8月29日、日本ゲートウェイが撤退することとなった。すでに8月初めには、米国発で海外からの撤退が伝えられていたとはいえ、すべての店舗が閉まり、全従業員が解雇されるという事態は、「本当に元気がないIT業界」との印象をさらに強めたように思える。
IT業界は縮小均衡マーケットとなった
確かに今年の8月、IT担当の記者は各社が次々に発表する「リストラ」に関する緊急発表に追いまくられた。7月31日のNEC、8月20日の富士通、27日の東芝、31日の日立と大手電機メーカーが次々にリストラを発表していった。悪化しているのは半導体、通信関連事業で、「コンピュータ事業は決して悪くない」と注釈が付くものの、テレビ、新聞には「IT革命の終わり」という文字が飛び交った。
連日続く株安の原因となっているのもIT関連企業だし、「絶不調のIT業界」と後ろ指をさされても仕方がない外部環境がそろってしまった感はある。
本来、企業が導入するITシステムとは、経営をよりよくするために使われるもので、不況のときこそ強さを発揮するものだったはずである。IT革命と呼ばれたものが目指したのはまさにそれだったはずだ。それが、なぜ「IT革命の終わり」なんてことを報道されてしまうのか?
「IT業界は右肩上がり成長にずっと慣れてきたから、マーケットが縮小均衡状態になることに慣れていない」と、指摘するのは元マイクロソフト社長の成毛眞氏だ。いまは“IT業界から卒業”して、投資を行うインスパイアという企業を設立し、社長を務めている成毛氏の目には「縮小均衡マーケットに慣れていないIT業界は、投資する魅力がない」と映るのだそうだ。むしろ、ITとはまったく関係のない、いわゆるオールドエコノミーと呼ばれる古い産業こそ、「将来に可能性がある投資対象になり得る」という。
成長が正義だったネットバブル時代
IT業界で仕事をしている人間にとって、この発言には歯がみしたくなるような悔しさも感じるものの、これだけリストラといった暗いニュースが続くと、なぜ、こんな指摘をされることになるのか、真摯に受け止めて反省をしてみるのもいいのかもしれないと思い返してみた。
確かに、IT業界は右肩上がり成長を追い求める傾向が強い。1けた成長ではよしとせず、2けた、それ以上の成長を追い求めてきた。いまから数年前、米国ITベンダーの経営者が「これまでのような成長が続いていくわけではない」といったトーンで基調講演などを行う時期もあったものの、インターネット需要が拡大したことで、「IT業界の成長はさらに続いていく」とのトーンに一変した。
インターネットベンチャーがカーッと盛り上がっていたころ、「日本の起業家の皆さんは、米国の成功したビジネスモデルを持ち込み、日本で成功するチャンスがあるんです!」なんてことを声高らかに喧伝する人を見たこともある。見た瞬間、「あー、ネットバブルって本当だわ」と頭が痛くなったけれども、それぐらいのばか騒ぎ機運が1999年ごろの東京にあったことは事実だ。
とはいえ、そうしたバブリーな話ばかりではなく、地に足のついたIT活用はされているし、現代の経営にITは不可欠である。ユニクロ(ファーストリテイリング)、日本マクドナルド……伸びている企業には優れたITシステムが導入されていることは、あらためて記することもないだろう。
「売れるだけ売る」はもう許されない
だが、自戒を込めてあえて問いたい。本当に適正なシステムが、きちんと導入されてきたのか?
あれは1990年代の前半だったと思うが、ちょうどバブルがはじけた後、どこかの展示会で、パネルディスカッションが組まれた。司会は田原総一郎氏で、パネラーにはソフトバンクの孫正義社長や、アシストのビル・トッテン社長など、いまから思えばユニークな顔触れだったが、その中で田原氏が「コンピュータというのは、企業経営をよりよくするために導入するわけでしょう。本来はバブルがはじけた後、経営を強化するために、余計に必要性が増すはずなのに、なぜ、バブルが終わった後、需要が激減しているんですか」といった趣旨の疑問を呈したのだ。それに対して、IT業界側の参加者は、苦笑いを浮かべつつ、「いやあ、あの時代は、1台で十分という場合でも、2台、3台、持ってこい!という雰囲気がお客さん側にあったから……」という答えを返した。まあ、これは日本中がバブルに浮かれていた、特殊な時代の、特殊な逸話だとは思う。だが、そういう時代があったことも確かだということだろう。しかし、「右肩上がり成長しか知らない業界」なんてやゆされてしまうのも、よいときばかりを前提にして、冷静に苦しいとき、厳しいときに耐えられるビジネスの構築に苦心してこなかった結果のように思えてならないのである。
最近、相次いで発表になっている大手電機メーカーのリストラは、米国でのITバブルがはじけて、半導体、通信機器の需要が落ちていることが主な原因であり、日本でのコンピュータシステムの需要は決して落ちているわけではない。それゆえ、バブルがはじけた後のように、「浮かれて、不必要なシステムまで売り込んだ」ことのつけで、業績が悪くなったということは決してないと思う。
だが、「右肩上がりの成長期しか知らない業界」とやゆされないためにも、システムを作っている皆さんや、営業の皆さんには、必要なものだけをお客さまに勧め、不況のときこそ需要が出てくるITシステムを販売してもらいたい。
あ……原稿のほうも、皆さんに必要とされる記事を書き続けたいもんです……と、自戒を込めて……
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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