インターネット・ビジネスで最も早い時期から立ちあがっていたのが電子商取引(EC)、中でも消費者に対して物品を販売するいわゆる「オンライン・ショッピング」だ。ビジネスとしてイメージしやすかったのか、大手企業から個人事業主までさまざまな規模、さまざまな業態からの参入が相次ぎ、1998年から2000年にかけては毎日新しいオンライン・ショップがオープンしているといっても過言ではないほどの賑わいを見せている。そんな中から生まれてきたのが、オンライン・ショップを集めて集客を図る「バーチャル・ショッピングモール」、いわゆる仮想商店街である。 インターネット・ビジネスで最も歴史が古く、賑わっているオンライン・ショッピングモールの現在について探ってみた。
全国に300件?の仮想商店街!
オンライン・ショッピングモールはいくつあるのか。さまざまな検索エンジンでクロスチェックしてみたところ、インフォシークに登録されているのは100件、ヤフーでは150件、そのほかのサイトも合わせると少なくとも300近いウェブサイトが「ショッピングモール」として営業していることが分かった。中にはJCBカード会員向けに設けられたものの、9月29日で閉鎖してしまう「J-Mall」のように、役割を終えたり、あるいは経営不振で閉鎖されたりするところもあるようだが、外資系の上陸や新たな参入者を迎え、順調に増え続けているのが実情だ。
300件というと非常に多いイメージだが、オンライン・ショップそのものは現在約3万軒あるといわれている。ショッピングモールの規模は国内最大の「楽天市場」でも約4000店であることを考えてみると、全国津々浦々にある「○×商店街」と同じ感覚でオンライン・ショッピングモールが続々と誕生しているだけともいえる。
リアルからバーチャルへ オンラインモールの出自別分析は?
オンライン・ショッピングモールがリアルな商店街と最も違うのは、場所と時間にとらわれない点だ。この2つがメリットだとするなら、決済方法が限られることと、物流の手段を確保しなければならないことはデメリットとなるだろう。顧客の種類も、リアルな商店街に出店するのとはまったく異なる。
オンライン・ショッピングモール、と一口にいっても、リアルな商店街が規模や立地、歴史、参加している店舗によって千差万別なように、仮想商店街にもさまざまな種類がある。それをあえて分類してみると、まず大きくリアルを反映したものかそうでないものか、に分けることができる。
リアルを反映したものというのは、東急百貨店グループが母体になっている「e109.com」やセブンイレブンの「e-Shopping□e-Shopping」など、流通系の企業が設置したモールのことだ。また、東京の渋谷区笹塚・幡ケ谷の商店街700店舗が母体となった「ささはたドッとこむ」のように、地域の商店街や商工会議所が設置するモールも増えている。もともと通信販売を手掛けていた企業によるショッピングモールサービスは、通信販売事業による物流ノウハウなどが整っているため顧客にも好評だという。
一方で、「楽天市場」のようにネット専業のモールがある。これには、IT関連企業がモール経営に乗り出したケースに加え、「バーゲンアメリカ」のようにEC先進国の欧米から乗り込んできた外資系モールも多い。もちろん、「逸品.com」のように、ほとんど個人経営で店舗数も19店舗と小ぶりながら、その店舗や商品へのこだわりから注目度の高いモールもある。
異業種からの参入や大企業の動きも
最近では、商社、自動車メーカーなど、これまで「既存の販売チャンネルとぶつかりあう」とインターネットでのビジネスに消極的だった企業や業界も続々とオンラインモールに参加しはじめている。大企業のブランド力は強く、利用者もブランドを信頼し、市場拡大に貢献するようになる。
例えば、インターネット関連事業に早くから取り組んできた三井物産は1995年から「キュリオシティ」を運営。全国各地の名産品など4万点余りもの商品を取り扱っており、それぞれの店舗が単体でオンライン・ショップを出店するよりもはるかに効率的に顧客を獲得している。
1999年11月に自動車販売仲介を開始した「カーポイント」は、日産、三菱などメーカー7社、ディーラー800社が提携に踏み切り、自動車の総合オンライン・ショッピングモールとなっている。また、トヨタ自動車が2000年7月にオープンした「GAZOOショッピングモール」のように、異業種ながらインターネット・ビジネスに参入を図る例も見られる。
ここにきて、検索エンジンやインターネット・サービス・プロバイダなど、ポータルサイトを目指すウェブサイトが集客のためにショッピングモールの併設に力を入れはじめた動きも見逃せない。ニフティは「@niftyショッピング」で非会員に対してもショッピングサービスを提供しはじめた。
「楽天市場」に見る成功の指標とは
集客力に優れること、リピーターが多いこと、売り上げが上がることが、オンライン・ショッピングモールの成功の指標だ。その点で、「楽天市場」は成功事例としてこれまで数々のメディアに登場してきた。
