日本では少子高齢化によって、将来の労働力不足が予想されています。医療・福祉の業界は2030年に187万人が不足すると言われ、人材の確保と定着、離職率の低下といったことが経営上の大きな課題になってきます。現在のコロナ禍でも、医療現場の人材不足が懸念されています。
私は産業医として一般企業に産業保健サービスを提供しています。他の業種と比較すると、医療や介護の現場には特有の事情があると感じました。
まず労働集約型であり、テレワークが難しいこと。そのため地域に雇用が依存しがちとなります。次に、患者サービスが中心の24時間労働のため、夜勤などの交代勤務が発生することです。出産を機に、日勤の時間帯に働きたいと希望する方も多いですよね。また、専門家の集団であるものの、離職率が高く、採用コストが高いことも挙げられます。
おそらく経営者の皆さんは、離職を減らして雇用を継続していくことや、在職する従業員の労働生産性を上げていくことに注目されているのではないでしょうか。
そこでお伝えしたいのは、健康経営の視点です。健康経営とは、従業員の経営管理を経営的な視点で考えて、戦略的に取り組むことです。民間企業では数年前から、がんや生活習慣病の予防を中心に取り組む企業が増えました。
さらに最近では、女性特有の疾患が労働に及ぼす影響についても、データなどで報告されるようになりました。健康を理由にした離職を減らすためにも、女性の健康に注目する必要があるのです。
経営者の皆さんに知ってもらいたいのは、女性特有の疾患に関する知識です。就労世代の男女が、どの年代にどのような疾患に罹患しやすいかをご存じでしょうか。
男性については、若い頃は元気です。50代以上になってくると、脳梗塞や心筋梗塞、がんなどの大病にかかって会社を休む人が出てきます。
一方で女性は、20代でも月経障害や避妊・妊娠・中絶、子宮頸がんなど女性特有の疾患のリスクがあります。これらの疾患は大病ではないので会社を休む必要はありませんが、労働生産性に影響を与えています。
このように就労世代で比較した場合に、就労に影響を及ぼすリスクのある疾患について男女で違いがあるにもかかわらず、既存の健康診断では生活習慣病しかカバーできていません。この点は改善すべきポイントではないでしょうか。
女性の疾患で分かりやすいのは月経です。男性の経営者の皆さんは、月経と聞くと出血を伴う期間が一番影響があると思われるかもしれませんが、快適に過ごせるのは月経後の1週間から10日間くらいです。その後は個人差がありますが、月経前症候群(PMS)といわれる症状で苦しんでいる人もいます。
月経の周期は一生で450回から500回繰り返され、生涯における月経期間を計算すると約6年9カ月といわれています。働くことができる期間の約6分の1が月経の期間に当たります。
このため、月経によって労働生産性が約40%低下していると指摘した調査や、月経によって4911億円もの労働損失があり、社会経済的負担の総額は6828億円に及ぶといった試算もされています。このようなデータが出てきたことで、女性特有の疾患で就業に影響を及ぼしている従業員がいるならば、支援する必要があるのではないかと考えられるようになりました。
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