インパクとは? URL:http://www.inpaku.go.jp
政府が主催する、インターネットの世界を会場にした「インターネット博覧会」(愛称・楽網楽座)の略称
人々がインターネットを始めるきっかけとなることや、新しいインターネット技術のアピールの場を提供してIT(情報技術)革命を推進することなどを目的に、2001年12月31日までの1年間、オンラインで開催される博覧会だ
地方自治体、企業、NPOなどがパビリオンに見立てた203に及ぶWebサイトを開設、それらを結ぶインパクゲートの設置。団体や個人が、Webサイトを開設して自由に参加することも可能
インターネット博覧会、略して「インパク」がテレビCMに森喜朗首相まで担ぎ出し、鳴り物入りで始まって1カ月。インターネットの普及を狙い、1年間にわたって開催される政府のオンライン・イベント企画はこれまでのところ、Webサイトの1日当たりのページビューが200万前後で推移しているそうだ。
だが一方で、動画など、高速通信を意識したコンテンツには「重い」「つながりにくい」などの批判が殺到。コンテンツそのものも、はっきりいって面白みのあるものは少ない。
自治体は観光ガイドとふるさと自慢、企業のパビリオンもどこかで見たような切り口のテーマが多いような気がするのは私だけではないようだ。オンライン上での意見を集めてみると、なかなか厳しいものが多いようだ。
政府側はいまだにのんき?
「インパク」は内閣総理大臣官房が中心になった新千年紀記念事業。2000年12月には森喜朗首相をひっぱりだしたテレビCMを流し、開会式当日の「全国日没動画中継」では、官邸から森首相の「21世紀の新しい国際行事、人類の新文化となることを期待しています」というメッセージまで中継し、国を挙げた行事であることをアピールした。
その目的は、まずインターネットの娯楽性を強調し、これまでIT革命に距離があった層にもインターネット利用を拡大することにあるのだという。2001年1月のネットレイティングスの視聴率推計によれば、40代以上の視聴率が高いという結果が出た。これはある意味、政府の思惑どおりともいえ、実際にインパクを切り盛りする新千年紀記念行事推進室の藤岡文七室長も思わず頬を緩めていた。
高い経済効果が見込めるというが……
政府によると、インパクは「低コストで高い経済効果が見込める」という。最終的には300を超える参加Webサイトを、わずか18人の室員と、計78億円の予算で仕切る予定だそうだが、実際には人件費、霞ヶ関の設備利用費、さらに今後膨らむであろう運営コストはカウントされていない。
見込める経済効果にしても、どうも割り引いて考える必要がありそうだ。例えば、個人が支払う高い通信費などは、日本の情報通信産業が公平な競争制度下にないがゆえに、負担せざるを得ないコストであり、決して前向きな経済効果とはいえないのではないか。
政府が「インパク」を企画したのは、インターネットで欧米諸国に後れを取っているという認識からだった。「インパク」を企画した堺屋太一・元経済企画庁長官(現内閣特別顧問)は、「遅れを取り戻すには必要なものが3つある。光ファイバ網を拡大させる。これによって高速でインターネットができるようになる。ソフトの技術を高める。便利で楽しいコンテンツをつくる」と羅列。インターネットの利用度と媒体としての価値を高めることを目的に、博覧会を考えたそうだ。
しかしながら、担当大臣は現在の麻生太郎氏ですでに3人目。言い出しっぺの堺屋氏はともかく、政府内部で、どこまでインパクに対するコンセンサスが形成されているのかが疑問だ。実際に、ある官僚は「政府や永田町に呼びかけて、インパクを盛り上げてもらおうとか、よく見てもらおうとはしていない。あくまでインパクは一般の人向けだから」と話す。
個人的な感想ではあるが、「いったい、あの森首相のCMはなんだったのか」と思うし、なにより税金をつぎ込んだイベントなのだから、税金の使い道をチェックするという意味では、議員の皆さんにはぜひしっかりと見ていただきたいと思う。
インパクの顔ぶれ
政府は「インパクゲート」と呼ばれる、インパクへの「入り口」にあたるサイトの編集・運営を行っている。このページの企画は、月替わりで選任された編集長が行うことになっている。
