苦境に立つBtoCサイト
最近、ネットバブルがはじけた米国から、「BtoCサイトの苦境」を伝えるニュースが次々に入ってくる。華々しく登場したBtoCの新会社が、規模を縮小したり、倒産したりする憂き目にあっている。極端な意見としては、「BtoBに未来はあっても、BtoCに未来はない」というものまである。
「BtoCサイトが苦戦している」との声は、日本で取材していてもまったく同じである。むしろ通信販売が発達している日本の方が、米国よりもなおのことBtoCには適さないという指摘もあるくらいだ。
だが、1年前は決してBtoCに厳しい声ばかりではなかった。特に、ECの先端といわれるパソコン販売においては、「将来、すべてのショップがなくなるのではないか」という見通しを示す人もいたくらい、もう本当に猫もしゃくしもBtoC向けのECサイト作りに励んだ感がある。
これが最近では「いや、実店舗は絶対になくなることはない」と実店舗の存在価値をあらためてアピールするショップ経営者が多くなった。実際にECサイトを運営した経験から、その問題点を認識したようなのだ。
なぜ、一時は実際のショップを駆逐する勢いがあったBtoC向けECがこれだけ減速しているのか。パソコンショップの実情からその謎に迫ってみたい。
パソコンショップに見るBtoCサイトの実情
まず、下記の表に示したのは、大手のパソコンショップにおけるECサイトの売り上げと店舗事業の売り上げを比較したものだ。
全店舗の売り上げ | EC販売の売り上げ | |
---|---|---|
ラオックス | 1755億円(2000年3月期) | 年商20億円(2000年度目標) |
ソフマップ | 1304億円(2000年3月期) | 年商100億円(2000年度目標) |
ムラウチ | 146億円(2000年3月期) | 年商30億円(2000年度目標) |
皆さんは、この数値を見てどんな感想を持たれただろうか。
いま、ECショップでは最大手といわれるソフマップが、年間売り上げ100億円という目標を掲げているわけだが、最大手でさえ100億円規模の年商にすぎない。ソフマップを追っている2番手グループの実情を聞くと、2000年に月商1億円をコンスタントに超えるペースとなり、調子がよいときには月商2億円を超えるペースとなったようだ。さらにこれを追う3番手以下のグループでは、月商数千万円レベルのところがほとんだ。
こうして数値だけを羅列しても実感がわかないかもしれないが、秋葉原の大手ショップでは1階にパソコン関連書籍販売フロアを設けているところがあるが、そのフロアで月に1億円の売り上げをあげているという話を聞いたことがある。
つまり、2000年に入ってようやく、大手ECサイトでは、実店舗のパソコン関連書籍フロアと同等、もしくはそれを超える売り上げ規模となったところなのである。華々しく見えるECサイトだが、売り上げ規模で見れば、まだまだ厳しいのが実情だ。
苦境に追い込んだのは売り上げを上回るシステム投資だった
ところで、BtoC向けECサイトが成功するために欠かせないのは、商品メンテナンスや顧客からの質問などに迅速に答えるために人手をかけることと、省力化できるところはできるだけ省力化するよう、システム面での増強を図ることだ。売り上げが順調に伸びてきたBtoC向けECサイトは、いうまでもなくこの2つの課題をクリアするだけの体制を整えている。
とはいうものの、月商2億円を超える売り上げをあげているところの話を聞くと、1日の商品販売件数は200件に及ぶという。200件の注文に即座にこたえながら、さらに購買前の質問、購買後の質問に答えるとなると、ECサイト専任の人材が不可欠となってくる。中には、10人のアルバイトを雇い、顧客からの注文に応じた配送を人手でこなしているというところもあり、収益はどんどん悪化する傾向にある。
人手をかけずに販売数量をアップしていくためには、配送まで含めたシステムの増強が必要になるが、そのための設備投資は、まだまだ売り上げの少ないBtoC向けECサイトにとっては、かなり思い切った先行投資とならざるを得ない。
BtoC向けECサイトの中でも、売り上げは伸ばしていながら、事業が左前になったところの内情を聞くと、システムへの投資額が売り上げを上回っていったということだ。
最近では、配送についてはメーカーや卸と連動し、ショップ側は在庫を持たず、メーカーや卸の倉庫から直接商品を発送する仕組みを採用し、配送面での手間を軽減する方式もある。
だが、これを利用するためにはある程度の売り上げ規模と信用があり、さらにシステム面でメーカーや卸と連動ができることが条件となることから、やはりある程度のシステム増強は避けられない。
