<今回の内容>
■ 高まる光ファイバへの期待
■ NTTの光化への取り組みはいかに?
■ 競争相手となる企業の強みは?
■ NTTの光ファイバ・ビジネスの展開は?
■ 光ファイバ開放の義務化をめぐる論争
■ 一般利用者にとっての光ファイバ・サービス
光ファイバで夢の広帯域マルチメディア社会の実現を−−NTTが光ファイバの需要開拓、市場創造のためのマーケット・クリエーション活動に取り組みはじめた。2000年12月26日から東京都23区および大阪市内の一部区域で、光ファイバを一般家庭まで引く「ファイバ・トゥ・ザ・ホーム(FTTH)」の試験サービスが始まる。
NTTによると、家庭ではインターネット接続事業者(プロバイダ)につなぐアクセス回線としての利用を想定しており、試験期間は半年。通信速度は最大10Mビット/秒だという。料金設定は、最低価格がマンションなどの集合住宅向けで3800円。基本メニューは1万3000円、企業向けの高スループットメニューは3万2000円となっている。このサービスは1996年に発表された「メガメディア構想」を5年前倒ししたもので、大容量通信ニーズの高まりは業界関係者の予想をはるかに上回っているといえる。
高まる光ファイバへの期待
例えば日本ガートナー・グループが2000年11月に行ったユーザー意識調査の結果では、広帯域サービス(ブロードバンド・サービス)として使ってみたいのは、1位がCATVで35.2%、2位がxDSLで23.5%、3位に光ファイバが22.8%で入っている。上位2つについては、すでにサービス開始、あるいは、開始のめどがたっており、なるほどと思える結果である。それらに比べ、次に来る光ファイバへの期待はかなり大きいといえる。
光ファイバは1本で銅線の2000倍もの情報伝達が可能なうえ、メタル・ケーブルよりも高品質な通信サービスを提供することができる。敷設コストは高いが、地球上に無尽蔵にある石英を原料としているので、資源の有効利用という点では、銅を原料とするメタル・ケーブルよりはるかに合理的だということだ。
NTTの光化への取り組みはいかに?
実際のところ、光ファイバは各家庭に引きこまれている状態とはいえない。NTTがこの14年間で行ってきたのは、「き線」と呼ばれる加入者線幹線の光化で、都市部ではほぼ100%、全国規模でみても40%以上が光化されている。
今年初めまで、NTTはFTTHの実現について「コストが高く、光化に見合うビジネスとなり得るのか」(関係者)とかなり消極的だった。その背景には、すでに進めていた「フレッツ・ISDN」などの、IPネットワーク化したサービスに投じた費用を十分に回収したいという思惑ももちろんあったのだろう。
ところが、一転して、光化に積極的になったのには、猛追する他事業者の勢いに押されたことと、ビジネスとして広帯域コンテンツが急速に実体化してきたことが要因として挙げられる。
競争相手となる企業の強みは?
例えばCATV最大手タイタス・コミュニケーションズは、最大512kbpsのインターネット接続サービスを月額5500円で提供中。これはまだ同軸ケーブル程度のサービスにすぎないが、2001年には光ファイバを利用した高速サービスをすでに視野にいれている。
有線放送最大手の有線ブロードネットワークスは、子会社のユーズコミュニケーションズを通じて2001年4月、一般家庭向けに月額5000円程度で最大10Mbpsのインターネット接続サービスを提供するとしている。これはまさに「NTTが2005年に予定していたFTTHサービスと同じ規模」(有線ブロードネットワークス)。すでに東京・世田谷区内で2001年3月までの実証実験にとりかかっている。
これら2社の強みは、もちろん自社で各家庭までリーチしたネットワークを持っていることが最初に挙げられる。しかし、それだけでなく、今後のビジネス展開で真に大きなプラスになるのが、音楽コンテンツや映像コンテンツのノウハウを放送事業からすでに得ていることだ。
大容量通信システムが必要な「リッチ・コンテンツ」の代表といわれる音楽と映像について、「例えばテレビと接続して利用できるセットトップボックスを開発し、一般家庭に提供できれば、インターネットをテレビで楽しむ層が飛躍的に増える」(ユーズコミュニケーションズ)。通信の大容量化が実現すれば、パソコンを使った従来のインターネットから離れ、さらに先のサービスを目指すことができる。
NTTの光ファイバ・ビジネスの展開は?
