50MBのサーバ・スペースを無償提供
ジャストシステムが2001年2月に、「一太郎11」を発売する。日本を代表するパッケージ・ソフトも、ついに11代目になるのかと思うといろいろと感慨深い。特に「オー!」と思ったのは、今回は機能の向上とともに、「登録ユーザーに50MBのサーバ・スペースを無償で提供する」というサービスが付加されることになったという点である。
製品発表のときには、浮川和宣社長は壇上中央には上がらず、福良伴昭常務がすべての説明を取り仕切っていた。会見の終了後に浮川社長をつかまえると、「うん、このアイデア(サーバ・スペース)は私と専務(浮川初子=社長夫人)から出た」と話してくれた。
「ほら、徳島の本社から出張することも多いでしょう。データをローカル環境に保存しないといけないのは不便だと感じていたんだ。多分、うちが始めたら、あとは追随して同じことをする会社が出てくるはず。今後の主流となるアイデアだと思う」
新サービスは黒字転換のファクターとなるのか
確かに、私も出先で原稿を書くことが多いので、「あ!会社のサーバにあるデータが欲しい」と思ったことは数知れない。浮川社長の実感はもっともだと思う。しかし……、やはり気になるのだ。「収益性はどうなるんですか?」という点が……。
ジャストシステムは1998年3月の決算以来、ずっと赤字決算を続けている。これが黒字に転換するのは、いつ、どういった要因でなのか、私はずっと注視し続けている。残念ながら、今のところ、「黒字へ転換するための大きなファクター」は完全には見えてはこない。
今回はインターネット上のサーバ・スペースが無償で提供されるほか、いくつかの有償サービスが用意されているようだが、「そうしたサービスで収益を上げることよりも、一太郎という製品がどうしても必要だという認識をみんなに持ってもらうことが重要だ」と浮川社長はアピールする。
確かに、登録ユーザーだけにサーバ・スペースが無償提供されるとなれば、いつもより登録ユーザーの数は増えるかもしれない。しかし……登録ユーザーの数が増えただけでは、どうも黒字転換は難しそうなのだ。
売れているのに儲からない?
というのも、私の会社で調査しているパソコン・ショップのPOSデータの統計「BCN RANKING」を見ると、一太郎はかなり売れているのである。掲示板などで、「ジャストシステムの製品なんて売れていない」という、ジャストシステムを揶揄するような書き込みをよく見かけるが、それは正しくない。結構、売れているんですよ。やはり、ソフト・メーカーの中では上位クラス。それなのに……黒字化していないのである。
つまり、一太郎の売り上げが伸びるだけでは、黒字にはならないということだ。今のジャストシステムが抱える最大のジレンマはそこにある。同社の従業員は2000年3月時点で791人、ソフト・メーカーとしては大所帯だ。浮川社長いわく、「やりたい仕事はまだたくさんあって、人が足りない」状況だという。しかし、実情はパッケージ・ソフト事業だけでこれだけの社員を維持していくのは難しく、「新たな収益の柱をどう作るのか」が問われているのだ。
Java、Linuxといった新技術にも積極的に進出しているが、今のところ一太郎以上の収益源となるには至っていない。@ITの読者の皆さんならよくお分かりだろうが、こうした新技術は、将来性が高くても、すぐに巨額の収益を生むことができるわけではない。「脱一太郎が見えてきた」と浮川社長の顔に明るさは戻ってきたものの、決算書の内容まで明るくなってはいない。
筆者:三浦は反ジャストシステム派なのか?
そんな中で登場した、「一太郎11」だけに、ついつい「新たな収益の柱が見えてきたのか?」という点に注目してしまうのである。今後はASP事業を含め、収益が上げられる体制をつくるということなので、一太郎11だけに収益性を求めてはいけないのかもしれないが、収益性が明確になっていないと、「大丈夫なのか?」という不安がつきまとうのである。
こういうことを書いていると、「三浦さんは反ジャストシステムなの?」とよく聞かれるが、実は、私は、生まれて初めて触ったソフトが一太郎であり、今でも一太郎とATOKで原稿を書いている。正直なところ、私にとっては「なくては困るメーカー」である。「反ジャスト派なの?」と聞く人は、「そうです」という答えを期待しているようだ。「今でもジャスト製品を使って原稿を書いていますよ」と答えると、相手の人がちょっと残念そうな顔をするのはいったい何なんだろう?
本当に不思議なのは、「反ジャスト派なの?」に限らず、取材先でも、それ以外の場所でも、「どうなの?最近のジャストは」という話題をふられることがものすごく多いということだ。日本を代表するパッケージ・ソフト・メーカーだからなのかもしれないが、良くも悪くも、これだけ熱い注目を浴びるソフト・メーカーもそう多くはない。感覚としては、巨人軍というか、PC-98時代のNECというか、「アンチも含めてファンが多い会社」なんだろうなあ……。
ちなみに、浮川和宣社長は私の顔を見ると、「怖いなあ」とおっしゃるのだが、あれは何なのだろう……。浮川社長、私の顔、そんなに怖いですか?
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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