BtoC向けECサイトでの商品販売に関しては「とにかく安さだけを追求する顧客が多い」とECショップは口をそろえる。「他店よりも、10円でも安ければ顧客は来るが、10円高くなれば顧客は来ない」とあるショップ経営者は苦笑いしていたが、ただでさえ収益が薄いところに、先行投資でシステムを増強するということになれば、決してECショップを経営するということは生易しい商売ではないということがお分かりいただけるであろう。この傾向、日本だけでなく、米国でも同様の根本的な問題点があったのではないか。
この厳しい現実から、BtoC向けECサイトに対する見方は厳しいものとなっているが、まだ「ECから撤退する」というパソコンショップの話は聞こえてこない。なぜか……ここが商売人ならではのたくましさかと思うのだが、「だってさ、ECは厳しいとは思うけれど、一応パソコンというITに直結するものを扱っているんだから、この時期、簡単にやめるわけにはいかないでしょう」と、見事に本音と建前を使い分けている。
ある大手ショップ経営者はこう指摘する。「配送、通信料などを考えれば、ECで商品を購入するというのは顧客にとってそう割安なものではない。もちろん、ショップにとっても決して収益面で大きなプラスがあるとはいえない。大体、BtoCに本当にビジネス・チャンスがたくさんあるとすれば、商売上手のデルコンピュータがもっと本格的に参入してきますよ。コンシューマの購買のメインはやはりショップになると思う」
本当にBtoCには未来はないのか?
では、BtoCには、本当に未来はないのか? そう疑問を持って取材を進めると、面白い意見に出合った。
「ソフマップさんのように、ナンバー1になろうと思わず、そこそこの売り上げをあげることを考えれば、ECだってそう悪くないよ」という意見である。これは地方の小さなショップの意見なのだが、「地方で、知名度のないショップを運営していれば、売り上げにも限界がある。そこにプラスアルファで数百万円、数千万円だけECで稼いで、店舗の売り上げと合算してみたら、実店舗だけの商売よりも面白い」というのである。
確かに、トップを目指し、売り上げを右肩上がりにしていこうとすれば、かなりの投資、スタッフが必要かもしれないが、現状のスタッフで、もう少しだけ売り上げを増やす手段としては、ECも悪くないといえるのかもしれない。
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
- 止まらぬ架空請求メール――メディアリテラシーをどう啓蒙するか
- ピープルソフトのJ.D.エドワーズ買収は無意味――単なる“肥大化”では誰も幸せになれない
- Yahoo! BBのモデム所有権移転の波紋 ――高まる個人情報保護への関心
- ネット上で濃密な営業活動は可能か?e-detailingに取り組む製薬業界
- IT市場“最後の聖地”を制するものは? 地方・中小企業のITコミュニティは成立するか
- ITベンチャー不祥事が示すニッポンの課題 経済再生のカギは“ベンチャー経営者”
- 新しいネット広告モデル「PPCSE」が開く未来 検索エンジンの“広告”への取り組み方
- 楽天に騒動、再び?巨大モールとプロ加盟店の温度差
- よみがえれ、公衆無線LAN 課題はローミングとビジネスモデル
- ソフトバンクが日本テレコムを買う? ADSL第2ステージの波紋
- 銀行は事態の深刻さを認識しているか? ネットバンキング不正利用事件の問題の本質
- NTT東西、IP電話参入の“奇策”ISP全面進出を総務省に迫る
- 今年はIP携帯電話に注目 定額化は本当に可能なのか
- 通信行政がソフトバンクを追い詰める? NTTと総務省の包囲網
- “幻”の「情報通信庁」 そして、電話料金の値上げが残された
- 勝ち組アスクル、ビジネスモデルの本質 年間売り上げ1000億に到達するその成長の要因は?
- IP電話を直撃するNTT接続料の値上げ そのとき、総務省IT部局は──
- ウイルス感染メール対策に大きな取り組みを 個人的、対症療法的防衛策では限界も
- 非接触ICカード、急普及の背景 到来する本格的ワン・トゥ・ワン・マーケティング時代
- ドコモは、iモードに学べ NTTドコモ第3世代戦略成功に必要なこと
- 地方自治体は、IT化にもっと知恵と発想を アウトソーシングの積極的活用も
- 要注目! 中国ネットビジネスの経営者たち 若くて優秀、野心家でもある
- e-Japanに地方自治体はついていけるか? 技術の伸展に追い使いない法的、人的環境整備
- SE派遣業をもう一度考える 読者からのお便りに答えて
- こんなに便利な欧州の旅行・観光サイト ネット活用でワンランク上の欧州旅行を実現
- eデモクラシーが日本を変える 市民の政治参加を促進するインターネット
- HTMLメール普及を狙う広告業界 嫌われ者は受け入れられるか?
