2000年9月22日(金曜日)午後4時、マイクロソフトが今世紀最後のWindows、「Windows Millennium Edhition(Windows Me)」を発売した。「Windows 2000 Insider」の中でデジタルアドバンテージの小川誉久氏のご指摘の通り、どうもマイクロソフト側に力が入っていないんじゃないか……という雰囲気は漂っているが、それでも、発売初日には、秋葉原は通常の金曜日の2倍の人手、大阪・日本橋、名古屋・大須でもそこそこの集客を得たようだ。
しかし、今回は昼間の発売ということもあり、イベントはほとんどなかった。正直なところ、「ちょっと寂しい」という感を拭いきれない。特に阿多親市社長が、発売開始時点で秋葉原に姿を見せなかったことが、異常に寂しい。阿多社長・・・・なんで来てくれなかったんですか?
今世紀最後ということで、ちょっと感傷的に「Windows」というOSを振り返ってみたい。
思い起こせば、Windows 95から始まり、Windows 98、Windows 2000、そして今回のWindows Meと4回の販売カウントダウンが行われた。理性的に考えれば、「なんで、OSを発売するだけのことで、お祭り騒ぎをせにゃあかんのや!」と突っ込みを入れたくなるのだが、パソコンおよびWindowsの存在を、広く一般の人に知らせるという広告的な効果はものすごくあったのではなかろうか。今、パソコンが売れている要因の1つは、間違いなくWindows発売のお祭り騒ぎにあると思う。
いや、どうもWindows発売のお祭り騒ぎの肩を持ちたくなるのは、個人的な理由からかもしれない。実はWindows 95以来、過去3回の発売カウントダウンのときには、私は特命を帯びて仕事をする……というと、格好いいのだが、私の所属する媒体の編集長からは「(私のことを)取材者の頭数には入れられない!」という冷たい言葉を浴びせられるくらいだったから、ほとんど趣味の世界ともいえるのだが、私は日本法人の社長に張り付いていたのであった。
4回の発売時それぞれ、当時の社長がどこで、何をして発売直後の時間を過ごしたかは、下記の表の通り。(なお、表の中の肩書きはすべて当時のもの。)
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
こうした事実に加え、そのときの些細なエピソードを思い出すと、マイクロソフトの戦略やら、経営陣の思惑やらが透けて見えるように思う。
Windows 95のときには、成毛社長(当時)に「夕べは眠れなかったとか、食べ物が喉を通らないなんてことはなかったんですか?」と質問したら、「そんなことあるわけないだろう」とあっさりいうので、ちょっと拍子抜けしたような気持ちがした。でも、販売店のひとつひとつにあいさつ回りをし、発売後、秋葉原に人があふれかえった様子を売り場が閉められていたラオックスの店内から見て、「すごいなあ!」と本当にうれしそうな表情をしてみせたことや、「おい、ちょっとビルに電話をしてみろよ」と米国に電話をさせた(ちなみに、米国では早朝にあたる時間だったため、ビル・ゲイツ氏はまだ出社していなかった)……なんてことを思い出すと、成毛社長以下、かなりの緊張と興奮で、Windows 95発売というイベントにのぞんでいたことが今なら分かる。
社会現象ともいえるお祭り騒ぎに、販売店の幹部もハードメーカーの幹部も、本当にうれしそうだったことを思い返すと、さながら青春の1ページ……のような気さえする。
Windows 98のときには、「まさかWindows 95のときのように人は集まらないだろう」との予測があったものの、ふたを開けてみれば、やはりお祭り騒ぎ。マイクロソフトのスタッフも確かな手応えを感じていたようだったし、販売店は「これで売れ行き不振が解消される」と本当にうれしそうだった。現在の日本法人の社長である阿多氏は、営業担当役員という立場だっただけに、この夜の成功がことさらうれしそうで、「一人になったら、泣いちゃうかもしれない」と満面の笑顔でつぶやいていたことが忘れられない。
Windows 2000は、パッケージの発売は世界の中で日本が最初ということで、米国からのテレビクルーが取材に来ていたのだが、なんといっても成毛社長がカウントダウンに姿を見せなかったことに大きな違和感を覚えざるを得なかった。その後、ほどなくして成毛氏社長退任が決定したところをみると、Windows 2000発売時点で、すでに成毛氏の心中は決まっていたのだろうと今になって思うのである。
