パソコンメーカー、ソフトメーカー、周辺機器メーカーなどを取材していると、いまメーカーが最も意識している販売店は間違いなくヨドバシカメラだと思う。商品の売れ行き、店頭での販促などについて質問をすると、まず返ってくるのがヨドバシカメラについての言及だ。
怒濤のヨドバシカメラ
メーカーばかりではない。それ以外にも、有名パソコン誌「月刊A」のE編集長が、ヨドバシのポイントカードで200万円分の買い物ができるくらいのポイントを貯めたとか、ヨドバシが発行する情報誌はこのご時世でありながらまったく値引きをせずに広告が満杯になっているとか、ヨドバシカメラに関しては景気のよい話題がよく耳に入ってくる。
1990年代の後半から、東京・秋葉原、大阪・日本橋などの電気街に代わり、カメラ量販店がパソコン販売における大きな地位を占めるようになったのは間違いのない事実といってよいだろう。
そのカメラ量販店の代表格・ヨドバシカメラが、ここに来て、さらにアクセルを吹かして、攻めに転じようとしている。
11月22日には大阪・梅田駅前に大規模自社ビル内の自社店舗「マルチメディア梅田」
をオープン。さらに、JR秋葉原駅に隣接する日本鉄道建設公団の所有地を取得し、大規模自社ビルと店舗をオープンする計画が明らかになった。これに加え、福岡県・博多駅前にも用地を確保し、同じように来年に自社ビルを建てる予定もあり、まさに怒濤の勢いで全国の主要都市に大規模店舗をオープンしていく計画なのである。そしてこの怒濤の攻勢は、これまでのヨドバシカメラの戦略とは一線を画したものとなっているのだ。
巨大自社ビルとなるマルチメディア梅田
大阪・梅田駅前の店舗は、「店舗作り」の面でヨドバシカメラの従来戦略とは大きく異なる部分がある。
大阪在住の方など、大阪に土地勘をもった人ならお分かりだろうが、梅田のこの店舗は一等地の中の一等地、梅田駅に隣接した場所にある。しかも、ヨドバシカメラは大阪への初進出に当たるのだが、その絶好の立地と建物の巨大さから1年前から進められているビル建設工事そのものが、大阪の人々に大きな宣伝となっていた。
しかし、この巨大ビルがヨドバシカメラを変えるかもしれないという。競合店の幹部いわく、「ヨドバシカメラのすごいところは、わざと雑然とした店作りをするところにある。顧客の心理とは不思議なもので、デパートのように整然としたきれいな店舗よりも、ゴチャゴチャした汚い店舗のほうが、モノが安いと錯覚しがち。ヨドバシカメラは意識して、そういう店作りをして顧客を集める演出をしていたと思う。ところが、新築の自社ビルとなると、これまでのゴチャゴチャした雑多な店作りはしにくいわけで、果たしてどういう店を作るのか、本当に見ものだ」──これまでのヨドバシカメラの方程式には当てはまらぬ店作りが必要だというのだ。
果たして、巨大で美しい新築のビルで、これまでの雑多なヨドバシカメラのパワーを発揮し、顧客を集めることができるのか、大きな挑戦なのである。
そして2005年ついに秋葉原進出
さらに、これまでのヨドバシカメラの戦略の大きな変更となるのが、秋葉原への出店である。
これは東京の鉄道路線図を見てもらうと分かりやすいのだが、ヨドバシカメラは秋葉原という電気街を避けるかのような場所に出店を続けてきた。東京の路線図を手にとって、ヨドバシカメラの店舗がある場所に印をつけていくと、新宿、上野、錦糸町と秋葉原を取り囲むような場所ばかりである。
これらのポイントに、ヨドバシカメラのライバルであるビックカメラ(ビックピーカン)が出店している池袋、渋谷、有楽町を加えると、カメラ量販店は、「通勤・通学に便利なターミナル駅に店舗を置くことで、わざわざ秋葉原に出向かなくてもいいように電気街を包囲していた」という図式が見て取れる。
そのヨドバシカメラが、自ら秋葉原に出店することを発表した。これは、それまでの出店戦略から大きく逸脱するものだといえる。大阪同様、ヨドバシカメラにとって大きな挑戦だろう。
満を持しての電気街進出ということもあってか、ヨドバシカメラが計画している秋葉原の新店舗には“仕掛け”が用意されている。この大型ビルには、収容台数900台におよぶ駐車場が作られる見通しだ。秋葉原といえば、駐車場不足が以前からの悩みの種で、秋葉原のショップの店主たちは東京都に、「国鉄跡地には駐車場を作って欲しい」と陳情していた。今回、その願いが聞き入れられて駐車場ができることになったのだが、そこがヨドバシカメラのビルの中──「そりゃないだろう」とあるショップ幹部は頭を抱えているとか……。
ヨドバシカメラとしても、これだけの規模の攻勢を掛けるからには、失敗は許されない。資金的にもこれまでのビジネスの規模を大きく上回る額が必要となるだけに、この戦略の失敗は企業としての死を意味する。負けられない戦である。
一方、同じカメラ量販店系のビックカメラ(ビックピーカン)が、有楽町・そごう跡地に大規模店舗を出店したのは、ヨドバシカメラを意識し、その差を縮めるための必死の戦略であるといえる。
まさに、カメラ量販店戦国時代が始まったのだ。
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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