もしも攻殻機動隊に転職が決まったら――仕事とキャリア夫婦で始める“エクストリームコミュニケーション”

働き、稼ぎ、家族を養い、かつ自己実現を求める――それが仕事。死ぬまで続くこのプロセスは、すなわち「生きること」にほかなりません。

» 2011年01月21日 14時20分 公開
[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]

 夫婦間のコミュニケーションは難しいもの。付き合いも長いと、話題もなくなります。年中一緒に暮らしていれば、会話のネタも尽きてきますよね。そこで、ごくごく普通の夫である私が試行錯誤の上に発見した、ちょっと変わった夫婦間の「エクストリームコミュニケーション」をご紹介しています。今回のカテゴリは「仕事とキャリア」です。

  1. 金銭感覚
  2. 教育/育児
  3. 住居/財産/資産
  4. 仕事/キャリア ←イマココ
  5. 習慣/くせ/生い立ち
  6. 趣味/嗜好/思考
  7. 健康/病気
  8. 家事/食生活/日常生活
  9. 夫婦/人間関係
  10. 社会問題/政治
  11. 親/家族/親戚
  12. 道徳/倫理
  13. 老後/ライフワーク

 働かざる者食うべからず。働いて稼いで家族を守り、このプロセスを(たぶん)死ぬ割と直前まで続けていきます。仕事とは、ほぼ「生きること」と同義といっても過言ではありません。

 我が家は共働きでして、それぞれに仕事を持っています。妻は職場での出来事をこちらが頼みもしないのに事細かに話すタイプです(顔も知らない彼女の同僚の話を聞かされてもしょうがないのに……)。

 対照的に私は、家で仕事のことを一切しゃべらないタイプ。そのことを、妻は以前から不満に感じているようでした。ですので、今回のテーマに妻は結構な勢いで食いついてきたのでした。ちなみにテーマの数字は連載記事共通の通し番号。これまでのエクストリームコミュニケーションも参考にしてみてください。

テーマ33:パートナーにしてほしくない仕事

 世の中にごまんとある職業の中で「夫(妻)にしてほしくない」と思うものを列挙。妻は、私が言うであろう職種を予想できたようで、ほぼ言い当ててきました。逆に、彼女が私にしてほしくない仕事とは何なのか。今回、予想外で最も驚いたテーマでもあります。

 キミにしてほしくない仕事か……。夜関係のいかがわしいのはちょっと抵抗がある。でも、それ以外はあまり思いつかないな。当然、犯罪グループとかは論外だけどね

 いかがわしくない夜の仕事だってたくさんあるよ。まあ、言いたいことは分かるけど。

 ほかには、ベタだけど危険なこと。例えばアスベストを吸い込む作業とか、発破工事現場で爆薬を設置するとか、新薬の人体実験みたいな高額バイトも避けてほしい。

 女の私にはほぼ縁がないと思うよ(笑)。でも、必要とされる仕事ではあるよね。

 確かに。まあ、基本は自由意志に任せるから、とやかく縛るつもりはないよ。

 あなたにしてほしくない仕事、実はいっぱいあるんだけど。

 なに?

 えっと、警官でしょ、消防隊員、自衛隊、SWAT(Special Weapons And Tactics:米国の特殊火器戦術部隊)みたいな特殊部隊、レスキュー隊員、ボディガード、あとライフセーバー。

 なんで? どれも立派な仕事だよ。むしろ、かっこいいし、男としてはあこがれるくらいだけど。

 それは認める。理由はぜんぜん別で、普通の職業より死ぬ確率が高いから。

 理由はそれだけ?

 そう。同じ理由でFBI、CIA、スパイもやめて。それと、攻殻機動隊の公安9課みたいな部隊にも所属しないでほしい。

 いや、なれないし……。

 あと、ボクサーやK-1選手にもならないでほしい。ボコボコにあなたが殴られるのをリング脇で見たくない。

 大丈夫、100%なれないから。ていうか、TVの見過ぎ……。

 「夫には、命を危険にさらす職業に携わってほしくない」という願望があったことを、初めて知ることができました。立派な仕事であると認めつつも、夫に死んでほしくない一心でのことだそうです。

 不思議だったのは、我が子がそういった職業に就くことには「全く抵抗がない」ということ。子供がチャレンジするぶんには、むしろがんばってこいと送り出してやるのだとか。なぜだろう……。

 すべての女性に共通する心理ではないでしょうが、やはり夫が命を危険にさらす可能性のあるお仕事は、できることなら避けてほしいという想いがあります。「危険性で言ったら、飛行機パイロットや電車の運転手だって事故の可能性があるし、キリがないじゃないか」という夫のツッコミはよーく分かります。防衛本能が働くのでしょうか。