また、阿多氏が部下をねぎらい、「お前たち、本当によくやった」と声をかけていた様子を見ると、普段クールに見えても、実は体育会系の特質の持ち主であることが本当によく表れるのは、Windows発売の夜なんだなあ……とあらためて思ったりもしたのであった。
しかし、残念ながら、今回は阿多社長は姿を見せなかった。公式には、「社長が来ることはありません」といわれていたので、分かってはいたのだが、Windows 2000のときには、「来ない」と言っていたくせに、秋葉原を訪れたという実績もある。さらに、「発売日によそで静かにしているなんて性分じゃないもん」と阿多社長が言ったのを聞いていたので、今回ももしかすると……と思って、期待していたのだが。
実は発売前日の2000年9月21日(木曜日)、米本社のスティーブ・バルマー社長が来日し、富士通と共同で記者会見を開いた。このため、阿多社長はバルマー氏に同行して、顧客回りとやらで時間をとられていたようだ。「もしかして、バルマー氏、秋葉原に来る?」という噂(憶測?)も一瞬だけ流れて、「そうなると、マイクロソフト、Windows Meを本気で売るっていう証明になる 」なんて声もあったのだが、発売当日の午後にはバルマー氏は東京を発ったようだ。残念……。
なんだか、社長ウォッチャーとしては拍子抜けしたWindows Me発売日なのであった。
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
- 止まらぬ架空請求メール――メディアリテラシーをどう啓蒙するか
- ピープルソフトのJ.D.エドワーズ買収は無意味――単なる“肥大化”では誰も幸せになれない
- Yahoo! BBのモデム所有権移転の波紋 ――高まる個人情報保護への関心
- ネット上で濃密な営業活動は可能か?e-detailingに取り組む製薬業界
- IT市場“最後の聖地”を制するものは? 地方・中小企業のITコミュニティは成立するか
- ITベンチャー不祥事が示すニッポンの課題 経済再生のカギは“ベンチャー経営者”
- 新しいネット広告モデル「PPCSE」が開く未来 検索エンジンの“広告”への取り組み方
- 楽天に騒動、再び?巨大モールとプロ加盟店の温度差
- よみがえれ、公衆無線LAN 課題はローミングとビジネスモデル
- ソフトバンクが日本テレコムを買う? ADSL第2ステージの波紋
- 銀行は事態の深刻さを認識しているか? ネットバンキング不正利用事件の問題の本質
- NTT東西、IP電話参入の“奇策”ISP全面進出を総務省に迫る
- 今年はIP携帯電話に注目 定額化は本当に可能なのか
- 通信行政がソフトバンクを追い詰める? NTTと総務省の包囲網
- “幻”の「情報通信庁」 そして、電話料金の値上げが残された
- 勝ち組アスクル、ビジネスモデルの本質 年間売り上げ1000億に到達するその成長の要因は?
- IP電話を直撃するNTT接続料の値上げ そのとき、総務省IT部局は──
- ウイルス感染メール対策に大きな取り組みを 個人的、対症療法的防衛策では限界も
- 非接触ICカード、急普及の背景 到来する本格的ワン・トゥ・ワン・マーケティング時代
- ドコモは、iモードに学べ NTTドコモ第3世代戦略成功に必要なこと
- 地方自治体は、IT化にもっと知恵と発想を アウトソーシングの積極的活用も
- 要注目! 中国ネットビジネスの経営者たち 若くて優秀、野心家でもある
- e-Japanに地方自治体はついていけるか? 技術の伸展に追い使いない法的、人的環境整備
- SE派遣業をもう一度考える 読者からのお便りに答えて
- こんなに便利な欧州の旅行・観光サイト ネット活用でワンランク上の欧州旅行を実現
- eデモクラシーが日本を変える 市民の政治参加を促進するインターネット
- HTMLメール普及を狙う広告業界 嫌われ者は受け入れられるか?
- ケータイの明日はどっちだ PDAとの戦いの鍵は“ライトユーザー”
- ソフトバンクに迫る危機 日本IT業界の雄の行く末は?
- 住基ネット、導入するならとことん利用すべし 混乱を招く総務省の説明
- 情報漏えいは防げないのか 厳しいペナルティとアクセス制限、どちらが有効?
