マイクロソフトにとって大事なのはどっち?〜 Windows Me or Windows 2000 Datacenter Server 〜:IT Business フロントライン(9)
前回、「Windows Meの発売開始時点、阿多親市社長は秋葉原にはやって来なかった。寂しかったよ」と書いた。ところが、後日、阿多社長本人に確認したところ、あっさり「秋葉原へ? 行ったよ、7時30分ごろに」という答えが返ってきた。それを聞いた私は途端に青ざめ、「えええ???」と叫んだ。ということは、前回私が書いた内容は「誤報」ということになるじゃないか!
余談ではあるが、すわ誤報かと、大慌てでアットマーク・アイティ編集局に駆けつけた私に、新野編集局長はとても冷静に、大人で、優しい対応をしてくれた。「次回の原稿で、そのあたりを書くということで対応しましょう」と。ありがとう、新野編集局長!
Windows 2000 Datacenter Server発表会
それはさておき、よーく考えてみると、19時30分に秋葉原を訪ねたということは、発売セレモニーのためではなく、「現場が気になって、様子を見にいった」というニュアンスの方が強いのではないか。マイクロソフトの広報部門にしても「公式に阿多が参加するということは一切ありません」と明言する一方で、「阿多本人が個人的に現場に行くということはあるかもしれません……」と話していた。ならば、「Windows Meの発売に阿多社長が来なかった」という記事は、あながち間違いではないと言える。なーんてことを、直接阿多社長に確認することができたのは、「Windows 2000 Datacenter Server発表会」でのことだった。
さて、この発表会、列席していたマイクロソフト幹部の顔つきはかなり熱かった。「この製品に命運がかかっているんだから」と、私の顔を見て宣言した幹部がいたほどである。だが、会場の雰囲気はそれほど盛り上がったとは言えない。むしろ、「マイクロソフトの発表会で、しかも、ハードベンダーの首脳陣を6人もそろえたっていうのに、こんなに空席が多いのは初めて見た」と話す記者もいたくらいだ。
予想に反して盛り上がりにかけた発表会
何故、マイクロソフトの思惑に反して、この発表会は盛り上がらなかったのだろうか。
今回に関しては、マイクロソフトが日本市場を重視していることを裏付けるかのように、発表会は米国より先に行われた。日付では同じ2000年9月26日なのだが、時間差のせいで日本が先となった。米国での発表には、アンダーセン・コンサルティング、コマースワン、コンパック、インテル、SAP、ユニシスなど、有名どころのITベンダーの首脳陣がずらりと顔をそろえた。これを受けて日刊紙は記事を書いていたが、当の日本での発表会については、さほど大きく取り上げられたとは言えない状況となってしまった。
おそらく、米国での発表が先で、その様子が報道されていたら、日本の発表会ももう少しインパクトを与えたかもしれない。本来、日本のマスコミは、「世界に先駆け、日本で最初に」といった表現が大好きなのだが、今回の発表に関しては、なぜかそういう受け止め方はされなかった。逆に「マイクロソフトのたくさんある発表の1つ」ととらえられてしまったように見える。
社運をかけた戦い?
しかし、「Windows 2000 Datacenter Serverには、わが社の命運がかかっている」と話したマイクロソフトの幹部は、「焦点はWindows Meじゃないんだ!Datacenter Serverなんだよ!!」と訴える。
ご存じのように、マイクロソフトが本格的なエンタープライズ領域に参入するのは、これが初めて。「ミッション・クリティカルな領域にもWindows 2000は着実に利用されている」と発表会の席で、阿多親市社長は強調したけれど、それを「認めない」という意見も少なくない。
例えば、「エンタープライズ領域のOSとしては、メインはあくまでもHP-UX。なぜなら、HP-UXは基本的にはプロセッサの数に制限がないのに対し、Windows 2000 Datacenter Serverは最大で32プロセッサ、メモリサイズもずいぶん小さく、信頼性も劣る」(NECソリューションズ・小林一彦執行役員常務)と、機能的に評価できないという見方があるようだ。
こうした声に反論するためには、「1つずつ、実績を見せていくしかない」のが、エンタープライズ・ビジネスにおける掟である。真夜中の新製品発売イベントで、人を集めて盛り上がるというスタイルとは大きく異なる。それを自覚してか、「性根を据えてかからないと、マイクロソフトという企業は評価されない」という不安が社内に巣くっているように見える。
そのため、「Windows Meの発売の現場に、阿多社長には出向いてほしくない」との声が社内にあったと聞いた。要するに、「今、注力すべきは、企業向けエンタープライズ・システムであるということを社内に示すためには、Windows Meは大事じゃないと言い切ってほしい」のだそうだ。
しかし、阿多社長は非常に真面目な性格の方なので、まったく店頭に足を運ばないということができなかったのだろう。19時30分という中途半端な時間に秋葉原を訪れていたあたり、阿多社長の心の逡巡が透けて見えるように思う。
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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