インターネット利用人口が2000万人を越え、多くのコミュニケーションや情報発信が行われるようになるにつれ、インターネット上の広告宣伝も盛んになってきている。ネット広告は大きく分けて電子メールを活用したものと、Webサイトを利用したものに分けられるが、メディアそのものも、利用者もまだ発展途上であり、企業としてもどのような広告手法が効果的か、まだまだ手探り状態だ。とはいえ、国内でもネット広告の市場規模は241億円にまで成長。今年度は500億円を突破しそうな勢いで、次のステージに向けた転機を伺っている段階だ。
ネット広告市場はまだまだ伸びる
インターネット先進国の米国では、初めてのネット広告は1994年10月、「Web-zine」として創刊された「ホットワイアード」に掲載されたバナー広告だった。それから6年、現在の米国のネット広告市場は、2000年1〜3月期の売上が19億5300万ドルで、前四半期の99年10〜12月期に比べて9.9%、前年同期に比べて182%増加しており、著しい成長ぶりだ。
一方、日本のネット広告市場は1996年頃から立ちあがり、電通によると、1996年のウェブサイトを利用した広告市場規模は約16億円。これが1997年に60億円、1998年に114億円と急激な伸びを示し、1999年の統計「日本の広告費」によると、市場規模は約241億円と推計されている。もちろん、日本の総広告費5兆7000億円にくらべれば微々たるものだが、2005年にはラジオ広告を抜いて2500億円の市場に成長するとの予測もある。
多様化するネット広告
このように、ネット広告市場は今後の発展が約束されているが、一方で、ネット広告市場の短所を指摘する声も出ている。
たとえばネット広告の信頼性や公正さについて、公正取引委員会は1999年2月から景品表示法の対象として監視を始めている。スパムメールまがいのダイレクトメール攻撃にうんざりしたことがある人も多い。相手の姿が見えないというインターネットの特色は、相手が企業でも同じだ。
利用者の持つネット接続環境によっては、企業が意図するような広告効果のある画像や情報を受け取れないケースもある。たとえば、javaを利用したWebサイトは、javaを読みこまない設定のブラウザでは正しく表示されないし、フォントの指定もそうだ。
しかし、より高い広告効果や、より多くの人の反応を求めて、ネット広告は進化を続けている。
主なネット広告の形態には、バナー広告、スポンサーシップ広告、ポップアップ広告、電子メールを媒体として利用するメール広告、プッシュ型広告などがある。
バナー広告はネット広告のなかで歴史も古く、最もポピュラーなものだ。スポンサーシップ広告は、わかりやすく言えば「広告記事」。編集タイアップで、スポンサーの意向に沿った内容のコンテンツを使って人気サイト内にページを掲載するもの。日本のネット広告市場では、バナー広告出稿が50%を超えている。
ポップアップ広告とは、Webページを開く時、通常のブラウザの上に別の小さなブラウザを立ち上げて、ムービー形式の広告を見せるスタイル。まだ日本ではそれほど盛んではないが、米国では無料のレンタルサーバーなどの広告手法として普及しているようだ。
一方、メール広告は電子メールを使い広告文を送信する。次に説明するプッシュ型にイメージが近いが、WebページのURLを表記してリンクさせることで利用者を特定ページに誘導する。
プッシュ型広告では、米ポイントキャストが有名。常時接続を前提としており、利用者は専用ソフトで個人情報や興味のある情報カテゴリーをチャンネルとして登録、最新情報をテレビ放送のように利用者に配信するシステムだが、インターネットの世界にはなじまず、現在では下火になっている。
業界内の勢力地図は?
多様化する広告形態、伸び続ける市場とくれば、業界内の勢力争いもいきおい、激化してくる。インターネット広告業界は、既存の国内広告業がインターネットに進出するために設立した「橋頭堡」のような存在と、欧米でのノウハウを導入し広告配信のサービスを手掛ける外資系、さらにNTTなどIT関連企業が出資する異業種組に分類できる。
電通とソフトバンクが組んだサイバー・コミュニケーションズ、読売広告社、博報堂などが設立したデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)などは橋頭堡的存在といえる。サイバー・コミュニケーションズは売上高約50億円。DACは月の売上高が約5億円という。
一方、ダブルクリックやバリュークリックジャパンは米国資本。ダブルクリックは「goo」の広告配信を一手に引きうけており、今年、前年比3.7倍の45億円の売上を見込んでいる。バリュークリックジャパンはクリック保証型広告を提供しており、5月に東証マザーズに上場したばかり。ジョナサン・ヘンドリックセン社長は「秋以降は、iモード向けの配信と、広告掲載費の引き上げを行う」と言明している。
そのiモードは、加入者急増で業界の注目を集めている。NTTドコモの肝いりで登場したディーツーコミュミケーションズはiモード向けの広告レップ(広告専門の代理店)として設立されたもので、電通、NTTアドなどが出資、初年度売上高10億円を目指している。
独立系では、サイバーエージェントが健闘している。中小のサイト約3000をネットワークにして、クリック数に応じた広告料金を徴収するシステムが好評だ。
求められるマーケティング効果
スポンサーとなる広告出稿企業も増えている。特に若者向けや、増える女性利用者向けに出稿を増やす企業は多い。
ただし、スポンサー側が求めているのは、単なる広告ではなく、インターネット広告を利用した効果的なマーケティングだ。マスメディアと異なり、Webサイトや電子メールを利用した広告なら、誰がいつどのように広告を見たのか、その広告にどう反応したのかまで知ることができる。
「ただバナー広告を出すだけでは、その広告に興味を持ってクリックしてみる利用者はわずかに0.5%程度」(バリュークリックジャパン)とされている。
そこで最近注目を集めているのがターゲット配信と呼ばれる手法だ。アクセスしてくる利用者の情報を読み取り、瞬時に配信するバナーを変更する機能で、たとえば利用者のドメインが「co.jp」の場合だけに配信するバナーなどがある。もっと単純に、アクセス時間帯ごとに配信するバナーを変更する手法もある。
また、ヤフーなどで提供されているフリーメールサービスや、ライブドアーなどのフリーISPでは、利用者にユーザー登録をさせて属性を蓄積。ターゲット配信で効果のありそうなバナーを個別に表示させる手法を取っている。属性登録を利用して興味のありそうな分野の情報と広告を一体化した電子メールを送付するオプトインメールも認知されつつある。
広告効果の測定という面では、ダブルクリックがすでに独自のDART(ダート)という手法を応用してサービスを始めている。新規顧客1人を獲得するための費用や、Webサイト別の利用者のバナー反応の状況などをデータ化、スポンサー企業に提供する。
さらに、マーケティングが直接、利用者の購買行動につながる電子商取引(EC)と広告の組み合わせも始まっている。日本IBMは自社製品を扱うショップIBMのサイトで、バナー広告をクリックしてやってきた顧客が商品を購入した場合、バナー広告の掲載サイトに対して報奨金を支払うアフィリエイト・プログラムを開始した。
さらに、インターネットの双方向性を利用したユニークな手法がバイラル・マーケティング。boook.comのような検索サイトが採用しており、利用者の評価情報を蓄積しているのが特徴だ。利用者の評価が高いサイトは、その噂によってさらに訪問者が増えるという「口コミ」効果を狙っている。
インターネットはテレビや新聞などのマスメディアとは異なる特徴を持つ広告媒体として、さまざまな利用方法が開発されつつある。今後はiモードなど移動体を利用したインターネット接続をターゲットとした広告市場も加わり、ますます需要は広がりそうだ。
筆者プロフィール
▼磯和 春美(いそわ はるみ)
1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。
メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp
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