夢です。あれは本当に心臓に悪いです。
冒頭の臓器提供は簡単に結論が出ない話題でしょう。私も妻も真剣に考えたことはなく、しばし無言で悩みました。そして今回のエクストリームコミュニケーションで、最も意見の割れたのもこのテーマでした。
夫 ウチの子が脳死、つまり回復の見込みが絶たれた死を待つだけの状態になったとしよう。臓器提供の選択肢を突きつけられたらキミはどうする?
妻 私はぜったい拒むと思う。そのままの状態で看取って、供養してあげたいから。
夫 臓器を待っている人が助からなくても構わない、と?
妻 それは気の毒だし申し訳なく思うけど、、理性と本能がシンクロしないっていうか。だって、我が子が死んだだけでも辛いのに、遺体がメスで八つ裂きにされるなんて耐えられないよ。
夫 提供すれば助かる命を、拒否することで間接的に見殺しにしている可能性もあるわけだけど。
妻 そーゆー言い方されると追い詰められる気分だわ……。
夫 じゃあ、逆の立場でぼくらが臓器提供を待つほうだとして、臓器提供を拒む人をどう思うかな?
妻 ……恨むかもしれないよね。
夫 だよね。「提供すれば有効活用されるであろう臓器を含め、どうぞきれいさっぱりお子さまを焼いて灰にしてください」って……思えるわけないよね。つまり、ドナー(提供者)になるのはイヤだけど、レシピエント(被提供者)にはなりたいってこと?
妻 そうなの。なんとしても子供を助けたいと思うから手を尽くして提供を待つ。すっごく矛盾してて自分勝手な考え方だよね、これって。で、あなたはどうなの?
夫 俺は、どっちかというと人助けしたい派。提供する気もあるし、されたい気持ちもある。提供することで自分の子供の臓器が他の人の体の中で生きることにもなるし、役立つのならそうしたい。
妻 調子のいいこと言って、いざそうなったら取り乱すんじゃないの?
夫 確かに断言はできないな。抜け殻になって、何も考えたくないって廃人みたく思考停止するかも。
妻 脳死に至るプロセスも影響するんじゃない? 例えば、ある日突然交通事故でそうなったら、心の準備ができてないから拒否。でも、病気で徐々に脳死に至ったら、じゅうぶん話し合う時間もあって、承諾するとか。
夫 あと、部位によるかもよ。目の角膜ならいいけど、心臓はちょっと、みたいな。今思ったんだけど、まさかいったん承諾したらありとあらゆるパーツを切り取られて、骨と皮しか残りませんでした、みたいなことにはならないよね?
妻 そんなアホな。魚の三枚おろしじゃあるまいし。
夫 ならいいけど……それにしても結論が出ないね。
妻 難しい問題だもんね。
結局、結論はあいまいなままでした。そもそも正解はないし、見つけるのが目的でもありません。心の予行演習を通じて、価値観のすり合わせができただけでよしとします。
ぶっちゃけて言うと、産むか中絶かの選択です。(妻によると)障害が発覚するのはもう中絶できないタイミングらしいのですが、価値観を測るトークなのでそこは無視。ちょっと想像しただけでも、さまざまな葛藤がありますし、どちらを選択しても重い十字架を背負うことになりそうです。一時の感情に流されないよう気をつけつつ、正直に打ち明けましょう。
ちなみに、かなり後味悪かったです。
どうしても子供が欲しいとして、養子や里親は選択肢になり得るのか、血のつながりがなくても構わないのか、試験管ベビーのように体外受精でなら可能だとしたら、血のつながりを求めてそっちにいくのか、代理母はどうか、心理的抵抗はあるか、あるとしたら何に対してなのか。
血縁と子孫に対する価値観は本能的なものなので、意見のズレがなかなかすり合わせしにくいと感じました。
育児・介護休業法は2009年6月に改正、翌2010年6月30日からの施行です。仕事と家庭の両立のためには男性といえども育児休暇はありがたい限り。ですが、わが身としてはアリかナシどちらでしょう?