- SE派遣業者に職安が違法警告 ネット時代に対応できない現行の法制度
- 「ワン切り」は“通信”か? 想定外の「被害」に悩むNTTと総務省
- 中古車業界、ネットで大変貌の予感 ネットークションでクルマを売買する時代
- 大再編必至のプロバイダ業界の行方 メガコンソーシアム誕生と@nifty売却騒動の背景
- 楽天の野望、1兆円構想の現実味 日本屈指のオンライン・ピュアプレーヤーの行方
- 銀行界を震撼させたネットバンキング不正送金 拡大するインターネットバンキングに暗雲
- アイススポットでほっとする時代 総務省研究会の予測を“読む”
- 日本最初の電子投票を検証する電子投票本格導入への課題とは
- セキュリティ以前の問題としての情報管理 ネットの信頼を低下させるお粗末企業の問題
- モバイルはネットビジネスの主役か? 携帯電話インターネットの快進撃はどこまで続く
- パソコン値上げが招く最悪のシナリオ 果たしてメーカー・販売店の淘汰は起こるのか?
- 社会的弱者のためのインターネット 技術が解決できる問題と解決できない問題
- 不動産業界が推進するブロードバンド三浦家ブロードバンド化までのてん末
- 進まない地上波テレビのデジタル化 放送業界と家電業界が消極的な理由
- 経営者が求めるこれからの技術者 ビジネスを語れるエンジニアの必要性
- メガバンクに見るITへの意識 UFJの失敗に学ばなかったみずほから何を学ぶか?
- 1円入札のメカニズム 調達サイドの制度と能力をめぐる不安
- 本格普及迫る“IP電話”の課題を考える 急展開するIP電話をめぐる議論に利用者も声を
- 2002年、NECはトップシェアを維持できるか?魅力ある商品作りが最大の課題
- パソコン紛失で経験したドタバタ劇 失われて分かるバックアップの大切さ
- “ビル・G、大サービス”の真意を探る世界一リッチな人寄せパンダの意味
- 新型iMacはアップルの未来を拓くか?デジタルハブ実現のためのアライアンスは可能か
- 迷惑メール、規制の動きと有効性 効果的な迷惑メール防止策はあるのか?
- 法人ビジネスはショップを救うか?ザ・コン館リニューアルに見る店舗の新しい可能性
- インパクの“失敗”を総括する そして消え去ったインターネット博覧会
- グランドデザインなき日本のリサイクル 理念を忘れたパソコンリサイクルはどこへ行く
- IT業界にとってテレビCMは有効か?“お奉行さま”が示したインパクトと効果
- 本格的インターネット時代に求められるもの 2001年を振り返って──
- パッケージソフトが見せる次なる進化の方向 ネットワーク機能の搭載が示す新しい可能性
- ウイルスメール、最大の対策は? またまた猛威を振るうWindows狙い撃ちのウイルス
- Windows XP不発、変化を迫られるPCビジネス 伝統の深夜発売もこれが最後?
- FOMAの実力・サービス2カ月間の実感は?動画配信サービス「iモーション」を評価すると……
- ドコモの対策に迷惑メールを考える 通信業者側の対応は功を奏するか
- 秋葉原、Win XP深夜販売の反応は? OEM版深夜発売イベントに1000人が参加
- 情報端末化するクルマ進化の方向性 東京モーターショー見聞記
- チャプター・イレブンを連発する米IT企業 ITバブルの後始末も本番に
- 量販店戦国時代の始まり ヨドバシカメラの秋葉原進出を斬る
- まだまだ奥深い集合住宅のラストワンマイル 技術だけでは解決できない深い問題
- 集合住宅ブロードバンド化問題の深さ 国レベルでのグランドデザインが必要
- 全米同時多発テロとインターネットネットワーク社会はどのように反応したか?
- パソコン・リサイクル料金の徴収はいつがよい?購入時徴収か、廃棄時徴収かで揺れるPC業界
- 韓国に見るブロードバンド・ビジネスの未来 ブロードバンドでコンテンツ・ビジネスは花開くか?
- 逆風のいまこそ、ITの真の必要性を考え直す 成長は終わっても、革命は未だならず
- ウイルスは「怖い」か?対策があっても流行する“悪意のプログラム”
- パソコン専門店に迫る存亡の危機eコマース成功ジャンルの陰で
- デジタル放送の未来はどこにある?いよいよ始まる“ブロードバンド”との対決
- 景気に足をひっぱられるIT業界下期の企業需要に暗雲か?