もっとも、「楽天市場」の取扱商品点数47万点、月間ページビュー1億1600万という数字はずば抜けており、出店者へのプロモーションなどのフォローも怠らない。流行の携帯電話によるインターネット・ショッピングにもいち早く対応しており、サービス向上による顧客満足度の引き上げは十分に行われている。
2000年4月には株式を店頭公開し、2000年1月〜3月の四半期決算では売上高4億2700万円、営業利益2億400万円の収益を記録し、オンライン・ショッピングモールとしては一人勝ちの様相を呈している。
集客力を左右するブランド力とユニークな取り組み
拡大するオンライン・ショッピングにおいて、これまで売買の中心だった「パソコン関連商品、書籍・CD、金融」などから「自動車、不動産、旅行」といった大型商品・サービスが、今後は取引の中心に躍り出てきそうだ。
そうなると、ブランド力が違った意味を持ちはじめる。不動産や旅行は、リアルに取り扱っている専門業者の方が利用者の信頼を勝ち得やすい。
例えば、インターネット調査を手掛けるゴメス・ジャパンによると、旅行サイトの人気は、1位はディスカウント・チケットなどを扱う「eトラベル」だが、JTBや日本旅行といった定評のある専門業者のサイトの人気もやはり高いのだという。ブランドの浸透度がモールへの集客力に影響を与えるのだ。
さらに、リピーターを増やす、という意味ではこだわりの一品や、そのサイトでしか手に入らない商品を取り扱っているモールが強い。
例えば、「逸品.com」では、北海道に行くか、百貨店の名産品フェアでしか入手できないエーデルワイスファームのハムやソーセージが人気だ。アスキーが運営する「e-sekai」では、DVDやキャラクターグッズなど、インターネットを楽しむ若いマニアックな層に訴えかける商品を多く取り扱うことで着実にページビューを伸ばしている。
コミュニティを育てることで、顧客を囲い込もうという試みもある。「ネットプライスモール」は、「ギャザリング」という一風変わった販売方式を打ち出している。同一商品の購入希望者がある一定の人数以上集まれば、価格が下がるというしくみで、これにより、購入希望者やバイヤーの間にコミュニケーションが生まれ、口コミによる集客効果もあるという。
オンライン・ショッピングモールの順位変動も
現在、日本の電子商取引の市場規模は、通産省の委託調査によると1999年1年間で約2500億円。前年の4倍という高い伸びを示し、利用者のすそ野の広がりを感じさせる。
そして、2004年には不動産を含めると6兆7000億円の市場規模に達すると予測されている。家計全体に占めるオンラインでの商品購入金額も、現在の0.1%から2004年には2%に達すると見られ、今後、まだまだ拡大する電子商取引市場では、オンライン・ショッピングモールの順位変動も、あながちないとはいえない。
特に、ブランド訴求力という点では、大企業の取り組みが「楽天市場」などの先発ネット専業モールにどのような影響を与えるかといった関心を集めそうだ。
消費者からの苦情も
ところで、急速に拡大する市場に問題はないのだろうか。
通産省が日本通信販売協会、日本消費者協会と協力して実施した電話相談、「ネット通販トラブル110番」には、4日間で、インターネットを使った通信販売の相談が101件寄せられたという。
相談内容で多いのは、「購入した商品が届かない(35件)」、「利用していない取引などの代金を請求された(18件)」など。商品別では、パソコンや同部品、インターネット接続業者との契約、有料の情報提供サービスであるダイヤルQ2などに関する相談が多かったという。
課題は安全性と信頼性
個人のプライバシーの角度からは、インターネット通販でデジタル化された個人の購買履歴や個人情報流出の可能性という問題点を指摘する関係者もいる。
「書店で本を現金で購入する場合には分からない個人の読書傾向や定期購読誌も、ネットではすべてリスト化されて、他の商品のマーケティングに利用することができる」(ある専門雑誌の営業担当)。
これらの問題にはすでに、モール運営の方針で、個人情報の取り扱いや店舗の信頼性について一定の方針を示しているオンライン・ショッピングモールがほとんどだ。
しかし人の集まるところにトラブルはつきもの。 実際、オンライン・ショップ内ではないにしろ、併設しているオークションコーナーで詐欺事件が起きたモールもあり、今後はオンライン・ショッピングモールに求められる安全性、信頼性のハードルはますます高くなりそうだ。
Profile
磯和 春美(いそわ はるみ)
1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。
メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp
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