iPad版「将棋世界」はオレを感動させたのだったおおっ、動く! 動いてるよ!(2/2 ページ)

» 2011年01月25日 18時40分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]
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「将棋世界 電子版」が生まれた、幸運な偶然

 こんな電子雑誌が生まれた背景にはいくつかの幸運な偶然があったはずだ。

 その1つは、iPadのサイズ。紙媒体で発行されている「将棋世界」という雑誌本誌とほとんど同じサイズなので、あらためて電子版用にレイアウトを編集し直さなくてもそのまま移行できる。ちなみに写真の画質は印刷による劣化がない分、iPadのほうが高い。

 2つめは、iPadの性能。ページをめくるスピードがなかなかの速さで、ストレスなく読むことができる。

 そして3つめに、「将棋」という分野はもともとデジタル化が進んでいたということ。将棋の指し手はデータ化することでコンピュータで再現できることから、以前から棋譜のデータベース化が進められており、プロの研究に使われるようになっていた。また、PC用の将棋ソフトが複数存在していた。そのうちの1つである「柿木将棋」の作者とのコラボによってこの「将棋世界 電子版」は誕生したわけだ。

 今回のこの「将棋世界 電子版」の登場とそれに対する将棋ファンの反応を見て、それから自分自身の使用実感を踏まえて振り返ると、「読者として」電子雑誌に期待するところがいくつか見えてきた。

 第1に、電子版の購買を呼び込むための訴求点はたった1つでいいということ。「将棋世界 電子版は、盤面図を動かせる」この一点だけで将棋ファンは「こ、こりゃーもう買うっきゃない」「これだけのためにiPad欲しいんすけど」となってしまった。紙媒体より値段が高くてもいいぐらいだ。ユーザーが感じている「もどかしさ」にダイレクトヒットすることができればそうなるわけだ。

 第2に、当初はそうして「たった1つの訴求点」で電子版へユーザーを引き込むとしても、そこから先は電子版ならではの独特のアプリ展開を考えてほしい、ということ。例えば、「将棋が強くなりたいと思って勉強のために買っているユーザー」は、単に「盤面が動く」にとどまらず、「勝負所の局面で次の一手問題が出てそれに解答するトライアル」があると思わずやりたくなるはずだ。電子版ならそれができる。紙媒体の雑誌を作るときとは少し違う企画・編集作業が必要になってくるが、読者としては夢を感じるところである。

 第3に、これは電子雑誌への期待ではなく読者の側としての反省なのだが、「勉強の成果を左右するのはあくまでも自分の集中力」ということはあらためて自覚した。「盤面図が動くと、対戦の進行が分かりやすいから勉強しやすい」とはいっても、それが生きるのは「真剣に、集中して考えているとき」だけだ。「あ、動く動く、わーい♪」と気楽に眺めているだけではまったく勉強にならない。

 あたりまえの話ではあるのだけれど、提供側のメディアが発達すればするほど、それを利用する受け手、読者の側も気を抜かずに本気で向き合うことが求められる。逆に、メディアに対して価値を感じてお金を払うのはそういう読者なのではないだろうか。

 もっとも、そうして研究用、勉強用にiPadを使おうとすると、逆にiPadの欠点も見えてきたのだが、それは別な機会に書くとしよう。とりあえず今はまず「将棋世界 電子版 2月号」にて「竜王戦第6局 渡辺明竜王 対 羽生善治名人」戦の記事を読むのが先である。というわけでみなさま、またお目にかかりましょう。

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  • 会場:中部産業連盟(名古屋)
  • 日時:2010年2月3日(水)
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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』『図解 大人の「説明力!」』、『頭のいい「教え方」 すごいコツ!』


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