テーマ34:自分にとっての、仕事のやりがい

 言葉にするのって、意外に難しいですね。どうしても「感謝される」「人の役に立つ」「必要とされる」といったあいまいな表現に偏りがちになります。

 そこで、名誉、金、知名度、人にチヤホヤされること、異性にモテることなど、世俗的な要素も織り交ぜてみました。こうすることで、がぜんヒートアップします。優先順位をつけて並べ変えするのも一興。ただ、自分のコンプレックスの裏返しも見えてきたりして、自己嫌悪に陥る一瞬もあります。

 最初のうちは、抽象的な表現の応酬で停滞気味。「やりがいを感じた瞬間」とか「これまでの仕事で記憶に残っているうれしかった出来事」など、具体例を挙げていくと、言葉で説明するより相手の言わんとする意図が伝わってきました。


テーマ35:仕事以外の生きがい

 プライベートの充実のためには、仕事以外の生きがいもあるほうがいいと思います。最初は「生きがい=趣味」の話ばかりしていましたが、生きがいと呼ぶには浅くない? という気がしてきました。

 単なる趣味や道楽の範囲を超えた「○○があるから生きる意欲がわく」「××だから死ぬわけにはいかない」と言える対象はありますか?

 家族が生きがいなのは当然のこととして……。でも、子供はいつか親を離れるので、そういう意味では生きがいというのはちょっと違う気も。極端な話、一人ぼっちになっても、金銭的損得がなくても、あるいは寝たきりになったとしても「生きる意欲の源泉となる何か」を、持たねばなあと考えさせられました。


テーマ36:一生サラリーマンでいい?

 ヤブから棒にこんな質問を受けると、たいていの(サラリーマン)男性は「うっ」と言葉に詰まるのではないでしょうか。私も勤め人ですが、自分で質問を用意しておきながら、妻に問われて数センチのけぞりました(笑)。

 一般論として言いますが、おおむね世の女性はパートナーに経済的安定を願うわけで、それには勤め人の形がしっくりきます。そこを、わざわざ男性の独立心に火をつけ、寝た子を起こすようなマネはしたくないのが心情だと思うのです。

 よってこの質問、女性から男性に問われるケースはかなりレアでしょう。男性の反応を見るために、あえて女性から切り出してみると、隠れた一面や内に秘める熱い想いを垣間見ることができるかもしれません。

 こういう問いはぜったい自分では発想できないです。本心を知ってしまうのが怖いからなのか分かりませんが、無意識に話題に挙げることを避けていたのかもしれません。尋ね方によっては男性の気分を害するかもしれないので、声のトーンはやわらかめがよいかと。


テーマ37:自分の中の「勝ち組、負け組」の定義

 誰も口に出して言わないにせよ、自分の中の「勝ち組、負け組」の定義を持っていることと思います。

 収入や貯蓄の額、学歴、社会的ステータス、肩書き、家柄、不動産などや高級な耐久消費財の有無、ルックス、住むエリアなどなど。ほかにも、つきあう相手の取捨選択、あこがれる(もしくは見下す)人、優越感(劣等感)を感じる瞬間、金銭を投じる対象――などの日々の行動に各自の定義を反映していると思います。

 「人生上の勝ち負けを決める、己の基準は何だろう?」

 胸に手を当てて冷静に考えた時、私は「これを妻に話したら軽蔑や非難されるかも」といった恐れを抱きました。次に、取るに足らないプライド、長年引きずっているコンプレックスに気づかされて、ちょっと恥ずかしくもなりました。

 男の人って、割ととこの辺にこだわるような気がします。これに燃やすエネルギーが、毒にもなれば、薬にもなるのでしょうね。他人との比較はほどほどにしたほうがいいように思います。


テーマ38:どちらの年収が高いか低いか、気になるか

 「男性>女性」が一般的な図式でしょう。男性側への質問としては、これが仮に逆転したら辛いですか。プライドが傷つきますか。男の沽券にかかわりますか。ふがいなくて卑屈になったりしませんか。むしろ喜んで主夫になりますか。

 今度は女性への質問ですが、そういう男性をどう思いますか。器の小さい男だと感じますか。それとも笑って許せますか。

 男性が気にする気持ちは分からないでもないですが、私からしたら気にしないし、気にしてほしくもないです。


テーマ39:子供のころにあこがれた仕事

 ここらでちょっと箸休め。子供のころになりたかった職業を話し合ってみます。宇宙飛行士、プロ野球選手、看護婦、ケーキ屋さんといった小学校の卒業文集的なものから始め、徐々に真剣モードに入りましょう。

