SNS利用企業は、ネットユーザーのリテラシーをなめてはいけないソーシャルメディアガイドライン

急激に浸透したソーシャルメディアは、トラブルも生んでいる。さまざまな事件の背後にあるユーザーの心理を企業はきちんと理解すべきだろう。それなくしてソーシャルメディアとの上手な付き合いは不可能だ。

» 2012年03月06日 11時40分 公開
[宇田川しい,「月刊総務オンライン」]
SOS総務

 2011年は東日本震災時にTwitterが活用されるなど、ソーシャルメディアの有効性が広く認識された年だった。半面、Twitter炎上元年といえるほどトラブルも相次いだ。その結果、Twitterは“バカ発見器”と一部でささやかれるようにまでなってしまった。

ツイッ拓

 炎上例を見ると、炎上者は仲間内で雑談するような軽い気持ちで投稿していることがほとんどだ。Twitterというある程度限定されたコミュニティーということで油断があるのだろう。ツイートは速いスピードで流れていくため、後々それが問題になるという意識が希薄になるのかもしれない。

 いずれにせよ、ツイートした個人の問題でも、ほぼ確実に勤務先にも累が及ぶ。企業側は従業員に対する啓発が急務だ。現在では、問題がありそうなツイートを有志が集めて保存する「ツイッ拓」なるサイトまで登場した。むしろ、Twitterを炎上させることを楽しみにしている人たちもいるということを認識しておきたい。

「ステマ」「嫌儲」について考える

 このような炎上事件とは別に、企業のインターネット利用を考える上で注目したい事件があった。食べログやらせ事件である(関連記事:若きビジネスパーソンよ、「食べログ」なんかいらない)。この事件で考えなければならないのは、業者が金銭で情報操作を請け負っていたということ自体ではないように思える。むしろ、多くのネットユーザーの「知っていた」という冷めた反応ではないだろうか。

 インターネット上でこのようなやらせが横行していることは、誰もがうすうす感じていた。そして、あまりにもうそくさい賛美は疑ってかかるのがもはや当然。やらせでほめたとしても、そのあと実際にユーザーが体験すればうそはばれ、それが書き込まれてしまうのだから、このような不正にほとんど効果はないともいえる。

 この事件を通して注目を集めたキーワードが「ステルスマーケティング」、通称ステマだ。宣伝だと分からないように宣伝する手法だ。食べログやらせ事件が発覚する数日前、2012年の元旦早々にもステマ騒動が起きている。そちらはアフィリエイトサイト(※)を舞台に不正を行っていたとされ、ネットユーザーの反応はより厳しいものになった。というのも、ネットユーザーの中にはアフィリエイトなどでお金をもうける人を嫌う“嫌儲”(「けんちょ」「けんもう」「けんもうけ」などと読む)といわれる人たちが少なくないからだ。

(*)Webサイトやメールマガジンなどが企業のサイトにリンクを張り、そのサイトを経由してユーザーが会員登録や商品購入を行った場合、リンク元サイトの主催者に報酬が支払われるという手法

 そもそもインターネット上の情報は、誰もが自由に利用できるものであるべきという考え方は根強い。極端な例では著作権すら否定する人たちもいる。つい先日もファイル共有を信仰する“Church of Kopimism”なる集団がスウェーデンで宗教団体として認可を受けたという、冗談のようなニュースが話題となった。

 ここで企業が肝に銘じるべきは、今やネットユーザーはかなりのリテラシーを身に付けており、ネットを私的利用してビジネスに役立てることを、必ずしも好意的に見てはいないことだろう。

Google+でも2011年に炎上事件が発生。社員が採用面接を実況中継しその内容がプライバシー保護に反するとして、批判が相次いだ

 確かにTwitterやFacebookなどのSNSは、情報伝達の手段として優れた面を持っている。しかし、企業が「SNSを利用して商売をしてやれ」という考えでそれに接したなら、ケガをするかもしれない。SNSはあくまでも企業のビジョンやCI(コーポレートアイデンティティー)を理解してもらうためのコミュニケーション手段として考えた方がいいだろう。

 企業が商品やサービスの情報を一方的に発信し、それをコントロールできるなどという考え方はもはや通用しない。インターネットはむしろそのような情報を懐疑的に検証する場であり、検証を受けて成長することこそ企業は考えるべきだろう。

最近の主なツイッター炎上事件

  • 電車内に乗り合わせた老人を盗撮した写真をアップ。容姿をバカにしたコメントをした女子大生が非難の的に。交友関係から就職内定先まで特定される。
  • 高校の非常勤講師が生徒のテストでの誤答を投稿。「なんでやねん(笑)」などとやゆするコメントをする。当然のように教師の勤務先や写真がさらされることに。
  • 男子大学生が電車内で居合わせた男性の頭部を盗撮。カツラに違いないなどとコメント。この学生もすぐさま学校名、学部、所属サークルなどをさらされる。
  • 代官山のアパレルショップ店員がタレントの来店をツイート。誹謗中傷するようなコメントをする。これに対しタレント本人がリツイートして騒動に。この店員は他のタレントの来店もツイートしていたことが発覚。のちにショップ側が謝罪。
  • ホテル内の飲食店アルバイト店員が有名人カップルの来店をツイート。この店員は他の有名人の来店もツイート。ホテル側は謝罪。
  • スポーツ用品会社のショップ店員がサッカー選手の来店をツイート。同行していた女性を誹謗中傷して炎上。会社側が謝罪。
  • サッカー女子ワールドカップの代表選手が飲み会での言動を同席した学生にツイートされる。発言に代表監督批判と取れる内容があったことで騒動に。自分でツイートしたわけではないが、選手本人が騒動を謝罪。

『月刊総務』2012年3月号 「進化するSNSを上手に活用するための企業におけるソーシャルメディアガイドライン」より