2000年も11月に入り、パソコン・ショップの一番目立つ所に、年賀状作成ソフトが並び始めた。今年はアイフォーの「筆王」が"ミニスカポリス"、マイクロソフトが"ちびまる子ちゃん"を宣伝キャラクターに起用するなど、例年よりも賑やかに店頭が彩られている。
それなのに、「今年はいつもの年に比べて、どうも出足が鈍いみたいだねえ」と弊社のアナリストが顔をしかめていた。毎度おなじみ、弊社のランキング・データの数字がどうもあまり芳しくないのだそうだ。 「出足だからかねえ? 12月になってもこの調子だとちょっとやばいなあ」と盛んに首をひねる。
年賀状は電子メールに取って代わられるのか?
ちょっと自分の周りを思い出してみてほしい。年賀状を一生懸命書く人がどれくらいいるだろうか? 間違いなく、年賀状の需要は年々減っていると思う。そういえば、年賀状作成ソフトの需要が大きく伸びた1995年以降、取り扱いメーカーを取材するたびに、「今年はね、そろそろ去年ほど売れないと思っているんですよ」というコメントが出ていたっけ。
今から数年前、ソフトバンク・孫正義社長は、「年賀状なんてね、電子メールに取って代わられて、今になくなりますよ」と、あるパーティで言い切り、年賀状作成ソフトをたくさん扱うソフトバンクの流通担当者を真っ青にさせたことがあった。
確かに、年賀状作成ソフトをたくさん売っているメーカーからすれば、決して気分がいいコメントではない。だが、「孫さんのいっていることも、決して間違いではないよなあ」というのも本当のところで、実際に年賀状作成ソフト・メーカーからもそんな声が上がっていたのだ。
ただし、パソコン・プリンタ用年賀はがきは、昨年に比べ2.3倍増の6億3000万枚を発行したものの、早くも品切れとなり2900万枚の追加が決定したと郵政省が発表している。やはり、パソコンで年賀状を作る人はたくさんいるようだ。
ユーザーの求めているのは「おもちゃ」のようなソフトでは?
確かに、年賀状作成ソフトは、ここ数年、パソコン・ショップのソフト売り場を盛り上げることができる、数少ない商材の1つなのである。なぜかといえば、とにかく用途が分かりやすい。ワープロや表計算、データベースのように、「さて、これを使って何ができるのか?」などと考えなくてもいいのだ。とにかく年賀状を作るための商品なのだ。
だが、コンピュータ業界の人たちからは、「しょせん、年賀状作成ソフトでしょ」といった冷めた目で見られている部分があることも否めない。技術中心に発展してきたコンピュータ業界にとって、単価も安く、用途が明確すぎる年賀状作成ソフトは「おもちゃ」みたいに見えてしまうのかもしれない。
しかし、大きな声でいいたい。「最近、パソコンを購入したユーザーが求めているのは、そういう分かりやすい、おもちゃみたいなソフトなんじゃないんですか?」
コンシューマ・ユーザー向けのソフトは案外少ない?
ここでいう「ソフト」とは、店頭で販売される、コンシューマ・ユーザーのためのソフトのことを指している。サーバ・ソフトや企業で使うビジネス・ツールとしてのソフトではない。同じ「パソコンのためのソフト」であっても、ビジネスで利用するソフトと、コンシューマ・ユーザーが利用するソフトに求められるものは、大きく違っているのだ。どうもそうした切り分けをせずに、ひとくくりに「ソフト」と分別することに、大きな無理があるように思う。
パソコンは、企業で利用するのに適した機種と、家庭で利用するのに適した機種が大きく枝分かれしてきた。代表的なのはiMacで、あれをワイシャツ着たおじさんがデスクで使う姿はどうもしっくりこない。
ところが、ソフトはどうかというと、売り場を見回してみても、家庭で使って楽しいソフトというのは案外少ないのである。もちろん、パッケージを見れば、家庭向けと思われるキャラクターもののオンパレードだけれど、「使って楽しく、パッケージ、販促、マーケティングまで優れたソフト」は案外数が少ないのだ。すぐに思い出せるところでは、各社の年賀状作成ソフトをはじめ、「ポストペット」やタイピング練習ソフトくらいのものだろうか……。
ソフト売り場に活気をもたらす商品とは?
特に年賀状作成ソフトはクレオの「筆まめ」、アイフォーの「筆王」、アジェンダの「宛名職人」など、複数のメーカーがしのぎをけずって、売り場を賑わせているのがとってもいい。パソコン売り場に活気をもたらしている。
そのうえ、これらのソフトは使い方が分かりやすいだけでなく、グラフィック・ソフトの技術がふんだんに使われているので、最新ソフトは最新パソコンでないと動かなかったり、メモリがたくさん必要だったり、新しいプリンタが欲しくなるなど、新たなハードの買い足し需要も促す。そうしたことも、パソコン・ショップが積極的に販売する要因の1つであろう。毎月、年賀状作成ソフトのような商品があれば、ソフト売り場は盛り上がるのだろうが……。
伸び悩むソフト販売の本当の理由
以前、iMacをテーマに取り上げたとき、「iMacが売れても、ソフトの売れ行きはほとんど伸びなかった」と書いた。この理由に関しても、「Macユーザーには違法コピーが多いのかもしれない」とか、色々といってみたものの、要するに、デザインがかわいいからという理由でiMacを買ったユーザーに「魅力的だと思わせるようなソフトが少なかった」のが本当のところだったのではないか。
確かに初心者が少なくないコンシューマ・ユーザーはソフトの技術を評価してくれないかもしれない。だが、そういう人たちに、パソコンの素晴らしさを分かってもらうためには、ソフトを開発している皆さんにふんばってもらって、1本でもよいソフトを作ってもらい、最高のマーケティングと、販促活動を地道にしてもらうしかない!と思うのだが、いかがなものか?
……というのも、ソフト・メーカーに取材をしていると、「パソコン本体に比べ、ソフトの出荷量はそれほど伸びなかった」という声が圧倒的に多いのである。
キーワードは「コンビニ感覚」
この状況を打破するキーワードの1つが、「最近の消費者動向にあった製品を開発し、適切なマーケティング、販促活動を行うこと」ではないかと思うのである。最近の消費者は、コンビニエンス・ストア感覚というのか、「素材を買ってきて自分で作るのではなく、すぐに食べられるものを好む」という傾向にあることは周知の通りだ。パソコン・ソフトも、コンビニと同様の消費者を相手にしているので、「分かりやすい!」「すぐ使える!」という年賀状作成ソフトが出荷数を伸ばしてきたのは当然のことだと思う。
ただし、惜しむらくはこの商品、やはり年賀状シーズンに売れ行きが集中するということだ。月替わりで、これくらいお店を盛り上げる商品があれば、パソコン・ショップに足を向けるお客さんも倍増するはずだと思うのだが……。
ソフト開発者の皆さん、そんなソフトを、ぜひよろしくお願いします!
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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