本書では三菱電機が19年と20年に受けたサイバー攻撃が、中国企業や中国人民解放軍の指揮下にあるハッカー集団が関与している可能性について言及している。
さらに4月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)など国内約200の企業や研究機関へのサイバー攻撃に関与したとして、中国共産党員でシステムエンジニアの30代の男が私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで書類送検された。この時、警察当局は中国人民解放軍の関与を示唆した。
「当時の松本光弘警察庁長官が4月22日の定例記者会見で、検挙した中国共産党員の男性の背後に中国人民解放軍が関与した可能性が高いとはっきり言いました。人民解放軍がサイバー攻撃に関与していると警察のトップが言及したのは初めてです。外交問題になるのでこれまではありえないことでした」
さらにコロナ禍での働き方の変化で、日本企業が中国から狙われていると井上氏は警告する。
「コロナ禍でテレワークが増えて副業が認められるようになったことで、中国のスパイが副業している人にアプローチしてくる可能性があります。例えば想定されうることとして、バックに人民解放軍がいるコンサルティング会社のようなところが、『あなたの知見をレポートとして買うので出してみませんか』と言って企業秘密や産業秘密を盗むために近寄ってくることです。すでにアジアの一部ではこうした問題が発生しています。日本の政府や企業は脇を甘くしていると、重要な情報や技術が狙われ放題になります」
井上氏が指摘するように、経済安全保障の考え方は日本企業にはまだまだ浸透しているとはいえない。後編では、企業が注意すべきリスクや、経営者に求められることについて考える。
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