NTTは金沢で「FTTH金沢トライアル」を実施していたが、ここにきて社外パートナーを募り、ソフト提供サービスを「光コンテンツ」「光コマース」「光コミュニティ」に分類して本格的な開発に取り組みはじめた。一般ユーザーに向けたサービス提供をはっきりと意識した事業展開で、2001年4月には高速光インターネット接続試験サービス上で、光ソフト・サービス基盤を構築し、光の需要喚起を図ることも決めている。
すでに2000年12月、NTT西日本サイバー・ビジネス・ワールドを開始、2001年1月には「光サービス・アーキテクチャ・コンソーシアム」の設立を決めている。光ファイバ利用のビジネスにNTTがようやく本気になったわけで、今後は光ファイバによる広帯域通信がインフラの本命になりそうだ。
光ファイバ開放の義務化をめぐる論争
もっとも、光ファイバをめぐる論議はまだまだつきない。郵政省は2000年12月4日まで、光ファイバ開放をめぐる意見募集を行い、その結果15件の意見が寄せられた。「NTT東日本、西日本が敷設、所有している光ファイバ網を一般の通信事業者にも開放すべきだ」という議論が電気通信審議会で行われていたが、これについては、2000年12月中にも答申が公表される。
NTT側は意見書として「光ファイバの開放を義務化する必要なし」と郵政省に反論を述べたものの、「すでに開放は既定路線」(関係者)として、2000年12月中にほかの通信事業者に対して接続条件などを公開する準備にとりかかっているという。
光ファイバ網はNTT2社の地域網以外に、JRや私鉄などの鉄道会社、電力会社などが敷設している。もちろん、ほかの通信事業者も光ファイバ網はバック・ボーンとして全国に敷設。都市型CATV事業者や、有線ブロードネットワークスなどは個人宅までの光ファイバ網を持っており、外資系の通信事業者の中には、大企業顧客向けに東京・丸の内地区や東京・新宿地区に限定した光ファイバ敷設を行ったケースもある。
このためNTTの主張は、従来の電話網、いわゆるメタル・ケーブルと違って光ファイバ網は独占的なネットワークではないため、ほかの事業者との接続義務が生じる「指定電気通信設備」ではないというものだった。
しかし、電気通信審議会では、専用線サービスなどNTTが提供している企業向けの光ファイバ利用サービスでシェアが50%以上あることなどを理由に、光ファイバを「指定電気通信設備」と判断し、ほかの事業者への開放を義務化する方針をほぼ決めた。
NTTが2000年12月26日から受け付けるFTTHサービスでも、一般向けの基本メニューは1万3000円に設定しているが、接続料金がコスト見合いで決定されれば、競争関係にある他社が1万円を下回る価格で市場に参入してくるのは必至だ。
KDDIが2000年12月14日に発表した「ブロードバンド・アクセス・サービス」の計画によると、2001年3月にはFTTHに進出する見通しだ。同社のインターネット接続サービスDIONで、将来は一部地域で自前のアクセス網を整備。2001年3月からは当面、NTTの光ファイバを利用してのサービスに踏み切るという。
一般利用者にとっての光ファイバ・サービス
ところで、光ファイバによる高速通信サービスが提供されることで、一般の利用者にはどのようなメリットがあるのだろうか。ただでさえ、ISDN・テレホーダイ、フレッツ・ISDN、ADSL、CATV事業者による常時接続、地域によっては試験サービス中の無線接続や光ファイバ利用の高速通信など、最近の通信事情はどんどん複雑化する一方。何が自分の通信ライフに最もふさわしいのかを考えるだけでもひと勉強必要だ。さらに周辺機器や手続き、家庭内工事のことを考えると頭が痛くなってくるのは事実。
また、フレッツ・ISDNでは申し込みが殺到して半年たっても工事が行われないケースが相次ぎ、利用者の怒りの声がわき上がったものだが、実は光ファイバ・サービスでもそれに似た状況が想定されているのだという。いずれにせよ、魅力的なコンテンツがあればインフラ普及はあっという間に進むのは、パソコンやVTRの例で分かっていること。NTTおよびライバル各社の今後の奮起を期待したい。
Profile
磯和 春美(いそわ はるみ)
1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。
メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp
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