 話してみて気づいたのが、妻も私も「父親の労働スタイルと仕事の価値観」に大きく影響を受けていることでした。幼いころに受けた父親の働き方が、成人してからの自分の職業観に影響を与えていたのだなと。

 例えば、妻の父(私の義理の父・沖縄出身)は、若いころジャズバンドの一員として、米軍基地内でサクソフォンやクラリネットを演奏し生計を立てていた時期があったそうです。そういう姿を見ていた妻は「音楽=職業の選択肢」という考えでした。それがもとで音楽大学にすすみ、音楽教師としてメシを食ってきたという経緯があります。

 ひるがえって私の父は「音楽=特別なスキルを持った人の専売特許」という考えでした。よって私は、音楽を鑑賞する対象としか認識していませんでした。互いの家庭環境を知ることで、パートナーの価値観や物事の見方がどのように形作られてきたのかがうかがい知れて、合点がいったのでした。

 最初は、あこがれの仕事の話をしていたのが、いつしか互いの父の職業の話に。男の人は、どうしたって義理の父を避けたがる傾向があると思いますので、私の父を知ってもらうよい機会になりました。夫も、初めて知った事実に驚いていたようです。


テーマ40:5年後の夢や目標

 面接の質問みたいですが、夫婦で改まって話すとなんだか新鮮です。「いいトシして夢だなんて」と照れくさいなら、目標でもいいと思います。

 今取り組んでいること、例えば密かに目指している資格に向けた勉強や、年初に設定した抱負から初めてもいいですね。その短期目標が5年後どう結びつくのか、なんとなくでも数年後こうしたいという願いがあっての今の行動があるのではないか、ゆっくり話し合ってみました。

 「へ〜、そんなこと考えてたんだ」とか「そうなんだ、応援するよ」という前向きな話ができて、互いにとてもポジティブな気持ちになれました。もし目標も夢もとくにないということでしたら、よい機会なのでザックリでも考えてみてはいかがでしょう。

 今回のカテゴリの中で、一番晴れやかな気分になれたテーマでした。べつに壮大な目標でなくても、仕事に関連したものでなくても(例えば、いつか世界一周旅行)いいと思います。


テーマ41:いつまで働きたい?

 老後(勤め人なら定年退職後)も働き続けたいか、という問いです。経済的理由で働かざるを得ない状況を除き、十分な蓄えと年金で生活はしていけるとしたら?毎日が日曜日の隠居生活か、それとも働き続けるか、どっちを取るか話し合ってみました。

 自分の中の「金銭以外の労働モチベーション」が何なのか、おぼろげながら見えてきたような気がします。もちろん、まだかなり先の話なので、将来考えが変わる可能性はありますが、事前確認ができたことで、安心ができました。

 反射的に「ゆっくり休みたい! 存分にダラダラしたい!!」と思ったものの、冷静になると20数年はあるであろう余生をそんな過ごし方、できるわけがありません。元気なうちに、“金銭に代えられないモチベーション”の準備をちょっとずつでも進めていこうと決心しました。



No. 今回のテーマ
33 パートナーにしてほしくない仕事
34 自分にとっての、仕事のやりがい
35 仕事以外の生きがい
36 一生サラリーマンでいい?
37 自分の中の「勝ち組、負け組」の定義
38 どちらの年収が高いか低いか、気になるか
39 子供のころにあこがれた仕事
40 5年後の夢や目標
41 いつまで働きたい?

 以上、「仕事とキャリア」でした。

 お金、育児、住居等のテーマとは異なり、お互い若干の照れがありました。夢や生きがいを話すこと自体は恥ずべきことでもなんでもないのに、改まって面と向かうと少しだけモジモジしてしまいますね。

 ただ、これまでのテーマの中で、話し終わった時のそう快感が最も高かったのが「仕事とキャリア」でした。どんな人でも大なり小なり持っている、将来へのモヤモヤした不安や焦燥感が、ほんの少し晴れたような気分になれました。


著者紹介:中山順司(なかやま・じゅんじ)

 シックス・アパート株式会社 / スキナヒト製作所 所長。1971年生まれ。Covenant College(米国)卒業後、携帯電話キャリアでマーケティングと営業に携わり、2000年にネット業界に転身。旅行予約サイト(現楽天トラベル)で観光旅行コンテンツビジネスを立ち上げ、その後始めた個人ブログがキッカケで、ブログソフトウェアベンダーのシックス・アパートに(現職)。

 2010年12月、フツーの男女のフツーの出会いをプロデュースすることに特化した、世界一マジメな恋愛インキュベーション・プロジェクト「スキナヒト製作所(β)」を設立。


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