――その後、ライブ配信アプリを手掛けるBIGO LIVEの日本法人代表に就任しますね。
BIGO LIVEに投資していた友人がいて「次の事業を考えている」と連絡したんです。そうしたら「面白いサービスがあるから、ちょっと来てください」と言われました。英国で休暇中だったのですが急きょ広州に飛びました。その日に就任が決まりましたね。17年4月のことです。
BIGOは14年に、BIGO LIVEは16年にシンガポールで始まりました。タイで人気に火がついたのですが、当時は東南アジアだけのサービスでした。BIGOとしては会社の価値を向上させるためには先進国に進出する狙いがあったようです。BIGOのトップは日本進出を考えていなかったようなのですが、投資家である友人の紹介で私と会い、「じゃあ日本でもやろう」となりました。
――最初はオフィスすらなかったそうですが、どうやって事業を日本で拡大させたのですか?
今でこそライブ配信が一般的になりましたが、17年の時点ではあまり知られておらず、「ライブ配信とは何ぞや?」という状況でした。モデル事務所にライバー募集の声をかけても「よく分からない」という反応をされました。ライバーを管理する事務所は当時、ゼロでした。
プラットフォームは一種のエコシステムなので、「ユーザーだけを増やせばいい」というわけにはいかないのです。ライバーを増やし、管理する事務所も増やさないといけませんから、業界を育てるところから始めた感じです。今のマッチングアプリの啓もう活動に近いですね。
マーケティング面では、ライブ配信でのランキングイベントを開催して、「イベントで優勝したら渋谷駅前の看板に出られる」「ファッション雑誌とコラボして勝った人を雑誌に掲載する」といった戦略を打ち出しました。一番大きかったのはニューヨークのタイムズスクエアの看板に、イベントで優勝した人を載せられたことですね。
――その戦略が成功してBIGOの東アジア・パシフィックの地域代表に就任しました。
最初は日本だけの担当だったのですが、19年から韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドを担当しました。しかし、これは地域の文化差があるので、東南アジアでの成功体験を韓国、台湾などに当てはめてみても通用しないのです。ではどうするのか? といったときに、日本での成功体験を試してみようと考えました。
発展途上国は日本などと所得水準が異なるのでマーケティングをしても人は集まりません。でも配信する人に対して、ライバーとして参加すること自体にお金を出せば、金額が低くても人を集められるのです。マーケティングにお金をかけるくらいなら参加者にお金を払った方が効率的で、その戦略は東南アジアでは成功しました。
しかし、日本や台湾などでは仮に「時給500円です」と呼び掛けても人は集まりません。きちんとマーケティングをする必要があるのです。市場の教育から始める必要がありました。
――そういう意味ではBIGOで取り組んできたことと、Tinderでやろうとしていることは似ていますね。
そうですね。ノウハウを生かせています。
――BIGOとTinderとの戦略の違いはどこにありますか?
ライブ配信サービスは、ユーザー数はマッチングアプリに比べれば少なく、その一方で1人あたりの課金額は大きいのです。一方、マッチングアプリは今後「スーパーアプリ」になるポテンシャルがあります。ニッチというよりマスのサービスなので、根本的なビジネスモデルが違うと思います。
――Tinderがコロナ禍でも業績を伸ばせたのは在宅の時間が増えたという要因がありますね。では緊急事態宣言が解除されると、利用時間が減って業績も下がるリスクはあるのではないですか?
ゲームですと、外出して物理的に利用時間が減る可能性もあります。一方マッチングアプリは人と人が出会うために使っているので、コロナ前であろうと、コロナ後であろうと「人に会いたい」欲求は変わらないのです。
コロナ禍で実際に会えなかった分、コロナ後はより新しい人に会ってみたいという思いを持つ人が増えると思いますので、そこにTinderの役割があると思います。ポストコロナの世界においてマッチングアプリがニューノーマルになるのではないでしょうか。
以上がチョウ・カントリーマネージャーへのインタビュー内容だ。日本人よりも日本のことを知っている外国出身者とは時々出会うが、彼女はその1人だ。
彼女の発する言葉には、日本への好意と同時に、卓越した知性を感じる。また、これまで培ってきたビジネス上の経験値も非常に高い。
一度ついたイメージを変えるのはそう簡単ではなく甘い道のりではない。
「コロナが終わった世界でマッチングアプリをニューノーマルにしたい」という思いが実現するのかどうか。その手腕に注目したい。
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