2001年1月はコピーライターの糸井重里さんだった。2月は作家の荒俣宏さん。3月以降、エッセイストの清水ちなみさん、メールソフト「ポストペット」の開発者でメディア・アーティストの八谷和彦さん、歌舞伎の中村勘九郎さん、作家の田口ランディさん、元米米CLUBの石井竜也さん、スポーツキャスターの栗山英樹さんなど、ユニークな顔ぶれがそろう。
政府主催のWebサイトは「20世紀2001大事件」と、「2001年日本の2001人」の2つ。政治、経済など20項目から各100事件を選び、画像や音声を公開。一般から意見を募集して、最終的にその各項目における20世紀の10大事件と、全ジャンルを通じての最大事件を選ぶというものと、20世紀に生まれた日本人2001人の顔や姿、声などをWeb上に残すという試みである。
利用者からは不満も
ところでせっかくの企画も、インフラの未整備などによって、スタート直後から水をさされることになった。インパク開会式のイベントは2000年12月31日夕刻から行われたのだが、日本全国を結ぶ「日没中継」に予想以上のアクセスが殺到。3時間余りにわたってサーバにつながりにくくなってしまった。
実際、同日午後7時30分までに約240万件のアクセスがあったのだが、これが予想していた数値の20倍以上だったのだという。これを聞いてあるインターネットのネットワークを手がける企業の広報は「うそでしょう? たったそれくらいでサーバがあふれてしまうんですか? 分散処理などはしていないんでしょうかねえ」と嘆息した。少なくとも、Yahoo!やgooレベルの運用技術水準であれば、問題なく処理できるアクセス数であったことは間違いない。
また、推進室に寄せられる意見の多くが「インパクのコンテンツが重い」というもの。藤岡室長は「インパクには、開催目的の1つに、広帯域通信時代における次世代のコンテンツ制作を担うような、新しい発想を持つアーティストを育てるというのがあって、flashと呼ばれる動画コンテンツを多く使っている」と説明している。
こうした動画を一般の人が自宅のパソコンで気軽に楽しむには、広帯域コンテンツの送受信がしやすい光ファイバなど、通信インフラの整備が整うことが前提となる。しかし現実には、インパクを視聴する環境としては最大速度128kbpsのISDNを利用している人が多数とみられ、動画をスムーズに楽しむには力不足の感が否めない。
藤岡室長は「コンテンツが重い、見づらいというご意見に対しては、テキスト対応ページを増やすなどして対処したい」と話すが、それでは本末転倒になりはしないだろうか。
また「税金を投入しているイベントなのに工事中のサイトが多い」「自治体サイトに間違いが多い」などの苦情は、すでにオンラインでぽつぽつと出始めている。こうした苦情に対して、政府は「1年間にわたるイベントなので、徐々にそろえていき、不具合は随時修正するという方向で対応していきたい」(藤岡室長)と答えるにとどまった。
面白いコンテンツは?
とはいっても、インパクにもなかなか面白い企画がある。2001年1月のインパクゲートの編集長を請け負った糸井重里さんは、編集テーマを「混とん」とし、サイト内のボタンをクリックすると、飴細工や紙芝居といった伝統芸能から、クール(かっこいい)といわれるサイトまで、さまざまなものが詰め込まれたおもちゃ箱のようなしくみのページを作り上げた。
地方自治体が運営するWebサイトの中で話題を集めているのは高知県だ。橋本大二郎知事の知事室を24時間、ネットでライブ中継しているのだ。音声はないが、いろいろな人が訪ねてくる知事室の様子は一般の興味を引くらしく、順調にアクセスを集めているという。
さらに、今後は自由参加のサイトも徐々にリンクされていく予定で、政府や自治体、企業の発想とは異なるコンテンツが増える予定だ。コンテンツさえ面白ければインパクの盛り上がりは必至。今後のコンテンンツの充実に期待が集まるところだ。
Profile
磯和 春美(いそわ はるみ)
1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。
メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp
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