アリにしても積極的なアリなのか、取りたい人が取ればいいけど、自分はさらさらする気はない消極的なアリなのか、返事によってはパートナー(女性)の怒りを買う恐れが大ですが、これだけで男性側の育児スタンスの一面が見えてしまいます。事実を知るのが怖いかもしれませんが、女性は勇気を出して切り出してみましょう。
4つのパターンが考えられます。
なぜ立ち会ってほしい(ほしくない)のか、なぜ立ち会いたい(たくない)のか、その理由も話し合いましょう。案外食わず嫌いな部分とかイメージ先行の誤解もあるかもしれません。いずれにせよ、女性の意見を尊重すべきだとは思いますが。
近年、性についてもいろいろ多様化――同性愛、性同一性障害、女装、オカマ、オナベ、ニューハーフ――していますが、それらを我が子をそれぞれ当てはめてみます。芸能人や芸人といった遠い世界の人なら違和感がなくても、わが子だったら受け入れてあげられるでしょうか。
もちろん「受け入れる=善人」「受け入れない=人でなし」という余計な先入観は排除します。
ファミレスで子供を放し飼い状態にする、収入があるのに給食費を払わない、炎天下の車内に赤ん坊を放置してパチンコに行く――。こういう親は論外でしょうが、ほかにも過去に遭遇した痛い親を挙げ、自分が思う反面教師とはどんな親かを検証し合います。
ポイントは、とにかく具体的にドリルダウンすること。例えば「過保護な親になりたくない」といった抽象的な表現が出たとしたら、具体的にどんな行為が過保護なのかまで話し合わないと意味がないです。というのも、過保護の定義が人によってバラバラだから。極端な例ですが、子供の就職セミナーに親が同伴するのを愛情と思う親もいれば、過保護だと批判する親もいるのですから。
まだ親ではない方でも、こう育てたいというイメージは持っていると思います。育て方とは突き詰めると「どんな大人になってほしいか」にほかなりません。
親にされた育て方を同じようにしてあげたい(あるいは、自分と同じ目には遭わせたくない)という考えもストレートに反映するものです。そういう意味では、子供を持つ前に互いがどんな育てられをしたのかをシェアし合うのもよいかと思います。
男女でけっこう意見が分かれます。このへんの意気込みが行きすぎると、「親が成し遂げられなかった夢を子供に代理で追わせる」という、たいていバッドエンディングな方向に進むことに。
その習い事は子供のことを思ってのことなのか、若干自分の夢も混じっているのか、胸に手を当てながら考えてみましょう。
「高学歴=約束された将来」という図式は昨今壊れてきている感がありますが、それはさておき、どこまで我が子に行かせたいか? 「せめて○卒でないと」に入るのは中高大のどれでしょうか?
なぜ子供に学歴は必要なのか、何のために学歴が必要なのか、卒業証書なのか、教養なのか、留学はアリなのか。親でガチガチにレールを敷くのと、さまざまな可能性を視野に入れつつ柔軟に対処していくのと、自分はどちら派なのかといった視点で話してみると、トークに広がりが生まれます。
「職業に貴賎はない」と断言したいところですが、若干建前は含まれます。貴賎があってほしくはないけれど、残念ながら現実はそうではありません。自分の中の貴と賎の線引きを意識してみてください。子供に就いてほしくない職業は、すなわち心のどこかで軽蔑している職業といっていいでしょう。
子供が幼いと想像もできませんが、いつかは成人し、赤の他人と結婚し、親を離れる日がきます。義理の息子(娘)に他国の血が入ってくることに、抵抗はありますか?
○○人はいいけど△△人はイヤだ、皮膚の色が違うとイヤだとか、まったくないでしょうか?(ちょっと話が過激になっていますが、私は可能性の例を挙げているだけです。念のため)
子供の婚約者の話が、いつの間にか民族論、宗教論に発展してしまうかもしれません。熱くなりすぎないよう注意しましょう。
親が子の結婚をコントロールできるわけではなく、本人の自由意志を尊重するしかないのが現実ですが、実際どうでしょう。人生の送り方は当人が決める問題ではありつつも、割り切れなさはありますか? 孫の顔を見ることがかなわないことに抵抗がありますか?
個人的な話をすれば、性教育なんて正直、恥ずかしいもの。できれば保健体育の授業で適当にすませておいてくれと逃げていませんか? あるいは、放っておいても年頃になればどうせ知るから放っておけばいいと思ってませんか。
私は娘がいますが、何をいつどう話すべきか、想像もつきませんし考えたくもないので、妻に完全に委任することに決めました。
No. | 今回のテーマ |
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11 | 子供の臓器、提供できる? |
12 | 妊娠中の胎児に(知的・身体的)障害が発覚したら |
13 | 不妊が発覚したら |
14 | 男の育児休暇はアリかナシか |
15 | 妻の出産、夫の立ち会いはアリかナシか |
16 | 子供が普通ではない性癖を告白したら |
17 | ああいう親にはなりたくないと思う瞬間 |
18 | 子育てに関する譲れないポリシー |
19 | 子供にさせたい習い事 |
20 | 子供の学歴、最低ラインは? |
21 | 子供に就いてほしくない仕事 |
22 | 子供の婚約者が外国人だったら |
23 | 子供が生涯独身宣言をしたら |
24 | 子供に性教育しますか |
以上、教育と育児についてでした。10のつもりが14もテーマが見つかってしまいました。それだけ、我々夫婦にとっても大切なことなのだと実感した次第です。
育児や教育は、前回の金銭感覚以上に「オレはこう信じる」「アタシはここを譲らない」といった感情に根深くリンクした価値観があらわになるような気がします。私たちも、お金の時よりも長時間話し合う結果になり、ついつい声が大きくなって行ったのでした。
ひとえにわが子を愛するがゆえの議論なのですが、それにしても親の愛情とエゴは、つくづく表裏一体であることが、概念ではなく実感として感じられたことが、今回の収穫でした。
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