CxO Insights

進むガンダムのメインカルチャー化 社会的アイコンとしてバンダイナムコが描くサステナブル戦略とは国民的キャラクター(2/3 ページ)

» 2021年10月14日 13時12分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

今や「子どものおもちゃ」ではない

 かつてビートルズやローリングストーンズは「不良の音楽」と呼ばれていた。だが、今や音楽の教科書にも載り、「メインカルチャー」の仲間入りを果たしている。同様にガンダムも、今や「子どものおもちゃ」ではないのだ。立派な観光資源でもあり、メインカルチャー化が進んでいることの現れといえるだろう。

 このように、ガンダムが持つ社会性は年々増している。そこでバンダイナムコグループはガンダムに関する新たなサステナブル活動を展開している。サステナブルな取り組みの一環であるSDGsは国連が2015年に採択した30年までの具体的な開発目標のことだ。持続可能な開発を念頭に置いていて、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標から構成されている。製造業を中心に国内でも多くの企業がこれに沿った動きを進めていて、ガンダムも例外ではないというわけだ。

 具体的な一例が、バンダイナムコグループが進める「ガンプラリサイクルプロジェクト」だ。ガンプラはユーザーが「ランナー」と呼ばれるフレームからパーツを分解し、自ら組み立てていく特徴がある。完成物であるフィギュアは飾られ、基本的には廃棄されない一方、ランナーをはじめとする廃材は捨てられてしまう。だが、これらはほとんどプラスチックでできており、リサイクルが可能だ。

ガンプラリサイクルプロジェクト(バンダイスピリッツのWebサイトより)

 SDGsの持続可能な開発の考え方は、実はガンダムの作品テーマにも通じる。ガンダムではシリーズを通して作中で必ずといっていいほど人類による環境破壊が描かれていて、どうすれば人類が地球に住み続けられるかをテーマの一つとして描いているからだ。

 6月に同社は「第1回ガンダムカンファレンス」を都内で開いた。専門家を集めたサステナビリティに関するトークセッションでは、筑波大学准教授でピクシーダストテクノロジーズCEOの落合陽一さんと、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授の蟹江憲史さんが登壇した。

 ガンダムにも詳しい落合陽一さんは、「1970年代の背景として人口爆発やローマクラブの『成長の限界』などの問題が提起されていて、富野由悠季監督がSFの世界観を創る上で参考にしたのではないでしょうか」と持論を述べた上で、「その実際の問題として、グローバルサウスに押し付けているSDGsの問題があって、アフリカの貧困をどう考えるかとか、われわれは発展途上国から搾取し続けるだけなのかというのが非常に重要なテーマだと思っています」と振り返った。

 そして落合さんは、その問題を解決するカギとして、社会でイノベーションを起こすガンダム世代が増えてきている現状から、こうしたプロシューマー(編注:生産者(Producer)と消費者(Consumer)が一体化した、新しい人間像)と、今後うまく連携していくことが重要ではないかと訴えた。

 また、蟹江教授はSDGsの専門家としての立場から、ガンダムイノベーションの取り組みをこう評価する。

 「ガンダムで描かれる世界は未来の最悪シナリオの一つ。地球に住めなくなってしまってどうするかというお話なのですが、そのメッセージをくみ取って、ガンダム好きの現役世代によるイノベーションにつなげていってもらいたい。SDGsはそうならないためのシナリオです。ガンダムの世界を避けるためにガンダムを扱うという変な話にはなるのですが、そうなるといろいろな可能性が出てくるのではないでしょうか」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.