急激に浸透したソーシャルメディアは、トラブルも生んでいる。さまざまな事件の背後にあるユーザーの心理を企業はきちんと理解すべきだろう。それなくしてソーシャルメディアとの上手な付き合いは不可能だ。
2011年は東日本震災時にTwitterが活用されるなど、ソーシャルメディアの有効性が広く認識された年だった。半面、Twitter炎上元年といえるほどトラブルも相次いだ。その結果、Twitterは“バカ発見器”と一部でささやかれるようにまでなってしまった。
炎上例を見ると、炎上者は仲間内で雑談するような軽い気持ちで投稿していることがほとんどだ。Twitterというある程度限定されたコミュニティーということで油断があるのだろう。ツイートは速いスピードで流れていくため、後々それが問題になるという意識が希薄になるのかもしれない。
いずれにせよ、ツイートした個人の問題でも、ほぼ確実に勤務先にも累が及ぶ。企業側は従業員に対する啓発が急務だ。現在では、問題がありそうなツイートを有志が集めて保存する「ツイッ拓」なるサイトまで登場した。むしろ、Twitterを炎上させることを楽しみにしている人たちもいるということを認識しておきたい。
このような炎上事件とは別に、企業のインターネット利用を考える上で注目したい事件があった。食べログやらせ事件である(関連記事:若きビジネスパーソンよ、「食べログ」なんかいらない)。この事件で考えなければならないのは、業者が金銭で情報操作を請け負っていたということ自体ではないように思える。むしろ、多くのネットユーザーの「知っていた」という冷めた反応ではないだろうか。
インターネット上でこのようなやらせが横行していることは、誰もがうすうす感じていた。そして、あまりにもうそくさい賛美は疑ってかかるのがもはや当然。やらせでほめたとしても、そのあと実際にユーザーが体験すればうそはばれ、それが書き込まれてしまうのだから、このような不正にほとんど効果はないともいえる。
この事件を通して注目を集めたキーワードが「ステルスマーケティング」、通称ステマだ。宣伝だと分からないように宣伝する手法だ。食べログやらせ事件が発覚する数日前、2012年の元旦早々にもステマ騒動が起きている。そちらはアフィリエイトサイト(※)を舞台に不正を行っていたとされ、ネットユーザーの反応はより厳しいものになった。というのも、ネットユーザーの中にはアフィリエイトなどでお金をもうける人を嫌う“嫌儲”(「けんちょ」「けんもう」「けんもうけ」などと読む)といわれる人たちが少なくないからだ。
(*)Webサイトやメールマガジンなどが企業のサイトにリンクを張り、そのサイトを経由してユーザーが会員登録や商品購入を行った場合、リンク元サイトの主催者に報酬が支払われるという手法
そもそもインターネット上の情報は、誰もが自由に利用できるものであるべきという考え方は根強い。極端な例では著作権すら否定する人たちもいる。つい先日もファイル共有を信仰する“Church of Kopimism”なる集団がスウェーデンで宗教団体として認可を受けたという、冗談のようなニュースが話題となった。
ここで企業が肝に銘じるべきは、今やネットユーザーはかなりのリテラシーを身に付けており、ネットを私的利用してビジネスに役立てることを、必ずしも好意的に見てはいないことだろう。
確かにTwitterやFacebookなどのSNSは、情報伝達の手段として優れた面を持っている。しかし、企業が「SNSを利用して商売をしてやれ」という考えでそれに接したなら、ケガをするかもしれない。SNSはあくまでも企業のビジョンやCI(コーポレートアイデンティティー)を理解してもらうためのコミュニケーション手段として考えた方がいいだろう。
企業が商品やサービスの情報を一方的に発信し、それをコントロールできるなどという考え方はもはや通用しない。インターネットはむしろそのような情報を懐疑的に検証する場であり、検証を受けて成長することこそ企業は考えるべきだろう。
『月刊総務』2012年3月号 「進化するSNSを上手に活用するための企業におけるソーシャルメディアガイドライン」より