- ケータイの明日はどっちだ PDAとの戦いの鍵は“ライトユーザー”
- ソフトバンクに迫る危機 日本IT業界の雄の行く末は?
- 住基ネット、導入するならとことん利用すべし 混乱を招く総務省の説明
- 情報漏えいは防げないのか 厳しいペナルティとアクセス制限、どちらが有効?
- SE派遣業者に職安が違法警告 ネット時代に対応できない現行の法制度
- 「ワン切り」は“通信”か? 想定外の「被害」に悩むNTTと総務省
- 中古車業界、ネットで大変貌の予感 ネットークションでクルマを売買する時代
- 大再編必至のプロバイダ業界の行方 メガコンソーシアム誕生と@nifty売却騒動の背景
- 楽天の野望、1兆円構想の現実味 日本屈指のオンライン・ピュアプレーヤーの行方
- 銀行界を震撼させたネットバンキング不正送金 拡大するインターネットバンキングに暗雲
- アイススポットでほっとする時代 総務省研究会の予測を“読む”
- 日本最初の電子投票を検証する電子投票本格導入への課題とは
- セキュリティ以前の問題としての情報管理 ネットの信頼を低下させるお粗末企業の問題
- モバイルはネットビジネスの主役か? 携帯電話インターネットの快進撃はどこまで続く
- パソコン値上げが招く最悪のシナリオ 果たしてメーカー・販売店の淘汰は起こるのか?
- 社会的弱者のためのインターネット 技術が解決できる問題と解決できない問題
- 不動産業界が推進するブロードバンド三浦家ブロードバンド化までのてん末
- 進まない地上波テレビのデジタル化 放送業界と家電業界が消極的な理由
- 経営者が求めるこれからの技術者 ビジネスを語れるエンジニアの必要性
- メガバンクに見るITへの意識 UFJの失敗に学ばなかったみずほから何を学ぶか?
- 1円入札のメカニズム 調達サイドの制度と能力をめぐる不安
- 本格普及迫る“IP電話”の課題を考える 急展開するIP電話をめぐる議論に利用者も声を
- 2002年、NECはトップシェアを維持できるか?魅力ある商品作りが最大の課題
- パソコン紛失で経験したドタバタ劇 失われて分かるバックアップの大切さ
- “ビル・G、大サービス”の真意を探る世界一リッチな人寄せパンダの意味
- 新型iMacはアップルの未来を拓くか?デジタルハブ実現のためのアライアンスは可能か
- 迷惑メール、規制の動きと有効性 効果的な迷惑メール防止策はあるのか?
- 法人ビジネスはショップを救うか?ザ・コン館リニューアルに見る店舗の新しい可能性
- インパクの“失敗”を総括する そして消え去ったインターネット博覧会
- グランドデザインなき日本のリサイクル 理念を忘れたパソコンリサイクルはどこへ行く
- IT業界にとってテレビCMは有効か?“お奉行さま”が示したインパクトと効果
- 本格的インターネット時代に求められるもの 2001年を振り返って──
- パッケージソフトが見せる次なる進化の方向 ネットワーク機能の搭載が示す新しい可能性
- ウイルスメール、最大の対策は? またまた猛威を振るうWindows狙い撃ちのウイルス
- Windows XP不発、変化を迫られるPCビジネス 伝統の深夜発売もこれが最後?
- FOMAの実力・サービス2カ月間の実感は?動画配信サービス「iモーション」を評価すると……
- ドコモの対策に迷惑メールを考える 通信業者側の対応は功を奏するか
- 秋葉原、Win XP深夜販売の反応は? OEM版深夜発売イベントに1000人が参加
- 情報端末化するクルマ進化の方向性 東京モーターショー見聞記
- チャプター・イレブンを連発する米IT企業 ITバブルの後始末も本番に
- 量販店戦国時代の始まり ヨドバシカメラの秋葉原進出を斬る
- まだまだ奥深い集合住宅のラストワンマイル 技術だけでは解決できない深い問題
- 集合住宅ブロードバンド化問題の深さ 国レベルでのグランドデザインが必要
- 全米同時多発テロとインターネットネットワーク社会はどのように反応したか?
- パソコン・リサイクル料金の徴収はいつがよい?購入時徴収か、廃棄時徴収かで揺れるPC業界
- 韓国に見るブロードバンド・ビジネスの未来 ブロードバンドでコンテンツ・ビジネスは花開くか?