- どうなっちゃうんだ秋葉原巨大アダルト・ショップが登場した電気街
- マイライン、大丈夫?10月には駆け込みで「登録ラッシュ」到来も
- 宣伝にどどまらないメールが成功のカギインターネットマーケティングのキモは人材
- Bフレッツのムラはいつ解消するのか?情報化社会と通信事業者の社会的責務
- 光アクセス回線が生み出すデジタルデバイド──先進地区の落とし穴
- 「情報化白書2001年版」を斬る!弱気な表現も、現状の課題を把握
- Windows XPの重い足かせ──メーカー戦略と販売現場の間で
- ブロードバンドサービスの夜明け競争してこそのサービス向上
- Lモードは、ビジネスチャンスがいっぱい?前評判も、ユーザーの盛り上がりもパっとし ないが……
- 伸び悩むパソコン出荷厳しさ増すパソコン・ベンダの収益
- Windows XPはユーザー志向か?USBが主流に〜激変するユーザーの好み
- e-Japan戦略に参加しようわれわれの生活に変化をもたらす施策にもっと関心を
- 寝た子を起こしたリサイクル法すき間だった中古市場が脚光を浴びた結果は?
- ユビキタスで世界は変わる?〜結局は情報の質次第〜
- 電子マネー、普及の障壁〜電子マネーならではの魅力はあるか〜
- 本当にBtoCに未来はないのか?〜パソコンショップに見る、BtoCの実情〜
- 大人になったソフト・メーカー20年の時を経て、コンシューマから法人マーケットへ
- 電子署名法が抱える悩み〜2001年4月施行、われわれへの影響は?〜
- PDAはニッチ市場から脱出できるのか?〜もう1つの敵は、やはり「iモード」か〜
- 「クリック」を飲み込む「モルタル」〜既存ブランド企業とオンライン企業の融合〜
- 国産 vs. 外国製、メインフレームに変化の兆し〜 地方自治体にみるコンピュータ産業史〜
- インパク、利用者の不満はどこ吹く風〜政府は大まじめでも、開始1カ月で不評も〜
- 違法コピーソフトをめぐる現状〜 暴力団も続々参入〜
- 「マイライン」に隠された謎〜過熱する登録誘致合戦、そこにある本当の狙いとは何か〜
- 続 パソコンを安く買う方法!
- 「次世代」は実現するか?〜21世紀、IT業界の俯瞰図〜
- 三浦選!2000年を彩るニュース(2)〜 びっくり重大ニュース 〜
- 光ファイバ通信、本格化の兆し〜NTTがメガメディア構想前倒しへ〜
- 三浦選!2000年を彩るニュース(1)〜 変わった!日本の社長 〜
- ボーナスでPCを安く買う方法はこれだ!〜 2つの裏技をご紹介 〜
- オンライン書店、戦国時代の到来〜アマゾン・コム日本上陸で役者はそろった〜
- 年賀状作成ソフトが人気を呼ぶ秘密〜 コンビニ感覚にうったえる商品開発を 〜
- ITで地価高騰? 地価下落?〜命運分けるのはインフラ整備〜
- マイクロソフトにとって大事なのはどっち?〜 Windows Me or Windows 2000 Datacenter Server 〜
- インターネットは個人情報の敵?個人情報保護法制大綱決まる
- ブロードバンドは世界を変えるか 実証実験も始まり、ますます競争が激化
- Windows Me(「ウィンドウズ ミー」)発売〜日本法人社長のカウントダウン〜
- 「楽天」だけが一人勝ち?オンライン・ショッピングモール最新事情
- 売れているのに儲からない?〜 不思議な会社 ジャストシステム 〜
- 日本の流通に一石を投じたiMac〜商品力で営業力をカバーした2年間〜
- 女性向けの次は“キッズ向け”?ポータルサイトのコンテンツ事情
- 「マイクロソフト日本法人ストックオプション利益申告漏れ」報道にみる税制問題
- 最近流行のインキュベート事業に思うこと〜本当に日本に根付きプラスとなるかは今後の動向しだい〜
- 変貌続くネット広告業界
- WonderWitchが拓くPDAの新プラットホーム
- 2000年夏商戦〜名実ともに躍進してしまったソニー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.