- 逆風のいまこそ、ITの真の必要性を考え直す 成長は終わっても、革命は未だならず
- ウイルスは「怖い」か?対策があっても流行する“悪意のプログラム”
- パソコン専門店に迫る存亡の危機eコマース成功ジャンルの陰で
- デジタル放送の未来はどこにある?いよいよ始まる“ブロードバンド”との対決
- 景気に足をひっぱられるIT業界下期の企業需要に暗雲か?
- どうなっちゃうんだ秋葉原巨大アダルト・ショップが登場した電気街
- マイライン、大丈夫?10月には駆け込みで「登録ラッシュ」到来も
- 宣伝にどどまらないメールが成功のカギインターネットマーケティングのキモは人材
- Bフレッツのムラはいつ解消するのか?情報化社会と通信事業者の社会的責務
- 光アクセス回線が生み出すデジタルデバイド──先進地区の落とし穴
- 「情報化白書2001年版」を斬る!弱気な表現も、現状の課題を把握
- Windows XPの重い足かせ──メーカー戦略と販売現場の間で
- ブロードバンドサービスの夜明け競争してこそのサービス向上
- Lモードは、ビジネスチャンスがいっぱい?前評判も、ユーザーの盛り上がりもパっとし ないが……
- 伸び悩むパソコン出荷厳しさ増すパソコン・ベンダの収益
- Windows XPはユーザー志向か?USBが主流に〜激変するユーザーの好み
- e-Japan戦略に参加しようわれわれの生活に変化をもたらす施策にもっと関心を
- 寝た子を起こしたリサイクル法すき間だった中古市場が脚光を浴びた結果は?
- ユビキタスで世界は変わる?〜結局は情報の質次第〜
- 電子マネー、普及の障壁〜電子マネーならではの魅力はあるか〜
- 本当にBtoCに未来はないのか?〜パソコンショップに見る、BtoCの実情〜
- 大人になったソフト・メーカー20年の時を経て、コンシューマから法人マーケットへ
- 電子署名法が抱える悩み〜2001年4月施行、われわれへの影響は?〜
- PDAはニッチ市場から脱出できるのか?〜もう1つの敵は、やはり「iモード」か〜
- 「クリック」を飲み込む「モルタル」〜既存ブランド企業とオンライン企業の融合〜
- 国産 vs. 外国製、メインフレームに変化の兆し〜 地方自治体にみるコンピュータ産業史〜
- インパク、利用者の不満はどこ吹く風〜政府は大まじめでも、開始1カ月で不評も〜
- 違法コピーソフトをめぐる現状〜 暴力団も続々参入〜
- 「マイライン」に隠された謎〜過熱する登録誘致合戦、そこにある本当の狙いとは何か〜
- 続 パソコンを安く買う方法!
- 「次世代」は実現するか?〜21世紀、IT業界の俯瞰図〜
- 三浦選!2000年を彩るニュース(2)〜 びっくり重大ニュース 〜
- 光ファイバ通信、本格化の兆し〜NTTがメガメディア構想前倒しへ〜
- 三浦選!2000年を彩るニュース(1)〜 変わった!日本の社長 〜
- ボーナスでPCを安く買う方法はこれだ!〜 2つの裏技をご紹介 〜
- オンライン書店、戦国時代の到来〜アマゾン・コム日本上陸で役者はそろった〜
- 年賀状作成ソフトが人気を呼ぶ秘密〜 コンビニ感覚にうったえる商品開発を 〜
- ITで地価高騰? 地価下落?〜命運分けるのはインフラ整備〜
- マイクロソフトにとって大事なのはどっち?〜 Windows Me or Windows 2000 Datacenter Server 〜
- インターネットは個人情報の敵?個人情報保護法制大綱決まる
- ブロードバンドは世界を変えるか 実証実験も始まり、ますます競争が激化
- Windows Me(「ウィンドウズ ミー」)発売〜日本法人社長のカウントダウン〜
- 「楽天」だけが一人勝ち?オンライン・ショッピングモール最新事情
- 売れているのに儲からない?〜 不思議な会社 ジャストシステム 〜
- 日本の流通に一石を投じたiMac〜商品力で営業力をカバーした2年間〜
- 女性向けの次は“キッズ向け”?ポータルサイトのコンテンツ事情
- 「マイクロソフト日本法人ストックオプション利益申告漏れ」報道にみる税制問題
- 最近流行のインキュベート事業に思うこと〜本当に日本に根付きプラスとなるかは今後の動向しだい〜
- 変貌続くネット広告業界
- WonderWitchが拓くPDAの新プラットホーム
- 2000年夏商戦〜名実ともに躍進してしまったソニー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.